第218話 せめて俺の手で

 とりあえず、風呂も入ったし、さっさとあいつら回収してこの場から……


「らめ~、ひゃちょ~、らめ~」

「うい~、ひっぐ、うぷ、うあ~今夜はオールナイトっしょ~」


 おい、加賀美…………


「アーユーレディ? セーックス、ドラッグ、エ~ンド?」

「「「ロックンロール!」」」


 こらこら、お前までなにさっそくファンを作ってんだよ、ミルコ。


「え~い、情けないゾウ。男が女に興味を持つのは必然だが、性欲の対象にしか見ないお前には不愉快しかないゾウ!」

「そんなこと言っても……ムラムラするんだな……可愛い女の子いると、手を出さないとダメなんだな」


 なんか、説教してるカー君と怒られてるキモーメン。

 共通してるのは、全員が顔真っ赤にして、へべれけ状態だということぐらいだ。

 何? これさ、どう考えても役に立たねえだろ。

 いま、ファルガたちに見つかったらどうすんの? 


「お~い! メンドクせーのが来たから、とっとと行くぞ」


 まあ、戦ってもいいんだが、面と向かうと微妙な気がする。

 つうか、これまで俺はファルガに甘やかされてたから、正直あんまり知らねーんだよな。

 ファルガに本気をぶつけられるのが、どれだけのことなのか。

 おまけに、クレランまでいる。一度勝った相手だけどな……って、そういうや前に戦った時もこの村か。なんか皮肉なもんだな。


「うい~、お~、りゅ~ま、ミーたちのナイトはこれからさ! フルスロットルで駆け抜ける」

「だから、泥酔してんじゃねーかよ! おら、シャキッとしろ! おまえ、こんな状態で狩られましたとかアホなことになったら、テメエにボロ負けした勇者たちが泣くぞ!」

「大丈夫だゾウ、ヴェルト君。小生は酔っ払ってないゾウ」

「壁に向かって話しかけてんじゃねーよ! おまえ、七年ぶりの酒なんだから、自重しろよ!」

「あんしんしてください! はいて……ませんでした~♪ うぇ~~い!」

「加賀美は………てめ、全裸でなにやってんだ、コラァ!」


 ハメ外すとは言ったけど、言ったけども、何で俺がツッコミしてんだよ!


「だ~もう、知らん! ふわふわデリバリー!」


 全員かついで運んでやる。俺は酔い潰れてる三人を浮かせて、俺の足並みに合わせて酒場から逃走。


「お~、リューマ、どこにいく? フィナーレはまだ早いよ?」

「アンコールはいらねえから、起きるか黙るかどっちかにしろ」


 とりあえず、ファルガたちがこの村に来た理由は、脱獄犯とか指名手配犯を追いかけてってわけじゃなさそうだ。

 なんか、家出したどこかの兄妹を探してるって話だから、このまま知らん顔して離れれば………


「ん?」

「…………あっ?」


 と思ったら、通り過ぎようとしていた建物の屋根から誰かが飛び降りて来た。

 エロい格好のメスガキ………


「テメエは……ふごっ!」


 踏まれた。

 いや、こいつ明らかに俺の顔を確認してから踏みやがった!


「なんだ、人間かと思ったらゴミか。踏んでしまったぞ」


 こ、この、このガキ! 確か、クリとリスのところに居た、亜人の家出娘とか……


「いや、いやいや! テメエ、正気か! どう考えても避けられそうだっただろうが! 確認してから諦めて踏みやがって!」

「お前バカか? ゴミが落ちててワザと踏む奴がいるか? ゴミを踏んだ私の方が不憫だ」


 えっ、なんでこいつが睨んでんの?

 はっ? 俺が怒られてんの?

 このガキ…………


「ふわふわ……」


 ムカついた。ちょっと泣かせてやろうか? と、そう思っちまった時には、時間切れだった。


「エルファーシア流槍術・イブニングシャワー!」


 ッ! キレのある槍圧。

 それは、当てるためのものじゃねえ。

 あとほんの数ミリずれるだけで、薄皮が切れるぐらいに肌を撫でる槍。

 相手をビビらせるように。お前なんか簡単に殺せるんだと言わんばかりに。

 そういえば、これを見たことはあっても、自分の肌で感じることは生まれて初めてだな。


「ちっ、追いつかれた」


 家出亜人メスガキが舌打ちして建物の屋根の上を見上げる。

 そこには、獲物を狙う人類最強のハンターが見下ろしていた。



「クソメス竜。クソ手間を取らせやがって」



 その傍らには、女神のような微笑みでモンスターの翼を羽ばたかせるハンター。



「お父さん、心配してるよ? 諦めて帰ったほうがいいよ? ユズリハちゃん」



 遭遇しちゃった。つか、二人が探してる家出兄妹って、こいつのことだったのね。


「嫌だ」


 二人の声に、まるで耳を貸さないガキ。

 名前は、ユズリハ? ん~、それもどこかで聞いたことあるような?


「あの父には、死ねと言っておけ。というより、父親面するな死ねと言っておけ。あいつ、ことあるごとに私に結婚して落ち着けとかウンザリだ」

「も~、それは、ユズリハちゃんをすごいすごい可愛がってるからだよ~」

「私が可愛いのは当たり前だ、死ね。だが、あの男はいい加減すぎる。面白そうな奴いたから結婚しろとか言ってたしな。可愛い私が可哀想だ」

「も~、恋愛と結婚は女の子の夢なんだよ? ね~、ファルガ、ね~ファルガ? ね~?」


 なんか、話をしてるみたいだし、このまま無視して去るか?

