第313話 涙
「タイラー! 魔王ネフェルティ、魔王ラクシャサ、ジャレンガ王子が居る以上、モタモタできませんわね。ここはすぐに………ッ!」
「おっと、彼に手出しはさせないわよ。フォルナ」
「………おどきなさい、アルーシャ!」
「させないって、言っているでしょう!」
フォルナとアルーシャ。
「ロア王子! そして、みんなも、ここはワタクシとタイラー将軍にお任せなさい!」
「フォルナ姫、しかし!」
「アルーシャはワタクシが責任もちますわ! 今は、早く魔王の首を!」
ここで、俺とアルーシャを倒したり、観戦したりの暇は状況的にない。
魔王たちの態勢が整っていないうちに倒すというのが、こいつらの理想。
ましてや、色々と聞かれたらまずいことを知っている俺たちのいる場に、ロアやシャウトたちを置いていくのもリスクがある。
そして、何よりも…………
「ヴェルト……せめて、この手で……」
「アルーシャ、力で、従えてみせますわ」
せめて俺たちは自分の手で……そんなケジメがあるのだろう。
「……分かりました、タイラー将軍、ご武運を! フォルナ姫、どうかアルーシャを!」
「兄さん、待って! 話を聞いて! この戦い、無意味よ!」
「アルーシャ……僕たちはもう、止まらない!」
ロアは唇を噛み締めながら、仲間たちの肩を叩く。
「ここは二人に任せよう。僕たちの成すべきこと……それを成し遂げるために!」
「ロア王子、いいんすか! 姫様が!」
「シャウト、俺たちも行くぞ! ここは、タイラー将軍とフォルナ姫に任せるんだ」
「う、……うん」
「ええ、行きましょう。ロア王子の言うとおり、私たちが成すべきことをするために」
仲間を置いて先に行く。ロアはそのことに悔しさと、ある種の決断した感情を滲ませている。
しかし、今も多くの仲間たちが戦っている。
「全軍、武器を取り上げられたものは急いで予備の武器を! そして、臆せずに立ち向かうんだ! 成すべきことをするために! 世界同盟に栄光あれ!」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
それに応えるためにも、自分たちは先に進むんだと、なんともベタな王道物語なことだ。
勇者の檄を受け、戸惑い、迷い、どうすればよいのか表情を曇らせていた戦士たちも立ち上がり、再び声を上げた。
「始まっちまったか」
「ええ……ごめんなさい、役に立てなくて」
「仕方ねえさ。俺はそもそも喧嘩を仲裁するタイプじゃなくて、悪化させる奴だからな」
ビリビリと伝わる空気。俺が覚ました空気が、再び沸騰しやがったか。
「つか、タイラー、いいのか? 魔王の城には、お前たちが討とうとしていた三人以外にヤバイのがいっぱい居るぜ?」
「仕方ないだろう。お前のことは、私の責任だからな、ヴェルト。それにたとえ誰がいようと、私は彼らを信じる。正義の心が魔を打ち砕くことを」
「けっ、うすら寒いこと言いやがって」
「それに、私以外の残る五人の聖騎士に、天空世界皇族もいる。その軍事力はもはや止められることはできん」
止めることはできない、か。
ウラ、エルジェラ、コスモス、ラガイア、キシン、アルテア、バルナンド、キシン、カー君、チーちゃん、マッキー、ジャック、ユズリハ、ルンバも居たな。
まあ、あいつらなら、仮に勇者と戦闘になっても無事に決まってるか。
「アルーシャ、あなたの目を覚まさせてあげますわ。そして、ヴェルト・ジーハ。あなたを確保しますわ」
むしろ、問題はこっちの方か。
だが、そんな時だった。
「ちょっと、サンヌ! なにやっているの、早くいきましょう! ここは姫様とタイラー将軍に任せるの!」
「う、うん……」
既に走り出しているロアたちの後を追いかけるように走り出そうとしていたサンヌ。
しかし、その足をピタリと止めて、振り返ってこっちを見ていた。
「おい、なにしてんだよ、サンヌ!」
何をぼんやりしている? バーツたちが戻ってきてサンヌに怒鳴る。
だが、サンヌはこっちをボーッと見たまま動こうとしない。
その様子に幼馴染連中、そして異変を感じたガルバまで戻ってきた。
ロアたちはもう既に先へと進んでいるのに、一体どうしたというのだ?
