第294話 七大魔王国家

「ヤヴァイ? ま、まさかテメエ!」


 ヤヴァイって、それこそヤベーじゃねえかよ! つか、え? マジで?

 はっ?


「あ~らら、テメェ? なになに? ボクにテメェ?」


 俺たちを冷やかすように笑うジャレンガ

 つーか、ヤバ。俺、今、テメエとか言っちゃったよ。王子に向かって。……いや、今まで出会った魔王には全員に言ってるか。

 だが、今回は相手がヤバイ。 

 しかし……


「あっ……ひぐっ! ゴミ!」

「っ!」


 それはイメージだった。

 全身に悪寒が駆け抜けるほど明確な殺意が俺の心に刻み込まれた。


「口は? 災いの元? その後悔を味合わせようと思ったのに? 邪魔しちゃうのかな? ルシフェルさん?」


 もし、このジャレンガという男の腕を、ルシフェルという男が掴んでいなければ、ひょっとして俺は今、ヤバかったか?

 そう感じさせるほどの殺気。


「落ち着きたまえ。『テメエ』という言葉は、乱暴なようで、互の立場を越えて一気に距離を縮める言葉。言葉の文化が生み出した奇跡。政務の場でもないこの場で使われたその言葉に目くじらを立てた王子を見過ごすほど、俺も無関心じゃないさ」


 しかし、そんな殺気をも強い爽やかさで包み込む、このルシフェルもまた、異常。


「ふ~ん? 言いたいことはそれだけ? その言葉の使い方っていうの? 間違うと、後悔して地獄に行っちゃうよ?」

「はっは、血気盛んな王子様だ。その気迫、いいじゃないか。だが、俺は後悔しない。言葉も戦いも生き方もね! そこでどうだい? 俺を後悔させるほどの力を見せてくれたら、ジャレンガ氏に詫びを入れることを約束しよう」

「何その、微塵も詫びる気もない約束は? あれ? 自分が負けるなんて微塵も思ってないから?」


 なんなんだ? こいつらは……


「いや、ヴェルト、ちょ、どうするっしょ、マジで」

「う、うう~……うう」


 俺たちが当事者のはずなのに、俺たちそっちのけで勝手に盛り上がるルシフェルとジャレンガいう名の男。

 さすがの空気読めない代表のアルテアとユズリハも、状況が全く読めていない。

 だが、今のアルテアの言葉に、ジャレンガが「ん?」と反応を見せた。



「ヴェルト? 今、ヴェルトと言ったかい?」



 俺の名前がどうかしたのか? そう思ったとき、再びネフェルティが姿を見せた。



『驚かすのはそれぐらいにされた方がよいぞ? ルシフェル殿。ジャレンガ王子』


 

 爽やかに手を上げて微笑む、ルシフェル。対してジャレンガはギロリと鋭い眼で、ネフェルティを睨みつけた。



「ねえ、聞いてないよ? 魔王ネフェルティ。今日ボクは……『魔族大陸サミット』を開催するとしか聞いてないよ?」



 いや、おま! なにをサラッと爆弾放り込んでるんだよ!



『そうだ。それは変わらない。人間、亜人、そしてサイクロプスと鬼共を交えたサミットを開催される前に、ヤーミ魔王国、クライ魔王国、ヤヴァイ魔王国の三国の意思統一を図るため。さらに、かつてシャークリュウとチロタンが納めた国の残党と領土を吸収し、魔族統一を図るためのものだ』


「でしょ? 父さんと兄さんは、ジーゴク魔王国とマーカイ魔王国の動向監視で忙しいから? 代わりにボクがワザワザ来たのに? これはどういうこと? なんか、余計な連中がうろついているでしょ? しかも………」



 おい、それってかなり世界の行く末を左右させるビッグイベントじゃねえのか?

 俺らの前でアッサリ会話していいのか? そんなこと、ウラやフォルナたちも知らねーんじゃねえのか?

 だが、俺のそんな思いを余所に、何故かジャレンガは俺を見た。



「しかも、彼がヴェルトっていう子みたいだけど?」


『それがどうした? 余は人間の世界には詳しくないが、ヴェルトとやらは有名なのか?』


「あらら? 忘れちゃったの? あの、『ガラクタ人形』が助けたがってた人間でしょ? あ、それとも知らなかった? ああ、そっか、あれだっけ? 君たちは、あのガラクタが『兄さんを助けてほしいっす』って言ってただけで、本名は知らなかったっけ? そっか、そこらへんのことは、ボクたち側から教えてなかったっけ?」



 えっ……俺? 


