第301話 抱っこチュウ

「うお~~~、ヴェルト、まぢゴールインじゃん! 昨日、奥さんと娘をゲットして、翌日にお嫁さんゲットとか、何それ! ねえ、ユズっち、どう思う? ひゃ~、もうまぢあれじゃん! って、ユズっち?」

「ほ~~~~~……」

「って、ユズっち、何羨ましそうにポケ~っとしてるの?」


 何だか照れくせーな。

 だが、それはウラも同じなんだが、ウラはそれでも少し遠慮がちに俺の腕に手を絡めてきた。


「え、へ、えへへ」

「あ、お……おまえ……」

「い、いいだろ? わ、私はお前の……お嫁さんなんだし……」

「……も、もちろん」


 あら、かわいいな……俺の嫁。


「あらら、なにこれ? ボク達、何しに来たんだっけ? なに、この茶番?」

「そう言うな、ジャレンガ氏。世界を創るのは、戦ではなく愛であると教えてくれたではないか」

「ガハハハハハハハ、おい、クソガキ! 子供は絶対に娘を生ませろ! おう、ラクシャサ、テメェも黙ってねえでなんか言え」

「…………………………………………………………………………………」


 まあ、あんまからかわれたりすんのは昔から苦手だが、今日だけは空気読んで応えてやるよ。

 ウラも、まあ、ようやく昔のように笑ってくれたから。


「おい、おい、マッキーラビットよ、撮ってるか? ちゃんと撮っているか?」

「オフコース! パナイ撮ってる! 今も生放送中ナウ!」

「よし、ではちゃんと余からも言わねばならんな。おほん……見事である、ヴェルト・ジーハよ。この決闘、余の負けである。最初の誓いのとおり、余は大人しく身を引こう。その代わり、ウラ姫を幸せにすると全ての魔族に誓うがよい!」


 ネフェルティが壇上のような物に立って高らかと宣言した瞬間、再び喝采が響き渡った。

 なんか、あいつ、随分と潔いというか、普通に男前な感じが……



「さ~て、さて、魔族の皆さん、パナイ盛り上がっておりますが、まだまだ盛り上げちゃいますよ~」



 つか、普通にマッキーが堂々とVIP席の手すりの上に立って、会場中に叫んだ。

 なんか、どっかの司会者みたいに仕切り始めた。


「こ~んな、パナイ可愛い花嫁と~こ~んなパナイ男前の花婿が~~~~チューしないなんてありえましぇ~ん!」


 …………………………おい!


「というわけで、皆さん、ここは種族を忘れて、お手を拝借。では、私のコールに合わせて手拍子とコールをお願いします!」


 もう、あれだ、なんか、マッキー全開だ。

 気づけばルシフェルもネフェルティも手拍子の準備をしていた。


 

「せ~の、抱っこ~チュウ! 抱っこ~チュウ! ハイッ! だっだっだっこチュウ、だっだっだっこチュウ! へい! それではみなさんご一緒に、ハイ!」


「「「「だっだっだっこチュウ、だっだっだっこチュウ! へい!」」」」


「だっだっだっこチュウ! だっだっだっこチュウ! ヘイ!」


「「「「だっだっだっこチュウ、だっだっだっこチュウ! へい!」」」」



 魔族ノリ良すぎだろうが! どーなってんだよ、この種族は!

 

「つーか、ウラ、魔族って人間がキライなんじゃねーの? 何でだ?」

「さ、さあな……まあ、あれだ。多分、魔族が人間嫌いと言っても、ヤーミ魔王国もクライ魔王国もヤヴァイ魔王国も、そもそも人間と頻繁に戦争していないからな………」

「……えっ、なにそれ? そんな理由?」 


 ってか、何で俺と女取り合ってた魔王までもが率先してやってんだよ!

 そして、何でだ?



―――だっだっだっこチュウ、だっだっだっこチュウ! へい!



 なんか、この地下闘技場の中だけじゃなく、外の地上からも声が聞こえているようなのは、気のせいか?


「お、おい……ヴェ、ヴェルト・ジーハ……っじゃなくて……ヴェルト!」

「ウラ?」

「……ん……そして、ん」


 その時、もう顔がトマト状態のウラが、俺の服の裾を引っ張り、「ん」と両手を広げ、「ん」と唇をつき出してキス顔。


「……や、やるのか?」

「そうしないと……収まらんだろう」


 確かに収まらんだろう。そういや、エルジェラの時も思ったが、魔族連中ってこういうので結構盛り上がる奴らなのか?

 

「は~~、クソ、わーったよ。やりゃいいんだろ、やれば」

「うむ、や、やるしかないぞ。うんうん」

「ったく……珍しいんだぜ? 俺が魔法を使わないで何かを持ち上げるなんて」

「ふん、この程度で潰されるなよな。私は……そんな軽い女じゃないのだから……ちゃんと肝に銘じておけ」

「ああ」

「でも、一生別れてやらんぞ。覚悟しろ?」

「その覚悟は七年前からしているよ」


 持ち上げて、そして、塞いでやった。

 どうだ、満足か?



