第十章 世界丸ごと大戦争と金色との再会
第304話 こっちもサミット
さて、ネフェルティに招かれて、俺たちはここに集結したわけだが、普通に聞きたくなる。
俺はここにいていいのか?
二十人程度の人数が収容できる、円卓を中央に据えた会議室。
大した装飾もなく、最低限の机と椅子しかない質素な部屋。
そこに、護衛の魔族や付き人などは存在しない。
だが、それなのに今この場は、この世界の歴史を左右させる人材たちに溢れていた。
「ロングライフ生きたが、ミーにとってもこれほどのメンバーとのカンファレンスはファーストタイムだ」
「意味あるの? こんな円卓囲まないで、戦ったほうが手っ取り早くない?」
「……………………………………」
「そう言うな。余がどれだけ下準備したと思っておる」
「おい、俺様は椅子に一分以上座るとイラついてたまらねえ。どうにかしろ」
「いいのかな? 僕がこんな所に存在して……」
「堂々としろ、ラガイア。追放されようと、縁を切ろうと、その血筋は絶つことはできん」
ジーゴク魔王国元魔王:キシン。
ヤヴァイ魔王国第二王子:ジャレンガ。
クライ魔王国魔王:ラクシャサ。
ヤーミ魔王国魔王:ネフェルティ。
ポポポ魔王国魔王:チロタン。
マーカイ魔王国元第六王子:ラガイア。
旧ヴェスパーダ魔王国元第一王女:ウラ。
「ひははは。この光景を映像で流したりしたら、世界がパニクるね。まあ、それもパナイオモシロそーだけど」
「なあ、あたしさ、こうゆう堅苦しいの嫌いだからさ、まぢでどっか行きたいんだけど。せっかくだし、買い物とか」
「我慢するゾウ。ここから先の僅かな発言しだいで、世界の行く末が決まるかもしれないゾウ」
「特に亜人のワシらの処遇などのう」
「あら、それなら人間であり、光の十勇者である私なんて特にそうではないかしら?」
「とても重苦しい空間ですね」
「どいつもこいつも、血ィ滾りそうな奴ばかりやな。なんや、面白そうや」
「……やだぞ……なんで私まで……」
「こ、このような会談に私のような身分が参加して良いでありますか?」
「ふわ~、ねえ、パッパ~、たいくつ~」
旧ラブ・アンド・マニー社長:マッキーラビット
ダークエルフの元姫にして若い亜人のカリスマ:アルテア。
四獅天亜人:カイザー。
シンセン組創設者にしてミヤモトケンドー開祖:バルナンド。
アークライン帝国第一王女:アルーシャ。
天空王国ホライエンド第七皇女:エルジェラ。
四獅子天亜人の血を引く、亜人の王族:ジャックポット。ユズリハ。
旧ヴェスパーダ魔王国ロイヤルガード:ルンバ。
世界一可愛い:コスモス。
「……俺、コスモスと外で遊んでくる……のを我慢するから、さっさと始めろよ」
睨まれた。別にビビッてるわけじゃねーけど、なんかコエーよ。
「司会進行は、俺が行うよ。まずは、今回三国のみで第一回魔族サミットを行う予定が、大幅に狂った。だが、これは奇跡でもあり、これを活かさない手はないので、余計な腹の探り合いや、異種族云々の問題は置いておき、価値ある会談とさせてもらいたい」
これだけのメンツの壮観さに、何だかワクワクしたような表情で立ち上がるルシフェルが仕切り始めた。
その仕切りに誰も異議を挟むことはなく、ルシフェルが周りの反応を見て頷いた。
「まずだ、現状の勢力図をザッと記しておこうか。まあ、勢力図というよりはグループ分けだけどね」
そう言って、ルシフェルが筒のように丸めた模造紙をバッと円卓に広げた。
それは資料と呼ぶには大雑把すぎる、丸で括られた、デカデカと書かれた文字の羅列だった。
●世界同盟
・人類大連合軍
・ハンター連合
・ラブ・アンド・ピース(※ラブ・アンド・マニーより改名)
・聖騎士
・ジーゴク魔王国
・マーカイ魔王国
・旧ヴェスパーダ魔王国残党
・亜人大陸(※ただし、部族や国が多すぎるため、全体の何割かは不明)
・天空世界
●魔族同盟
・ヤヴァイ魔王国
・クライ魔王国