『なに? それでは、彼が…………』

「本当に知らなかったの? やっぱ、こうして会って情報共有しないと、メンドーじゃない? 『あの女』にも文句言わないとね?」


 思わずアルテアとユズリハを見たが、二人も意味が分からず首を傾げていた。

 しかし、ネフェルティの方も驚いたように眼を見開いていた。



『……なんと………そういうことであったか。なるほど……だからウラを……。なるほどな。こやつと異種族が共に居ることに合点がいった……』


「なんだ、本当に知らなかったの? まあ、君たちの役目は、ウラ姫を人間たちから怪しまれないように引き込むことだったけど? というより、ウラ姫がどうかしたの?」


『いや、待て。おかしいではないか。確か例の男は、聖騎士に捕まり、監獄に居るはずでは? 救出作戦はまだ実行していないと聞いたが、何故外に?』


「さあ? 脱獄したんじゃない? まあ、そこらへんは本人に聞いた方が早くない? でも………何だか凄いことになっちゃった? ……これなら、ボクより、父さんが来たほうが良かったんじゃない?」


『確かにな。本当に偶然だ。今になって本当に驚いた。これはもう、運命かもしれんな』



 俺たちをそっちのけで俺たちの話を続けるこいつらは、一体何の話をしているのか?

 ネフェルティ。ジャレンガ。そして、ルシフェルもだ。


「ジャレンガ氏。俺もね、驚いているが本当に今日は運命が集っている。彼が噂のヴェルト氏で、そのうえ何故か、チロタン氏が彼と行動を共にしている」

「チロタン? あの魔王……生きてたの?」

「そしてだ、俺たちにとって最大の課題でもあった、鬼とサイクロプスの件もだ」

「どーゆうこと?」

「悲劇の王子と呼ばれた、ラガイア王子。そして、例のキシンという鬼もヴェルト氏と行動を共にしている」

「ラガイア? ああ、あのハブられてた子? それとキシンって………へ~、ジーゴク魔王国、『本来』の魔王? 聖騎士の所為でボクたちは忘れているみたいだけど、本当なの? いや、本物なの?」

「本当さ。今ここに向かっているが、足止めに差し向けた、『マモン』を瞬殺した。と言っても、元々死んでいるけどね」

「へえ、そうなると、あれじゃない? 『クライ魔王国』は、『魔王ラクシャサ』自ら来てるし……これってあれじゃない?」


 チロタン、ラガイア、そしてキシン。その名前に何の意味があるのか? 大有りだった。

 って、ちょっと待て! 何でキシンのことをこいつらは、『聖騎士の所為で忘れた』って知ってるんだよ!



「そうだ。凄いだろう? 今、この国に……ヤヴァイ魔王国、ジーゴク魔王国、マーカイ魔王国、クライ魔王国、ヤーミ魔王国、ヴェスパーダ魔王国、そしてチロタン氏のポポポ魔王国。七大魔王国の王族関係者が一同に集結した」



 会話の流れや事態の全容を把握できなくても、分かる。

 ちょっと今、メチャクチャヤバイことが起きてんじゃねーのか!


『それまでだ。そこから先は、ヴェルト・ジーハが不憫だ。その先の話は、このイベントを終えてからだ。魔王ラクシャサは既に、席に着いているからな』


 盛り上がりだしたルシフェルとジャレンガの会話を打ち切るように、ネフェルティが口を挟むと、すかさずネフェルティは俺に体を向けた。


『ヴェルト・ジーハ。お前が噂の男とは知らなかったが、それならウラを大切に思う気持ちは本物であろう……』

「勝手に納得しやがって。一体、俺にはどんな噂が飛び交ってんだよ。なんで、テメエらがキシンのことを……そして俺の……いや、もうアレだな……俺たちのことを誰に聞いた?」


 俺はもう聞く前に、既に答えは分かっていたかもしれない。

 だが、それでもあえて聞いた。

 しかし、ネフェルティはすぐには答えない。


『ただの七つの大罪の試運転と……キシンとやらの力が本物かどうかを確かめ、ついでにウラを口説こうとするお前で遊んでやるだけのつもりであったが……少々目的が変わったな』


 そして次の瞬間、ネフェルティが眼を見開き、初めて真剣な声で俺に告げた。



『来るがよい、ヴェルト・ジーハ。待っている。そしてお前が『本物』であるのなら、全てを語ろう。これはもはや余とウラだけの話ではない。魔族大陸が、お前を見定めてやろう』

 


 まるで俺を試しているかのような誘いは、どういうわけか俺の心を熱く胸打った。


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