「「「キターーーーーーーーーッ!!!!」」」



 なんかもう、全員興奮して叫んだり、ポーシングして筋肉披露したり、シャドーボクシングみたいなのやりだしたり、とにかくみんなジッとしていられないのか、悶えていた。



「うひゃ~~~~、もう、パナイ爆発しちゃえよ、このリア充~! お幸せに! さ、みなさんも闘技場に降りて降りて! 二人の門出を祝うアーチを作るっしょ!」


「ねえ、ボク、もう帰っていい? って、ルシフェルさん? 何あなたまでやろうとしてるの?」


「はっはっは、いや~、面白いね。えっと、こうやって虹をかけるように、アーチを作るわけか。ささ、ネフェルティ氏」


「うむ、今の余は魔王ではない。一人の少女の幸せを願う、一人の魔族である! ささ、通るがよい」


「がははははは、マジでこいつら馬鹿だ。おい、ラクシャサ、テメエはやらねえのか?」


「………………………………………ふっ……やろう」


「いや~、なんかよくわかんなかったけど、あたしらもやろうぜ、ユズっち。って、ユズっち、ピョンピョン飛び跳ねてどうした?」


「うう、背が………届かない……アーチ作れない……」



 ここを通れって言うのかよ! しかもやけに贅沢なメンツを使ったもんだな! 

 つうか、これを通ってどこに行けって言うんだよ。

 とりあえず、まあ………


「行くか」

「お、うむ……じゃなくて……はい」


 アーチをくぐり抜ける俺たち。皆が俺たちの背中をパシパシ叩いて拍手する。

 この感覚は、アレだな、帝国で勲章授与された時のノリだな………。


「……あーあ、こんなのバレたら、あいつ泣くだろうな……」


 思わず、幼馴染のお姫様が脳裏に浮かんじまった。

 ウラの嫁云々は昔からあった話だからいいとしても、こういうゲリラ結婚式的なのは流石にバレたらまずいよな。

 まっ、といっても、今のあいつは俺への恋心を覚えてねえし、そもそもこのイベントはこの会場内だけのことだし、まあ、いっか………



「ヴェルト君! き、君は……一体、なに、とんでもないことをしているのよ!」



 と、アーチをくぐり抜けて、さあどうする? と思った俺の目の前には、闘技場の外へと続く出入り口の前で、鬼の形相のアルーシャがマジギレ顔で立っていた。

 あっ、無事だった。

 少しだけ服を汚しているが、それほど怪我もなさそうだ。


「パッパ!」

「ヴェルト様!」


 コスモスウウウウウウウウウウウウウウウウ!


「うおおおおお、無事だったか、コスモス!」

「えへへ~、パッパくしゅぐったいよ~」


 アルーシャの横からひょっこりと顔を出す、コスモスが居た! 

 後ろでチーちゃんが絶叫しながらガッツポーズしているが、それよりも先に俺はコスモスを抱きしめていた。

 俺がアッサリとウラの手を離したことに、ウラは少し拗ねた顔をするが、すぐに諦めたような溜息をはいた。


「む、むう……まあ、……コスモスなら良いか」

「あらあら、ウラさん。ふふ、良かったですね。と~っても可愛らしかったですよ?」

「エルジェラ……その……心配をかけたな」

「いいえ。ご無事で何よりです」


 ウラの安否を喜ぶエルジェラに対し、ウラも何だか自分の所為で巻き込んでしまったことに申し訳ないと頭を下げた。


「マッキーラビット……」

「大丈夫っしょ、魔王ネフェルティ。ここから先の映像や登場してくる連中は色々とアレなんで、既に映像は遮断してる」

「そうか、なかなか手際がよいな」

「それが俺の得意技なんで。まあ、俺からすれば、魔王ネフェルティの演出に驚いたけど? これ、最初から仕組んでたの? こんな愛のシナリオを」

「……ふっ、『余とて女』だからな……まあ、ヴェルトとやらがこれほど予想を大きく上回らなければ、本当に余がウラと『同性婚』していたしな。さて……それはそれとして、ついに来たか、こやつらもな」


 すると、エルジェラ、アルーシャ、コスモスに続いて………


「ひーーめーーさーーまーーーっ!」

「ひゅー、ヴェルト、ベリーグッドだった! ユーのプロポーズもヴェーゼもファンタスティックだった!」

「なははははは、あんさん、マジ男やったで!」

「お兄ちゃん、僕、感動したよ」

「しかし、まあ、後先考えずによくあれだけのことをしたゾウ」

「多分、あんなことをしでかしたのは、マッキーくんじゃろうがな」


 おお、いいタイミングで全員来た。


「ルンバ、キシン、ジャックポット、ラガイア、カー君、バルナンド……なんだよ、お前ら来てたのか」

 

 無事でなにより……って、こいつらはメンツ的に無事に決まってるけどな。

 ただ、俺を冷やかすような拍手を送る皆に、既に来ていたならさっさと出てこいよと文句を言おうとした。

 だが………


「いや、ヴェルト。ミーたちは来てたんじゃない。今、来たんだ」

「………はっ? そうなのか? でも、だったら何で今やってたことを知ってるんだよ?」

「ん? それは、地上で見てたからだが? スカイのオーロラビジョンで」


 ………………………?


「ええ、そうよ、……君は……君たちは……いいえ、ヴェルトくんのその様子だと、犯人は……マッキーくん!」

「バイバイキーン!」

「何を逃げているの! 待ちなさい! あなた、自分が何をしでかしたかわかっているの? あんなことをするなんて! よ、よりにもよって、世界同時放映するなんて!」


 どういうことだ? 

 ヤバ……なんか……スゲーことが俺の知らないところで起こってたっぽいんだけど


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