第207話 嘘
「ど、どういうことですの、ヴェルト! タイラーが、誰かの命令で? しかも、嘘……?」
「兄さん、オイラわけわかんないっす!」
「殿~! 拙者もわけわかんないっすでござる! ……じゃなくて、訳が分かりませぬ!」
なんとなくだけど、そんな気はした。
「ヴェルト……な、何を……」
ああ、良かった。
タイラーは本当に誠実だ。隠し事はするけど、嘘は下手だ。
だからこそ、これを逃す気はなかった。
「隠し事と誰の命令で動いているかは言わねえか。なら、聞き方変える。………エルファーシアの国王様はなんつってる? ……それと、俺は良く分からねーんだが……………『聖王』ってどこのどいつだ?」
人類大陸、六人の聖騎士とその仕える王にのみ世界の真実を教えたと言われる聖王。
あまりにも色々とありすぎて、初めて聞いたときは聞き流したけど、今は違う。
正直、色々とどうでも良かったが、話の流れで興味本位に聞いてみた。
そして、確信をした。
「なあ、タイラー。ドラが神族の兵器ってのは一応納得してやるよ。でもな、それならこいつを調べるよりも……こいつを作ったやつを探す方が手っ取り早くねえか?」
「………………………」
「タイラー。お前、ドラを預けさせて欲しいってのは……本当に神族への武器対策のためなのかよ?」
すると…………
「それまでだ、ヴェルト」
「…………………………はっ?」
これは予想外だった。
「ッ、ハウ!」
「兄さん!」
「き、貴様、殿に何をするでござる!」
予想もしてなかった展開。
俺の背中に、鋭利な短刀が突きつけられていた。
「テメェ、ハウ、何考えてやがる………」
それは、ハウだ。
ハウの目は昔と同じ、容赦のない冷たい目。
それは脅しではなく、イザという時は本当に突き刺す気迫が込められていた。
「ヴェルト、知らなくてもいいことまで知る必要はないんだ。あんたは、姫様や他の女たちを囲ってイチャついて、それを守って生きてりゃいいんだよ」
それ以上は尋ねるな。尋ねたら殺す? ……ナメやがって……
「ふわふわ――――――」
「やめろ、ハウ」
俺がハウを遠ざけようとした瞬間、タイラーの声が響き、ハウの体が大きく揺らいだ。
「………タイラー将軍………」
「やめろ、ハウ。今のお前では、ヴェルトには敵わない。ましてや姫様の御前だ。控えろ」
「………」
何だ? こいつらは、一体どういう関係性だ?
そして、俺の質問は、こいつらの何に触れたんだ?
「ヴェルト。すまないが……これ以上は、何も教えられない。それは、お前がエルファーシア王国の王になって初めて知ることができることだ」
神族とは何だ?
ドラにはどんな真実が?
タイラーたちの本当の目的は何だ?
そして、聖王とは一体どういう存在だ?
「タイラー。ヴェルトの質問の答えはワタクシも知りたいところですわ。聖王。選ばれしパラディンと王にしか伝えられぬ存在。これまで、その神聖さゆえに政を持ち込まぬように、限られた者にしかその存在を知られていませんでしたが、一体そのお方がどう絡んでいますの?」
「申し訳ございません。いかにフォルナ様の命令といえど、答えることはできません。それは、国王様も御理解頂いていることです」
「お父様も………、一体あなたたちは……世界の裏で何をしていますの?」
そして、ダンマリを決め込む。
何も分からないまま、何も聞き出せずに終わるのか?
そう思いかけたとき、この場に第三の存在が現れた。
「ミーもwant to know」
これほどの存在を、声が聞こえるまで全く気付かなかった。
「ッ、お、お前は!」
「なぜ!」
「ど、どういうことですの!」
「なんすか、あの人!」
「殿、おさがりください、危険です!」
いつからそこに? つか、なんで? 帰ったんじゃねえの?
