第226話 まさかあいつは?
この世界にも、妙な口調や訛りというものは確かに存在する。
しかし、ここは日本じゃねえから、言葉も日本語なわけでもねえ、この世界の言語だ。
だが、なんだ? このデジャブみたいなものは。
俺も、加賀美も、そしてミルコも同じことを思っただろう。
「どんなもんじゃ~~~~~~~~~~い!」
解き放たれた野生の闘争本能を丸出しに、地獄の底ですら熱い炎を滾らせる男。
目立ちたがりで、頭が悪そうで、しかし自分の全てを曝け出すその姿は、どこか懐かしさすら感じた。
「く~、やっぱジャックポットの試合はスカッとするぜ」
「だがよ~、あいつは強すぎて全然賭けにならないのが困る」
「いいかげん、誰かあいつに黒星つけられるやつはいないものかね?」
カジノの賭けの参加者たちの声が地下闘技場に広がる中、拳を突き上げた闘士・ジャックポットは背を向けて立ち去ろうとする。
だが、その後ろ姿を慌てて止める声が上がった。
「なにをしている、ゴミ
それは、観客席の手すりの上に飛び乗って見下ろす、ユズリハ。
「ん? お~、ユズリハやないか! お前、こんなところでなにしとんねん!」
ユズリハの姿を見るやいなや、急に気のいい兄ちゃんのように気さくな笑みを浮かべたジャックポットは手をブンブン振っている。
しかし、その能天気な姿にユズリハは「ブチッ」と音を立てた。
「貴様……私の給料まで持ち出しして、いつまで遊びほうけている、殺されたいのか!」
「ん? お~~、そやった! 旅の軍資金増やすために、ワイはここにおるんやった! あ~、すまんすまん、堪忍な、ユズリハ! 兄ちゃん、別にお前のこと忘れとったわけやないねん!」
「忘れていたな! どうせ、賭けで頭がいっぱいになって当初の予定を忘れていたな! 殺す、殺す! ゴミ兄!」
「あ~、もう、そや! アメちゃん。アメちゃんやるわ! お前の大好きなペロペロキャンディをぎょうさん買うたるさかい。堪忍や!」
「アメちゃんはもらう! しかし貴様は殺す!」
周りのカジノ客たちが置いてきぼりにされる中で、兄妹口喧嘩を繰り広げる二人。
さすがに客たちもザワつき始めている。
だが、俺たち三人は未だに反応が遅れたままだった。
「ジャックポット選手。次の試合が始まりますので、そろそろ……」
「おー、すまんすまん。すぐどくわ」
そんないつ終わるともしれない口喧嘩も、次の試合があるからと申し訳なさそうにカジノの立会人が急かすと、ジャックポットはすぐにケラケラ笑いながら走り出した。
「兄ッ!」
「ほなな、ユズリハ。兄ちゃんこのあと手続きやら色々あんのや! お前もテキトーに遊んで、後でメシでも食おうや!」
どこまでも自由奔放で、人の迷惑を顧みない。
あまりにも悪気のなさそうに、選手たちが出入りする奥へと逃げ出したジャックポット。
「あの、ゴミ兄ゴミ兄ゴミ兄!」
「はは……小生にも気づかれていなかった様子だゾウ。相変わらず、ああいう周りを気にしないところは父親に似ているゾウ」
その姿に、ユズリハは地団駄踏んでイライラ。
だが、俺たちは思った。
父親に似ているというよりも、あいつは元々ああいう奴なんじゃねえのか? と。
「日本語じゃねえのに、関西弁に聞こえるとかどういうことだ?」
ようやく絞り出せた俺の言葉はそれだけだった。
「さあ、そこらへんは、俺も分からないっしょ。ただ、なんか……こ~、懐かしい感覚もあるっていうか……」
加賀美もそう感じたのか? どうやら、俺だけじゃねえようだ。
どこか懐かしいような特徴ある喋り方。
そして、それだけでなくあの振る舞いは?