すると……
「ちょっ、サンヌ!」
「どうしたんだい?」
「な、なんなのよ、こんなときに!」
皆が騒いでいる。俺もチラッとだけ見たら、サンヌが………
「ねえ、……どうしてかな……みんな……バーツ、シャウト、ホーク、ペット、ハウ、チェット、シップ……ガルバ隊長……」
いや、何サンヌだけじゃない。
「おい、一体何をやってん……だよ……」
「ん? おい、バーツ、君だって!」
「ちょっと、シャウト、あなたも……あ、あれ?…… なんで? わ、私も……あれ? と、止まらない!」
「シップ………」
「う、うるせえ、くそ、おい、ペットまでなんだよ、どうなってんだよ! なんで、俺たち………」
「うう、う、ひぐ、うう」
みんなも………
「……ガルバ隊長……あんた、なんだい、その格好は」
「ハウ……分からん、だが、どうしてだろう。改めて見ると……あの、ヴェルト・ジーハという男……」
ガルバは、ただ呆然と両膝を地面についていた。
どういうわけかわからない。ただ、さっきまでは何ともなかったはずなのに、どいつもこいつも………
「行きますわ、ヴェルト・ジーハ! アルーシャ!」
「行くぞ、ヴェルト!」
「来るわよ、ヴェルト君!」
アルーシャが侵略する氷で足場を凍らせようとした瞬間、フォルナとタイラーは飛んだ。
フォルナは雷速の動きで、拳を握り俺に向かってくる。
「はああああああああああああ!」
「けっ、来やがれ!」
雷速と光速。昔は反応すらしきれなかったフォルナの拳。
だが、俺はそれを受け止めてやった。
「っ、ワタクシの動きを………」
「驚いている暇はないわ、フォルナ!」
フォルナの攻撃を受け止めた俺の背後から、タイミングよくアルーシャが飛び出し、迎撃。
ほ~、なかなかタイミングいいじゃねえか。
「フォルナ姫、ヴェルトとアルーシャ姫は、連携の息が合ってます」
「ええ、そのようですわね。でも、だからといって臆するわけには行きませんわ! 人類のためにも!」
タイラーとフォルナ。まさか、同時にこの二人を相手にする日が来るとは思わなかったよ。
なあ? 親父……おふくろ……
今、二人は天国で、どんな顔をしているのやら………
「どうして? 姫様と、あの人が……敵として向かい合っているだけで、こんなに涙が止まらないの?」
今の、サンヌたちみたいに、涙を流しているんだろうか?
「ッ、フォルナ姫……それは……」
「どうしましたの? タイ……ッ、なぜ、ワタクシは……っ、大丈夫ですわ。ただ、汗が目に入っただけですわ」
頼むからよ、思い出してもいないのに、泣くんじゃねえよ。
そうやってよ、決心した人間を鈍らせるようなことをするんじゃねえよ。
「おい、結婚初日に妻を置いていくのは感心せんぞ、ヴェルト! 今、そっちに行くぞ!」
「この戦いの正義は分かりません。しかし、私はヴェルト様を信じると決めました」
「ふにーーーー! パッパの、テキっ!」
「うおおおおおおお、コスモスに傷一つつけたら、この俺様が塵一つ残さずテメェらぶっ殺す!」
「アルーシャ姫や義理の姉たちだけにやらせないよ? 僕だって……弟なんだから……」
「なんや、戦争とか嫌や思っとったが、この血肉沸き立つ感じ、ゾクゾクするで」
「おい、兄、飛び出すな。しかも、あの怖い奴らの所に置いてくな」
「仕方ないのう。別に三国の仲間でもないんじゃが」
「だから、置いてくなっつーの!」
「まあ、小生もこやつらには借りがあるゾウ」
「久々だな。まあ、ミーを覚えていないだろうが、ヒーローたちのお手並みでもチェックするか」
「ひはははははは。悲劇だね~、なあ? マニーちゃん」
魔王の城から俺に向かって叫んでいるあいつらの声。
今の俺にあるのは……あいつらだから……俺も、泣くわけにはいかねえ。
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