「マイフレンドに借りを返すつもりで戦争を終結させようとしたが、ミーのパワー不足で叶わず、結局マイフレンドの手を煩わせた。その侘びと一言ぐらいハローを言っておこうと思ってウェイトしてたのさ」
とても魔王には見えない風貌。
「ハロー、マイフレンド」
「何だよ、帰ったんじゃなかったのか?」
「おお、悲しいことはノーだよ、リューマ」
黒いズボンに黒いジャケット。下には白いシャツが見えている。
頭には、本来生えているだろう角を隠すように、黒いハット。
それでギターを片手に持ってれば、完全なロックンローラーだ。
「魔王キシン! 何故、あなたがここに!」
そこに居たのは、ミルコだった。
「今回の件で、ミーはビッグマネーを手にしたもののマイカントリーに与えたショッキングは大きい。人類打倒の目標を達成できずに金で動いたとジャッジされる。ミーも失脚してネクストジェネレーションにバトンタッチ」
「そうですか………しかし、世界はあなたの寛大な判断により救われたと言ってもいいものです」
「…………ふっ………」
その時、ミルコは軽くギターの音を鳴らして、タイラーを指差した。
「そう、今の話でミーが引っかかったのは、そこ。今回、多大なマネーを支払って世界の戦争をコントロールしたというのに、さっきの話といい、マイフレンドのことといい、何故………ユーはそこまで急いでいる?」
それは、俺の中にあったモヤモヤを的確にミルコが代弁した。
そうだ、目標は達成できたじゃねえか。
人類も滅びず、戦争も回避し、しばらくはデカイ戦争はなくなるはずだ。
なのに、何故いきなり俺をすぐにリーダーにするとか、天空世界を支配下に置くとか、タイラーは急いでるんだ?
「なあ、ミスター・タイラー。ユーの話では、三種族のパワーバランスが崩壊して世界のパワーが弱まってから、神族は出現して全生命を絶滅させてワールドを手に入れると………聖王が言ってたらしいが……なぜ、聖王はそんなことを知っている?」
そして、ミルコは言った。
「ミーも知りたいね………長年人類とバトルしてきたが、一度も表に顔を出さない、聖王のことを……聖王とは何者か」
その言葉に、タイラーとハウの表情が強ばった。
「アンド、ユーたちは………本当に神族の復活を阻止しようとしているのかな?」
「な………に……」
「そもそも、神聖魔法などというものを扱う聖騎士が、神の復活を妨げようというのが、クレイジーな話だ……ミーは……どうも納得できない」
それは、俺の考えていたことよりもさらに先の領域まで踏み込んだ、ミルコの問いだった。
「ずいぶん昔から、聖王や神族のことを言い分に、聖騎士たちが戦争の勢いをコントロールするようにミーたちに提案してきた……三種族が疲弊しきった後の世界で神族たちが漁夫の利プロジェクトというセコイ手に来るのはなんとしても防ぐべきだ~……と……ただ、ミーは五年前辺りからクエスチョンだった」
五年前……五年前って……
「ヴェスパーダ魔王国が人類の国……ボルバルディエ王国をデストロイしたあたりから……」
鮫島の……って、こいつはそのことを知らなかったんだろうが、それでも魔王シャークリュウとウラたちのことか?