「加賀美、ここはテメェの作った闘技場だろ? どういうことだ?」
「いや、俺もパナい知らないっしょ。多分、ここ最近入った新人さんしょ? ユズリハちゃんのお兄ちゃんみたいだし」
「ああ、ユズリハの兄貴ってことは間違いないんだろうな。問題は、その兄貴の正体だよ」
まさか? 俺たちは言いようのない衝撃に、未だに冷静でいられねえ。
「ミルコ、どう思う?」
俺は、あのジャックポットについて、一番何かを感じたと思われるミルコを見た。
だが、あのミルコですら判断がつかないのか、目を白黒させている。
しかし、それでも言う。
「確証は……バット、リューマ、ミスター加賀美。ミーが今思ったことは、多分ユーたちと全く同じ……いや、全く同じ人間を思い出したというべきか?」
まあ、そうだろうな。
俺たち三人にしか分からない感覚だった。
あのジャックポットって奴はもしかして? いつの間にか俺たちはそう思うようになっていた。
すると……
「おっ、マッキー社長! 逮捕されたってのに、どうしてここに!」
「社長だ! 社長!」
「うおおお、こりゃ、驚いた。社長の復活ですか!」
「いや~、これは嬉しい。タイラー将軍が代理社長をされてから、もう、全然刺激がなくて」
「また面白い催し物を頼みますよ!」
加賀美の姿に気づいた観客たちが声を上げる。
一応人望あったんだな。
そんな中で、
「マッキー社長! マッキー社長ではないですか!」
興奮したような声と共に、何人もの黒服たちが俺たちの周りに集まってきた。
その姿を見て、先頭に立っている男に加賀美はニヤニヤしながら手を挙げた。
「お~、ジーエルじゃないか。パナイ久しぶりっしょ。何やってんの?」
って、ジーエル? ジーエルじゃねえか!
「はい。シロムが崩壊してから、色々ありまして。二年前、オークションも取り壊しになり、奴隷調達部も撤廃されてしまい、やむなく地下カジノに………今ではここのホール主任です」
「へ~、そうなの。いや~、メンゴメンゴ。俺が逮捕された後の経営は他の奴らがやってたっぽいから、知らないんだよね~」
「いえ、しかし、マッキー社長が戻られたのであれば! って……社長は釈放されたのですか?」
ジーエル。確か、この男と会ったのは、シロムに行く前の話。
ムサシとその後輩が奴隷商のやつらから、こいつらに引き渡される時の話だ。
結局、イーサムがシロム襲撃した際に別れてそれ以降は知らないが、生きていたのか。
「して、社長。そちらの方々は?」
「ああ、俺の友達っしょ」
俺を見ても特に反応なしか。まあ、こいつも二年前の出来事から、俺の記憶が消されてるんだから仕方ねえけどな。
「ひはははは、しかし、組織が改変してから、あんまり奴隷だ賞金首だを利用できなくなったと思ってたけど、ここは相変わらずのパナイ狂喜な盛り上がりじゃない」
「はい、それはもう。むしろ、大きな戦争が少なくなり、各国や他種族でも軍備が縮小の憂き目に合い、職を失った軍人たちが一攫千金求めて闘技場に来たりもしますからね」
「な~るほど。それで、あんな化けもんみたいのが来たのね?」
「ええ。彼は拾い物ですよ。いきなり『強い奴はおらんのか?』と言っては、並み居るベテラン戦士を蹴散らして、一気にトップに上り詰めた怪物です」
加賀美が顎で選手出入り口を指すと、ジーエルも興奮気味に頷いた。
そこそこゲスイ話をしているところもあるが、まあ、元々こいつはそういう奴だろうし、今はそんなことはどうでもいい。
「おい、あのジャックポットって奴に会いてーんだが、どうすりゃいい?」
「えっ? ジャックポットにですか? それなら、控え室に案内しますが……」
もしあいつが「そう」であるのなら、確かめなくちゃならねえ。
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