第331話 不良大覚醒


「ふわふわレーザー!」

「聖盾アイギス!」


 不意打ち気味に放ったレーザー砲が、魔法障壁のようなものに弾かれ、しかも跳ね返された!


「ッ、て、テメェ………」

「ふふ、間髪いれずに不意打ち。清々しいまでの開き直りですね。でも、僕は堂々と………」

「ちっ、ふわふわ飛行!」

「逃しません! 飛べ、ルドルフ!」


 一旦距離を取るかと宙へ飛んだが、これは完全に俺のミスだ。

 ペガサスに跨ったやつ相手に、空中戦なんてアホ過ぎる!


「いきます! 八つの属性を融合した………八極エイティストフォースウインド!」

「つぅあああああああああああああああ!」


 炎、氷、雷、あらゆる力を纏った暴風。風なのに熱く、冷たく、そして痺れる!


「フェザーカッター!」


 魔力で作られたペガサスの翼が羽ばたき、羽が矢のように無数に俺に襲いかかる!


「ふわふわレー………」

「遅いです!」


 なら、レーザーで消滅させてやる。

 しかし、そう思った直後に腹部に衝撃。剣の峰打ち………ッ!


「が、はっ!」


 速い! 今、空気の流れを読む間もなく痛みが………

 俺の予知に近い攻撃の先読みをも上回る速度だってのか?


「お兄ちゃん!」

「ぬぬ、これは……まずいゾウ! まさか、ロア王子にこのような奥の手が……」


 今度は逆に、俺がピンチかよ。

 ふざけんな! と思ったものの、どうする? 追いつかねえ!


「無駄です。あなたの光線は、撃つ前に相手に狙いを合わせる必要があります。しかし、僕に照準は合わせられませんよ?」

「ったく、この、さっきまで凹んでたくせに、ナマ言ってんじゃねえ! つーか、何が正々堂々だ! フツーに反則だろうが、喧嘩で馬なんか使う、タコ助が! ふわふわ極大レーザー警棒!」


 なら、全面攻撃でどうだ!

 狙いもクソもなく、目の前の空間全部埋め尽くす巨大なレーザー警棒をふり下ろせば………



「レインボースラッシュ!」



 折られた……俺の……目覚めたばかりの力が……


「こい……つ……秒殺聖騎士と全然レベルが違ェ!」

「ありがとう、ヴェルトさん。あなたは無駄な寄り道と言いましたが、そんなことはありません。あなたとの戦いで僕は強くなれました……あなたとの戦いは無駄ではない!」


 粉々に折られたレーザー警棒を前に、ロアから放たれた言葉は、勝ち誇った言葉でも、見下した言葉でもなく、純粋な賞賛。


「だからこそこの戦いの後、目が覚めたらあなたには……共に人類を救う仲間となって頂きたい!」


 強い! だが、ふざけんな! 俺は、そんなことのために戦ったんじゃねえ!

 俺はただ、テメエをぶっ飛ばしてえだけだ!

 しかし、どうする? ここまでやられるとは思わなかったな。

 ほんの数秒後には振りおろされるこの虹色の剣を俺はどうやって………



「「「「「いけええええええええ、ロア王子!」」」」」



 人類の誰もが願う展開を、俺はどうやって覆せば………



「だらしないぞ、ゴミ」



 ………………ん?



「えっ? ………」


「グワガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 それは、幻聴じゃねえ。

 迫り来るロアの真横からいきなり、巨大な影。

 朱色に輝く鱗と鬣を生やしたドラゴン。

 それは、ジャック? いや、……違う!


「なっ……ロ、ロア様ッ!」

「なにいっ!」


 人類が願う光景が広がるかと思った次の瞬間、突如現れたドラゴンのブレスが、ロアを馬ごと吹き飛ばした。

 咄嗟のことで防ぎきれずに飛ばされたロアは、慌てて空中で態勢を立て直して身構える。


「あ、あなたは……えっ? だって、あなたはジャレンガ王子と……いや……違う」


 ジャックじゃねえ。

 ジャックのように飢えた獣のように闘争本能剥き出しの竜の目じゃねえ。

 竜のくせに、どこかブス~っとした表情で、少し照れたようにそっぽ向くドラゴン。


「ユ……ユズリハッ!」

「うるさい、ゴミ。助けに来たと思って勘違いするな。ボコボコボコボコやられたバカゴミのくせに」


 ユズリハだ。

 いや、どうして?