「ボルバルディエのトンネルは各大陸に行きわたっていた……つまり、もしヴェスパーダ魔王国がボルバルディエをデストロイしていなければ、魔族も亜人もビッグダメージを与えられていただろうが……それをユーたちは放置していたのではないか?」
「魔王キシン……何を言っているのか私には―――」
「四獅天亜人のカイザーを打ち倒し……さらには、魔王シャークリュウも倒した……その時はそれほど大騒ぎせず、さらにラブ・アンド・マニーはエルフたちなど亜人の主要な種族までデストロイし……それでいて、ユーたちはシンセン組にシロムを滅ぼされたり、今回の時のように『人類』の都合が悪くなると――――」
「魔王キシンッ!」
そこで、タイラーは声を荒げて止めた。
しかし、それでも俺たちは確かに聞いた。
ミルコが言った、「人類の都合が悪くなると」のくだり。
そしてミルコは口元に笑みを浮かべ……
「今回、ミーが大規模な戦をスタートさせたのは……人類大連合軍を滅ぼすためというよりは……もう、コンファームしようとシンキングしたからだ。世界のバランスが崩れたら本当に神族が現れるのか……まぁ、そのプランはマイフレンドへの想いを優先してストップしたが……実際、どうなっていたか、ミーは知りたい……」
その言葉を聞いて、俺はハッとした。
そういえば、ママンが言っていた。
――ジーゴク魔王国のキシンはふざけた振る舞いはしていても、決してバカではないわん。彼も神族に関する話は承知しているはずなのに、今回人類に甚大な損害を与えた……バランスが大幅に崩れて面倒になるということを承知で……それが一体どういうことか……
あれは、こういう意味だったんだ……だが、そうなると……
「もし、ユーたちが嘘をついていたとしたら……ふふふ……まぁ、聖騎士は全員人間だからかもしれないが……」
もし、仮に嘘だとしたら……それって、魔族や亜人からしたら……
『それまでになさい……それ以上はまだ知ってはならない……魔王キシン……そして、希望の寵児、ヴェルト・ジーハ……今はまだ……』
「「「「ッッ!!!???」」」」
『聖騎士たちは真実を語っていなくとも……それが人間、魔族、亜人を含めた世界のためにという大義に通ずることに偽りはない』
この声は、誰から?
「誰だ?」
「……Who?」
頭の中に響く? 俺だけじゃない。ミルコにも……
「ヴェルト、ど、どうしたんですの? 話の途中で何を……?」
「殿?」
いや、フォルナとムサシには聞こえないのか?
これは一体……
『世界と戦力をどうしても保たねばならない……全世界を巻き込む『ハルマゲドン』が始まるまで……悠久の時よりこの計画は繋がっている……そして、それは間もなく始まる」
誰だ? 俺とミルコだけに……いや、俺とミルコの他にも……
『タイラー……此度の件で人類滅亡危機から大きく脱するどころか、世界の種族は我らの想定を大きく超えた理想へと向かっています……この機は必ずうまく導かねばならない……』
タイラーにも聞こえている? じゃあ、これは……
『今、世界に散らばる他の聖騎士たちには既に伝えてある……タイラーよ……あの魔法を今こそ、この二人に』
『ッ!? な、まさか……お、お待ちください、聖王! それだけは……それにあの魔法はイザという時の……一度発動してしまえば……』
『世界に影響を与える魔法……ゆえにかけられる人数は数人程度……しかし、それが今だ。この二人はそれほどまでの存在だ……一時で構わぬ……その時が来るまで、二人を世界から消去せよ』
聖王!? じゃあ、この誰だか分からない声が聖王ってやつで……魔法? 俺たちに何をする気だ?
「おい、ミルコ!」
「Yes、何が起こるか分からないが……デンジャラスな匂い」
「は? ちょ、どういうことですの!? ヴェルト!」
「殿ぉ、拙者も何が何だか……」
「兄さん、オイラも訳わかめっすー!」
何かが起こる。
そう思って身構えた瞬間、突如空に巨大な魔法陣……大地に……いや、もはや世界に!?
「な、何だこりゃ?!」
「テリブルな魔力!」
ヤバイ、この感じ……分からないが……ただヤバイということだけは――――
「ヴェルト……すまん……少しの間……お前の時間を……お前を……ボナパ……アルナ……すまん……私は……お前たちの宝を……」
そのとき、タイラーが涙を流しながら俺と死んだ親父とおふくろへ懺悔し……
そしてこの日、俺たち二人の存在が世界から消えた。
――第六章 完――
これにて第六章が終わり、ようやく物語の序章が終わったというところですかね? 訳わからん? 深く考えず付き合ってくだされ~。ストックはあと200万字ぐらいしかないんですが、頑張って更新続けますんで、引き続きよろしくお願い申し上げます。
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