・ヤーミ魔王国
・その他の周辺部族併合
・クロニアと愉快な仲間たち
●その他
・地底世界
・深海世界
「と、このようになる。亜人大陸もユーバメンシュとエロスヴィッチを筆頭に、まとまり始めている。唯一、シンセン組のイーサムについては個人的に我関せずのようだがね」
確かにこうやって書き出せば、ハリボテだろうとなんだろうと、世界が種族を超えて一つにまとまり始めているのが分かる。
亜人大陸もママンを中心に乗り気。天空世界もエルジェラの協力で加わっている。まあ、エルジェラもコスモスもここに居るけどさ。
「天空世界がさ~、全面協力なのがウザイよね~? というより、そこに居るのも天空族っぽいけど?」
「ジャレンガ王子。エルジェラは私の大切な友人だ。そんな眼で睨むな」
「まあまあ、ウラさん! もう私はただの友人ではありませんわ。今度からは、同じ旦那様を持つ家族ではないですか」
「亜人大陸もすげーな。私、政治みたいのには全然関わらなかったけど、ママンが本気出したら、人脈ハンパねーし」
「へえ、俺が作ったラブ・アンド・マニーを基点に、パナイ世界関係が変わってるじゃん」
「三種族でいかに神族大陸の領土を奪い合うかの時代とは大違いだゾウ」
「じゃが、亜人大陸を一括りにして、世界同盟に加盟というのは言い難いぞ。エロスヴィッチも話は合わせているものの、腹のうちは分からんからのう」
「せやな。それに、オヤジも何考えてるか、よう分からん。まあ、何も考えとらんのが本命やけどな」
と言いつつも、ここに人類大連合軍・光の十勇者でもあるアークライン帝国の姫に、四獅子天亜人ユーバメンシュの娘、同じくイーサムの子供も居るわけなのだが、というより、俺の周りに居る連中はメチャクチャ世界同盟の関係者だったり親類が居たりするわけなのだが……
「んで、そのややこしい勢力図は分かったが、俺たちにどうしろと? 言っておくが、聖王のウソをバラすとか、世界同盟の解体だとかって話は無しだぞ? それやると、人類が滅びるから」
「待て、ヴェルト。聖王の嘘とか、どういうことだ?」
「ん? ウラ、ざっくり言うとだ、世界の種族のパワーバランスが崩れると、神族が復活して世界の種族を絶滅させるってのは、ウソってことだ」
「なんだと? ちょっと待て、何故そんなウソをつく必要がある! 一体、何の根拠があって! この世の種族のパワーバランスが崩れたら、神族が復活するのではないのか?」
とりあえず、結論から聞きたい。すると、そういえば、そのことを全く知らなかったのが、ウラやエルジェラたちだ。
当然、この二人なんてソレが真実だと思って動き、働き、過ごしてきたんだから、信じられないのも無理はない。
「お兄ちゃん、それは僕も初耳だよ。一体どういうことなんだい?」
「あ゛? つか、神復活とか、俺様はそこらへんから良く分からねえよ」
「つか、そもそもなんやねん。セイオーって?」
「ヴェルト君、そういうのはサラッと言われても困るのじゃが」
「えっ、そうなん? じゃあ、ママンがやってることって、無意味なん?」
「どういうことでありますか、婿殿!」
この真実を知っていたのは、俺たち側では、俺、キシン、マッキー、カー君、アルーシャだけだ。
そして、この場の雰囲気から他にも知っていたのは、ルシフェル、ネフェルティ、ジャレンガ、そして未だに無言のラクシャサという魔王だけのようだ。
「そう、聖王が掲げる、種族のパワーバランスが崩壊した後の神族復活。それは、嘘だ。そのことは、ヴェルト氏。そして、キシン氏。二人はよく理解しているな? その真実を知り、反抗したがために、二人は世界から記憶を抹消されたと聞いている」
当然そんなことを知らされたらショックだろう。反応もできないぐらいに言葉を失うのもわかる。
だが、同時に、「なぜ?」そのことが頭にいっぱい浮かび上がる。
