第326話 勇者VS不良


「はは…………すごいじゃん? ルシフェルさん相手にあれだけやるのは、さすがだね? どうやら、世界最強と言われていたという話は本当のようだね?」


 空を見上げながら、愉快に笑うジャレンガ。だが、すぐにため息はいた。


「それなのに、ボクは? はっ? ムカつく勇者を殺せないどころか? 対戦相手が急に、こんな半端竜?」


 それは、立ちはだかるジャックに向かって言った言葉。

 明らかに怒気と殺気が滲み出て、相手を押しつぶそうとする圧力をかけている。

 だが、ユズリハと違い、ジャックは引かねえ。


「アクセント違うで、ジャレンガはん。ワイは、半端やない。……そう……ハンパないんや!」


 砂塵が舞い上がる!

 まるで、圧縮空気が爆発したかのような勢いで、ジャックが空へと舞った。



「地上はちっこいのが多くてかなわんわ。広い空でケリつけよか、ジャレンガはん」


「……はっ? なに? なに? ボクに命令? ほんと殺すよ?」


「はは、そないな疑問形で殺すとか言っとらんで…………男ならバシっと、ぶっ殺したるぐらい言えんのか、ボケがァ!! ビビっとんのか!!」



 強烈で、乱暴で、しかも清々しいまでの関西弁を喋るドラゴンの威嚇。

 これには、沸点の低いジャレンガが黙ってるはずがねえ。


「…………………………………………コロスカラ」


 ジャック目掛けて、空へと急発進。

 ったく……これ、撮影したら、ぜってー大ヒット間違いなしだぞ。子供大喜びだぞ?


「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ギャガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 もはや、ヒトの姿の頃などまるで感じさせない、怪物と化した空中の巨大対決は幕を開けた。


「ったく……俺を守るとか言って、テメエが喧嘩したいだけだったりしてな、ジャックのやつ」


 さて、誰もが首を空に向けて曲げているのだが、この開いた幕の壇上をずっと眺めているだけでいいのか?

 って、そうじゃねえだろ。そもそも、俺が戦うためにここに来たんだからよ。



「さてと、なんだか俺が余っちまったな。つっても、このままじゃ、まるで俺が人類大連合軍の加勢してると思われちまうから………」



 そう、だから俺にも必要なんだよ。

 明確な、敵が。

 それは、フォルナ? 聖騎士? いや、違う。



「それじゃあ、お前に俺の相手をしてもらおうか? なあ? 真勇者ロア」



 こいつしかいねーよな。


「ッ、あなたは…………ッ、あなたたちは、一体……あなたたちは本当に何なんですか! なんのために、僕と戦うんですか!」

「何かやるにも理由が必要か? 甘ったれんなよ。世の中何でもかんでも、テメエを中心に回ってねえってことだよ」


 俺が今、戦うべき相手として選んだのは、俺ですらガキの頃から知っていた、正に人類の至宝だった。


「分からない」

「あ゛?」

「ウラ姫との結婚を魔族たちに祝福されて、そんなあなたが、クライ魔王国、ヤーミ魔王国、ヤヴァイ魔王国側に着くというのであれば分かります。それなのに、あなたの仲間はジャレンガ王子と戦うし、そしてあなたは僕たちと戦おうと……一体、あなたは何と戦っているんですか?」

 

 そんな人類の至宝が、こんな情けねえ戸惑ったツラで俺を見やがって。

 ここまで人がメチャクチャな理由だろうと前出てきてやってるのに、全然その気にならねえ。

 まあ、当然なんだろうけどな。


「国だとか種族とかカンケーねえよ。俺たちは誰一人そういう枠組みで動いてるわけじゃねえ。だから、問答したってテメェには分からねえよ」

 

 そう、分かるはずがない。

 ロアは良くも悪くも、『人類』、『正義』、『世界』、そういう枠組みで戦っている。


「つーか、見ていて痛々しいんだよ、お前ら全員。テメェらが勝手に嫌い合ってるのは勝手だが、俺は俺で今を楽しくやってるんだ。……そう、さっきのヒューレとかいう女の言うとおり、今を平和に生きてるんだ。それを壊すんじゃねえよ」


 完全個人主義の俺のことを分かるはずがない。 

 しかし、だからこそ、ロアの琴線に触れたのかもしれない。



「……ふざけないでください。そんなよく分からない個人的で自己中心的な想いで……あなたのようにヘラヘラと生きている人に、何故こんなことをする権利があるんですか! あなたには、『人類』を、『正義』を、『世界』を背負う覚悟があるというのですか!」



 おお、自分で言っちゃったよ。三連単で。

 しかし、まあ、どうしてデカいことを語る奴らは、主語までデカくするのやら。



「そんな覚悟もなけりゃ、興味もねえ。俺の覚悟はそんなもんのためにはねえ。俺が背負うのは、『ダチ』を『家族』を、『人生』を背負っていく覚悟だ。そしてそれを脅かす奴らが俺の敵だ」


「何を戯言を……人間であり、聖騎士をも超える力を持っていながら……それを正しき道に使わないなんて」


 

 もう、俺に対して怒りやら呆れやら失望やら、そして哀れみとか、あらゆる感情の篭った目で見てきやがる。

 そして、どこか肩から力を抜き、持っていた剣を収めやがった。


「ヴェルト……それがあなたの名前ですね?」

「あ゛? おいおい、ヤルんだろ? いきなり剣を収めてどうした? 命乞いか」


 ………はっ? おいおい、この坊ちゃんはこの期に及んで、何言ってんだ?