 ……と、そう簡単にはいかねーか。


「おい、そこのクソ……止まれ」


 名前や名詞がついてるわけじゃない。

 なのに、ファルガの言葉は俺に向けて告げられて居るとすぐに分かった。



「……………俺のことか?」



 二年ぶり。目と目がようやく合った、俺とファルガ。

 相変わらず目つきが悪くて勘違いされそうな冷たさだ。

 だが、それでも二年前までは、俺やフォルナに対しては、瞳の奥底には温かさがあったことを俺は知っていた。

 しかし、今はそれがない。


「………そこに転がってる三人も………クソども、なにもんだ?」

「通りすがりだ」

「………真面目に答えろ、クソガキ」


 真面目か冗談かを抜きにして、ちょっとやっぱり心にくるもんがあるな。

 今のファルガにとって俺は弟じゃねえ。

 ただの、怪しい奴なんだってな。


「ファルガ~、どうしたの? あっ、きみ~、ちょっとここに居ると危ないからお友達と一緒に離れた方がいいよ~」


 クレランも俺を見ても反応なしか。まあ、分かってたんだけどな。

 ただ、顔に出してうろたえると情けねーし、かっこわりーから、意地でもやらねーけどな。

 なのに、何で俺のチームメイトは、こんな風に場を混乱させるのか……


「へい、ここはベッドではないね、リューマ? ミーはいま、どこにいる?」

「うい~、今日はパナイ新記録に挑戦~って、おろ? おやおや? ん~? ほ~、あの屋根に居る二人……何でここに?」

「うぷ、小生としたことが、情けないゾウ。ん? うむ………ん? もし……そこの、少女よ……ちょっと顔を見せてほしいゾウ」


 目が覚めても泥酔したまま、しかし三人は状況を見渡して、一瞬で酔いが……引いたとまではいかないが、それでも何か良く分からん事態だというのは、理解したようだ。


「………ん!」

「え………ちょっ、えっ! ねえ、ファルガ、あの……あの鬼魔族! それに、隣の男も!」


 ファルガとクレランは、ミルコと加賀美を見て、一気に表情が強張った。


「…………あっ……」


 ユズリハというガキは、カー君の顔を見て、少し驚いた顔。

 そして、場に同時に驚きの声が上がった。



「クソが……こいつはとんだ、クソ大物共が!」


「ウソでしょ! なんで、SS級の賞金首、浮浪鬼魔族のキシンが! それに、旧ラブ・アンド・マニーの社長、マッキーラビット! 間違いないわ!」


「貴様………死んだと聞いていたが……生きていたのか………カイザー……」


「ちょ、や、やはりだゾウ! ユ、ユズリハ姫ええええええええええ!」



 俺だけスルーされた……


「お~、OH! ユーたちのことはミーも知っている。確か、ハンター界を代表するスターたちだね」

「これはこれはパナイパナイ、ね~、朝倉君?」

「クソ鬼とクソゲスか。まさかテメエらに繋がりがあるとは思わなかったな。脱獄したという話も聞いてねえし、連合軍は何やってんだ?」

「これは、温泉でリフレッシュとか言ってられないね~。国家級の軍を敵に回していた二人………それに……あの、ゾウさん……人違いであって欲しいんだけどね~……うそでしょ?」


 ハンターとして、さすがに二人はミルコと加賀美には驚きの反応を見せてくれた。

 そりゃそーだ。そして、もはや伝説と化して語り継がれているカー君の存在に、夢か幻かと疑い、そして願っているような表情にも見えた。

 そのカー君は、ユズリハを見てパニック状態。


「お、大きくなられたゾウ。しかし、ユズリハ姫がどうして? 父上と母上はなにをしているゾウ?」

「父のことを私の父扱いするな。殺すぞ? 兄とただの家出中だ」

「兄……? ジャックポット王子まで? えっ、どこだゾウ!」


 亜人同士で知り合いか? つか、ユズリハって姫ってサラッと呼ばれてるけど、相当なVIPなのか?

 だが、どちらにしろ、平和に「さようなら」ってわけにはいかねーだろうな。

 ファルガの表情を見りゃ分かる。


「まあ、いい。このクソ現実、俺がぶち壊す。特にそこのクソゲス野郎。テメエは二年前、俺の妹に手を出して殺そうとしやがった………その借りを今ここで返す」

「二年前? あ~、帝国襲撃のアレね。パナやだな~、お兄様は。それに、手を出したことに関して言えば、ここにヤバいぐらい手を出して出された人が居るのにね~、ね~、朝倉君♪」


 加賀美の野郎、何をニヤニヤして面白がってんだよ。


「ちなみに~、朝倉君、何回ぐらいあのお姫様とチューした?」


 知るか。ガキの頃から数えて、三ケタ以上は覚えてねえよ。



「ったく、仕方ねーな。まっ、こういう人生歩むと決めた以上、遅かれ早かれこうなるか……」



 しこたま酔っ払ってるこいつらをアテにもできねーし、俺と深い関わりのあったこいつは……



「たとえ、俺のことを覚えていなくても、せめて俺の手で」



 だから俺は、俺のことをまるで見ない、まるで興味を示さず、ただ加賀美やミルコやカー君ばかりを見るファルガに、俺のことを見やがれと、攻撃をしかけた。

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