「そもそも、神族の封印が解かれるには、いくつかの鍵が必要になる。全ての魔力の影響を受けぬ、『魔法無効化能力者』、六芒星の力の下に集う『六人の神聖魔法使い』、そして、『三つの紋章眼』等だね」
「それだけじゃないでしょ、ルシフェルさん? 幻獣人族たちが守護していた『封印の祠』とかさ……まあ、ムカつくことに、ほとんどが人間に独占されてるけど? あの、何とかピースとかいうムカつくやつらだっけ?」
神族復活の鍵。そんな事実自体を知ったウラたちには驚くことばかりだが、ルシフェルたちの話は続く。
「そう、ジャレンガ氏の言うとおり、このほとんどの鍵は人類が揃えている。『封印の祠』。そして、『魔法無効化』の力を持って生まれた、旧ボルバルディエ王国の姫、『地上代行者マニー』。神聖魔法を極めし、『六人の聖騎士』。そして、三つの紋章眼。君たちが良く知る、『真理の紋章眼』を持つ、アークライン帝国第一王子、『真勇者ロア』。『創造の紋章眼』を持ち、五百年前の天地友好者の血を引く、天空王国ホライエンドの第一皇女、『超魔天空皇リガンティナ』が居る」
チラホラと、聞いたことのあるものから、聞いたこともなかった単語や人物が飛び交う中、俺たちは黙って聞いていたわけだが……
「もしここに、『聖命の紋章眼』を持つ、旧ボルバルディエ王国の姫にして、俺やドラ氏の主でもある、『天然爛漫娘クロニア』が加わるか、他の『聖命の紋章眼』が覚醒すれば、取り返しのつかないことになる」
ゴンッ! と大きい音を立てて、俺を含めた一部のやつらは額を円卓に打ち付けた。
ちょっと待て、何だそのヘンテコな名前のお姫様は!
「でも、その可能性は低いでしょ? あの女がボクたちヤヴァイ魔王国の領土に居る間は、人間も亜人も不用意に手を出せないし? ボクの親とも妹とも友達になっちゃったし」
「その通りだ。だからこそ、人類は亜人や天空王国と一部の魔王国と同盟を結んでいる今こそ、やらなければならないことがある。俺たちはそれを防がなくてはいけないんだ」
頭を打ち付けた俺たちの反応は無視して話がどんどん進んでいく。
「そう、余等がサミットを行う目的は、魔族の意思を摺り合わせ、聖王たちが動く前に、先回りし潰すこと」
立ち上がったネフェルティが、円卓の周りをゆっくりと歩き回りながら、言い聞かせるように言葉を続ける。
聖王らの次の行動? それは何をしようというのか?
「恐らく、奴らのサミットでの今後の方針、友好だなんだとお題目を掲げながらも、実際の目的はただ一つ。『聖命の紋章眼』の確保。それを成す方法は二つ。一つは、ヤヴァイ魔王国から力づくでクロニア殿を奪い取る。もう一つは、『地底世界』を探し出し、次代の『聖命の紋章眼』を確保すること」
………………はっ?
「へい、ストップだ、ネフェルティ。紋章眼が三大未開世界と地上の生命の間に生まれし子孫の覚醒というのはアンダースタンドだ。バット、その覚醒はミラクルに近い可能性だ。現にアークラインも真勇者ロアが覚醒するまでは何百年も誰一人覚醒していないはず」
「そうよ、そんな可能性しかないのに、今更地底世界を手に入たって仕方ないでしょう?」
キシンやアルーシャの言うとおりだ。
コスモスだってほとんど奇跡のような可能性で紋章眼を覚醒させたって話だ。
むしろ同じ時代で他の種類が揃ってることすら珍しいって話だ。それなのに、今更地底世界の連中使って子供産ませて覚醒させる? 宝くじ以上の確率じゃねえかよ。
むしろ、そんな可能性にすがるぐらいなら、ヤヴァイ魔王国と戦争してクロニア姫を攫ったほうが……
「そうだな。だが、もし『真理の紋章眼』で、地底族を『分析解析』し、二つの紋章眼の傾向等を元に、『創造の紋章眼』で『聖命の紋章眼』そのものを覚醒ではなく、『創造』されたらどうなる?」
それは俺たちが一斉に驚き、思わず立ち上がった瞬間だった。
何その裏技!?
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