第362話 世界最強再び

「ヴェルト。混乱に乗じて潜入はええけど、ほならはよ行ったほうがええな」

「そうだね。僕たちがたどり着く前に、亜人の軍が全滅していたら話にならないからね」


 ああ、そうだな。

 風を切るスピードをドンドン上げて、ジャックは飛ぶ。

 あの山の向こうで繰り広げられているだろう、亜人の弔い合戦。


「近づけば近づくほど、感じるな」

「ええ、この気配、近いわ!」


 すぐそこだ。

 聞こえてくる…………


 


「「「「「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」




 天地が震えるほどの獣たちの雄叫び!

 間違いねえ!


「居た! あそこだ!」


 そして、次の瞬間、山の頂上を超えた先にある大平原を埋め尽くす光景に俺たちは圧倒された。

 牙と殺意を剥き出しにした獣たちの反逆の光景。


「お、おい、結構多いぞ!」

「ああ、残党ゆうても、数万はおるで!」


 正に、全身全霊を持って平原を駆け抜け、勇猛果敢に突き進む亜人の軍の姿は、カー君の言う「魂」というものを感じさせた。

 そして、その魂をぶつけに行く敵は、魂無きカラクリモンスターたち。


「見て、カラクリモンスターたちも多いわ!」

「ワタクシたちの戦争では数百程度でしたのに、数千……いえ、もっといますわ!」


 大平原を埋め尽くす亜人たち。

 だが、その前進する軍の行先には、横一列に立ち並び、容赦なく光の弾丸やミサイルの大爆発、全てを燃やし尽くす火炎放射を繰り出す、亜人の何倍もの質量を誇るカラクリモンスターたちが行く手を塞いでいた。

 その結果、色気のある旗を掲げた亜人の兵たちが次々と肉塊と化し、その屍を積み上げ、平原を真っ赤な血に染めていく。


「いかんゾウ! 確かに数は多いが、カラクリモンスターは数だけでどうにかなる相手ではないゾウ!」

「ええ、このままでは無駄な突進。無駄な犠牲が増えるばかりだわ!」

「くっ、仕方がないですわ。彼らは、カラクリモンスターの恐ろしさを何も知りませんもの」

「ですが、早く止めないと、このままでは………」


 その通りだ。

 全身を駆け抜ける熱気を生み出しながらも、亜人の軍の勇猛は、まるでカラクリモンスターたちの陣形を……


「…………ん?」


 崩せな……い……あれ?


「むっ?」

「あれ?」

「……こ、これは……」


 その時、みんなも何かに気づいた。

 いや、確かに状況は凄惨極まりない。

 現に、数え切れないほどの亜人たちが断末魔を上げて散っていく。

 だが……


「い、いや、お兄ちゃん、確かに亜人も甚大な被害を受けているけど……」

「な、なあ、ヴェルト、あいつら、意外に……いい勝負してね?」


 ああ。素人のアルテアの目から見ても、そう感じる。

 そうなんだ。確かに、亜人の軍は被害を受けている。

 でも……


「カラクリモンスターの陣形も……崩れておらんかのう?」


 巨大で硬質で、更に常識はずれの兵器を搭載したカラクリモンスター。

 フォルナの雷は別にして、一体ですら俺らもかなり手こずった。

 そんなカラクリモンスターが、何千体も横並びで待ち構えていたら、それに特攻するなんて無謀もいいところだ。

 なのに…………



「おい、なんや! 特にあの、一つだけ前に飛び出しとる軍!」



 何万といるエロスヴィッチ軍の残党兵たちの中で、一際異彩を放つ軍。

 それは、倒れる仲間たちの屍を踏み越えて、カラクリモンスターの陣形に突進し、あろうこと、カラクリモンスターたちをその勢いのまま大破していっている!


「ちょ、なんだあのデタラメな速さ! 突破力! 破壊力! っつうか、カラクリモンスター相手にほぼ素通りだぞ!」

「どうなっていますの!」

「ちょっと待て、グラアアアアア! あんなの聞いてねえぞ!」

「し、信じられません。あのカラクリモンスターを」

「私たちがあれだけ手を焼いて……」

「これは、夢か?」

「ア………アメージング………」


 今、自惚れじゃなく、俺の仲間は実績も含めて間違いなく世界最強の集団だと思っている。

 その仲間たちが一人残らず、目の前の光景に驚愕していた。

 あのチーちゃんも、そしてキシンもだ。


「おい、バルナンド! どういうことだゾウ! エロスヴィッチの軍は、小生が居ない間にあれほどまで強力になっていたのか?」

「ワシも知らん! いや、というより、アレは………どこかで………」


 亜人代表のカー君、バルナンドの二人ですら驚愕している。それほどまでに、亜人の軍はその強烈な力を持って、多くの犠牲を出しながらも次々とカラクリモンスターたちを粉砕している。

 あいつらは一体、何者だ?

 誰もがそう思いかけたとき、バルナンドがハッとした。



「むっ………あの飛び出しておる軍の旗、エロスヴィッチのものではない!」



 えっ? エロスヴィッチの軍じゃない?

 じゃあ、誰が?

 俺たちはよく目を凝らして、その大突破を続ける軍の掲げる旗を見る。

 ひょっとしたら、エロスヴィッチの残党軍に援軍でも現れたのか? でも、ならどこの………



「ん? おい………あ、兄………あれは………」

「………あ………………あああああああっ!」



 ユズリハ、そしてジャックが目を見開く。

 そして、ようやく気づいた。

 あの、進軍する亜人の掲げる旗に描かれているのは、『誠』の文字。


「げっ!」

「いいいっ!」

「ちょっ!」

「おおおおい、あ、あのクソ野郎は!」

「ワオッ!」


 そして俺たちはようやく気づいた。

 


「グワーハッハッハッハ! グワーハッハッハッハ! グワーハッハッハッハ! なんじゃ、歯ごたえないの~! チンチン付いとらん奴は所詮その程度じゃ! 生涯交尾もできん童貞どもに、ワシを滾らせることは出来ぬ!」



 あの、快進撃を続ける、圧倒的な野生と共に突き進む軍の先頭に居るのは………


「ゴミ父!」

「オ、…………オヤジやないか!」

「………イ、………イーサム!」


 世界最強の野生。

 四獅天亜人の一人。

 武神イーサム。

 そして、その男に付き従う。


「ウオオオオオオオオオオオオ!」

「ガアアアアアアアアア!」

「グワガアアアアアアアアアアアア!」


 荒ぶる刃を振るう、サムライたち。


「シ、シンセン組じゃ! それに、副長トウシ! 一番隊組長のソルシまで居る!」

「なんと! シンセン組が、エロスヴィッチ軍の援軍に来ているゾウ!」


 世界の戦の歴史を変えた、重火器を容赦なく振るうカラクリモンスターたちに必殺の牙をぶつけるのは、前世の異なる世界の小さな島国の魂をこの世界で受け継いだ、サムライたちだった。



「ミヤモトケンドー・天空夜光飛天皇龍斬魔剣!」



 ミサイルじゃねーのに、ミサイルに匹敵するほどの大爆発。

 お、おい………カラクリモンスターが、今、何十体も一斉に粉々に吹き飛んだぞ?



「ガハハハハハハハハハハハハ! お~、二年もブランクがあると、流石に力も衰えておるの~。ガハハハハハハ!」



 豪快! 怪物! 規格外! 

 俺たちは、しばらくポカンとしたままだった。

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