「仮にも、あなたはどういうわけか、アルーシャが惹かれている。……やはりどうしても倒すべき悪だと思い切ることができません。だからこそ、思い直して欲しいのです」


 おいおい、なんかイヤ~なパターンだぞ。

 多分、こいつ昔話をしだすぞ?

 


「僕たちとて戦争を望んでいるわけではありません。あなたとウラ姫のように分かり合える魔族だって居るのは分かっています。でも、それでも戦わなければならない人は存在します。僕たちは僕たちの、大切なものを守るため、誰もが笑って暮らせる世界を作るため、そのために僕たちの力は使うべきではないんですか?」


「ん~………………」


「ヴェルトさん。今から、少し僕のことをお話します。僕が昔、勇者と呼ばれるより前、ただ勇者というものに憧れていた時代です。どうか、聞いてください」



 ………よし、もういいか。始めちまうか!



「興味ねえよ!ふわふわ大ビーム警棒!」


「なっッ!?」



 瞬間的に、周囲の魔力を集束収束させて、警棒全体を包み込み、極太のレーザーサーベルと化した武器で真上から叩き落としてやった。



「「「「「………………………………………えっ?」」」」」



 キョトンとする周りの反応はどうでもいいとして、どうやらうまくいったな。

 レーザーを使えるようになってから考えてた。レーザーを砲撃するだけじゃなく、留めて剣にすることはできないかと。

 武器と化し、大きさだって自由自在。

 威力はご覧のとおり。ダンガムになった気分だぜ。

 まるで蟻地獄のような巨大な穴ボコに勇者を叩き込んでやった。


「ちょ………ヴェルト君、なにやってんのよ! い、い、今、話し合いじゃなかったの?」

「ロア王子!」

「ふ、なんという、ふざけたやつだ! まだ、決闘の合図もなく、不意打ちを!」

「おのれ、この外道め!」

「くそ、お前には誇りがないのか!」

「俺がぶっ殺してやる!」


 ギャーギャー大ブーイングがウルセーが、それがどうした?

 と言っても、勇者も無事みたいだな。

 穴の下で、軽く咳き込み、砂を払いながらも、剣を片手に片膝付いた勇者が、俺を戸惑いながら見上げていた。

 収めた剣を咄嗟に抜いて防いだか。やっぱ頑丈だな。



「くはははは、おいおい、畑違いだ。不良を改心させたけりゃ、熱血教師を用意しろ。ファンタジーな勇者の物語じゃ、子供の目は輝いても、不良には何にも響かねえよ」

 


 だが、手応えは掴んだ。

 これは、十分俺の力になる! いいな……この感覚! 何でもできる感覚! 胸が踊るぜ!


「なっ、ヴェ、ヴェルトさん!」


 俺は穴へと飛び降りた、上空から二刀流の構えで、二本のビーム警棒を振り回す。

 完全に対応の遅れた勇者は、一本の剣で防戦一方。

 単純な剣術なら足元も及ばねえだろうが、こいつはそんなお行儀のいいもんじゃねえ。

 虚を付いた今なら、負けねえ!


「なぜ! 僕の話を、ヴェルトさん!」

「だから、興味ねえって言ってんだろ! テメエは何を勘違いしてやがる。これは、正義や悪のぶつけ合いじゃねえ!」

「ぐっ、ッ、なにを!」

「俺は単純に、なんかテメエがウザくてムカつくッ! 思い上がって自惚れてんじゃねえ!」


 俺の行動、そして二本の警棒の威力は、ロアにとっては予想外のもの。

 そして、今の一撃で俺の警棒は当然警戒され、態勢を崩しながらもロアは一本の剣で懸命に受け流そうとする。

 だが、その結果、他の意識が疎かだ。

 虚を突かれ、更にさっきの紋章眼の覚醒での反動が、体や脳の反応を鈍らせているのかもしれねえがな。

 だが、俺は絶好調だ。ビーム警棒を展開しながら、自身の肉体の周りにも魔力を集束させて纏う。


「くっ、バカな、お、重い……速いッ! しかも、………魔導兵装まで!」


 ヴェルト・ジーハに生まれて十七年。

 俺は今日、勇者の顔面に左ハイキックを入れてやった。



「そして、覚えておけ。テメェは世界のための戦い方が分かっているのかもしれねえが、好き勝手に生きてきた俺には世界の生き方から楽しみ方、そして愛し方が分かっているってことをな! だから、俺は俺でちゃんとこの世界が好きなんだ!」



 そして同時に、死闘が始まった。

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