「お前、ウラたちと一緒に居ろって……いや、チーちゃんとマッキーは?」

「白ゴミは見つかって手当中だ。クズは知らん。……あとはお前らゴミ共が終わるのを待ってるだけだったのに……なんか貴様バカゴミだから」


 言っている意味がよく分からん。いや、ひょっとしたらユズリハ自身もよく分かっていないのか?


「ふんッ。ゴミ………ふんっ」


 よくわかんねーけど、何か気づいたら飛び込んでいた、何か俺がピンチっぽかったから来てくれた?

 そんなところか………


「はは………」

「なんだ、ゴミのくせに、何を笑っている! 殺されたいのか?」

「いや、ユズリハ………」

「むっ?」

「お前……可愛すぎるだろ」


 俺はふわふわ浮いて、ユズリハの頭まで近づき、その頭を撫でてやった。


「ふぅあっ!」

「なでなで」

「あふうう………」

「なでなで」

「ぷうう………ううっ、ご、ゴミッ、撫でるな! 私をゴミのくせに汚い手で可愛がるなんて!」

「おお、ワリ」

「ぬあ、な、なんで手を離す! 何を勝手に手を離す! 誰がやめていいといった、お前は私を崇めて撫でてればいいんだ!」

「おお、ユズリハ様、あなたは何て可愛いのでしょう。ナデナデ」

「く~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~………………えへへ」


 昔、ムサシの頭を撫でたら、顔を真っ赤にして、ものすごく嬉しそうに耳と尻尾が激しくピコピコ動いていた。

 ドラゴンの場合、どうなんだ? 体をくねくねさせて、尻尾がメッチャ動いてるんだけど?



「そ、そんな……まさか、し、獅子竜が……もう一匹居たというのですか?」



 そんな俺のユズリハタイムを目の当たりにしながら、信じられないといった表情になったロア。

 さっきは、全ての迷いを捨て、何にも動じない男になったと思ったら、やっぱりこういう予想外には、そういう顔になるか。いいね~、それでこそ、乱し甲斐があるってもんだ。

 地上の人類大連合軍たちも、「ロア崇めタイム」がいつの間にか終了し、新たに現れたユズリハという獅子竜を目の当たりにして絶句していた。

 そして、俺はこれに便乗する。


「かわいいユズリハ」

「えっ、かわ……も、もう、可愛いのは知ってる! だからもっと言え! で、う、うん、なんだ?」

「背中に乗せてくれ。お前をもっとなでたい」

「え………あ、う、もう、このゴミは、ゴミなんだぞ、お前は、ゴミすぎる! ………でも………今度からもっとかわいがるなら……とくべつ? い、いいぞ?」

「ああ、かわいがる」

「ほんとか? 胸小さいけどかわいい?」

「ああ、かわいいぜ」

「……なら、ゆるす」


 俺はユズリハの背中に飛び乗った。

 これまで移動で乗ったりはしたが、俺一人だけでは少し広く感じるユズリハを感じながら、俺は笑みを浮かべた。


「そっちもやってることだ、ロア。なら、こっちもこっちでやらせてもらうぜ? 聖馬に対して、こっちは可愛いジャジャ馬だけどな」


 目には目を、歯には歯を。

 そっちがペガサスなら、こっちはユズリハだ!


「お、おい、ちょっと待て、ゴミ。なんだ? おい、撫でないの? 撫でないで戦う気か! 貴様、殺されたいのか!」

「まあ、ちょっと落ち着け。俺の魔導兵装の応用……それを俺自身だけじゃなく、ユズリハも包み込むように………」

「………へ、な、なんだ! 温かくて………ご。ゴミの魔力! なんだこれは、気持ちいい、きも、ちわるい! やめろ、こんなもので私を包むな!」

「へへ、なんだ、意外と簡単じゃねえか」

「がう、がう~~………ゴミのくせに~………」


 ここまで来れば、俺だってもう止まらねえ。

 そっちが限界の一歩先を踏み込んだ力を見せるなら、俺だってそうさ。



「そ、そんな! それは………魔導兵装・騎獣一体!」



 さあ、開演だ!



「魔導兵装・騎獣一体・ふわふわ新世界ノイエヴェルト!」



 そう、その顔を見たかったぜ、ロア。

 不良の喧嘩において重要なのは一つ。相手をビビらせたら勝ちなんだ。



「なっ………何者なんですか………あなたは………」



 お前は誰だ? 今まさに全人類大連合軍が抱いた思いを代弁したロアに対し、俺は言った。

 


「俺は、リモコンのヴェルト。麦畑で生まれたこの世で最も凶暴な男だよ」



 ロアに、人類大連合軍に、天空族に、魔王軍に、世界に。

 そして、フォルナに。

 俺が何者かをこの世界に言ってやった。

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