第184話 快進撃
まるでジェットコースターのようだ。
それともサーファーか?
激しく上下に動き、荒ぶる魔人というボードに乗って、押し寄せる鬼魔族という荒波を全て蹴散らしていく。
「どっせいああ!」
「ぶちかませ!」
「御意ィ! 魔王ヴェルト様に続けェ!」
「覚悟しろ、鬼魔族ども! よくも! よくも我らを騙したなァ!」
魔人族の強靭さ、そして魔力の力はよく知っている。
いかに鬼魔族が人間よりも何倍もの肉体的な強さを誇っても、魔人を相手にすればそれほどの差はない。
さらに、今の鬼魔族たちは混乱。
対して、魔人族は士気最高潮。
そう簡単には止まらねえ。
「な、なんだ、こいつら!」
「た、隊長! 止まりません!」
「おのれえ! 何故だ! 何故魔人族が人間に肩入れする!」
ああ、同情するよ、鬼の諸君。つーか、俺も聞きてえよ、この状況。
「さあ、蹴散らすであります! 我が同胞たちよ!」
「我らの先代魔王シャークリュウ様の元へ、この鬼共の骸を溢れさせるなり!」
「我らの新たなる王と共に行くでしょうが!」
煽るなああああああああ!
「「「「「ウオオォォォォォォォォォォォ!!!」」」」
ノルなああああああああ!
ダメだこいつら、もう、早くなんとかしねーと……
ああ、ほら、鬼だけじゃなく、人間まで置いてきぼりだよ。
「部隊長! 彼ら、魔人族の集団ですが、我らの加勢でしょうか?」
「分からぬ。しかし、彼らは叫んでいた。フォルナ姫の恋人、ヴェルト殿を、魔王ヴェルトと!」
「まさか! おい、彼は魔族なのか? シップ! 確か、お前は彼と同郷だろう? 彼は魔族なのか?」
「いや、マジで全然違うっていうか……もう、俺もあいつのことはよく分かんねーっす」
シップ、変な勘違いされてるから、そこは自信を持って否定してくれ!
つーか、どう見ても俺は巻き込まれてるだろうが!
「ッ、どちらにせよ、この好機は逃す手はない! 敵は予想以上に混乱している!」
「全軍、魔人族に続けェ!」
人類大連合軍の勢いが盛り返してきた。
多少の混乱はあるものの、これは千載一遇のチャンスだと誰もが判断して鬼たちへと立ち向かう。
戦況が、変わった。
「あんた、バカじゃないの?」
「ぬおっ!」
その時、この怒涛の勢いで突き進む軍団の先頭を行くサンドゴーレムに、ハウが自力で追いついてきやがった。
「ハウ! おまえ、よく追いついたな」
「なめんじゃないよ。フォルナ姫ほどじゃなくても、魔力による肉体強化と速度強化は得意なんだよ」
全力ダッシュ後の疲労感を表情に漂わせながらも、サンドゴーレムに追いついてきたハウ。
腰元にある水筒で補給をして呼吸を整えながら、俺を睨んだ。
「姫様からの命令なんだ。この戦場では私があんたを見てなきゃなんないんだよ」
「お、おお、そうか、なんかワリーな」
「ああ、そうだよ。それが、なんだい? この状況は。あんた、いつから魔王になったんだい?」
俺が聞きてーよ。
「おい、そこの人間、ヴェルト様に生意気な口を聞くなであります」
「はいはい、分かったよ。ただ、同行はさせてもらうよ。こいつに何かあったら、故郷が崩壊するんでな」
本当に申し訳ないです。
ハウは何だかアホらしくなったのか、両足を広げてふてくされたようにサンドゴーレムに座り込んだ。
怒ってんのかな? 向かい風で髪を靡かせながらも前を向くハウの表情は、見にくかった。
すると、その時だった。
「なにをやっとるかあああ、魔人族共ォ! ワシの言ったことを忘れおったか!」
前方上空にジジイ発見。スドウとかいう奴だ。
「お前たちがこの戦争で力を貸せば、人類大陸に幽閉されているウラ姫を救出してやろうというのに、その契約を踏みにじるつもりかァ!」
怒りで顔を真っ赤にしたスドウ。でも、気の毒に。
「スドオオオオオオオオオオオオオオウ!」
「貴様は許さんなり!」
「まずは貴様から殺してやるでしょうが!」
怒りで顔を真っ赤にした、魔人たちの方が、今メッチャ怖い顔してる。
「えええええええ、な、なんでじゃあああああああああああああ!」
かくかくしかじかだ……
「お、おのれ! もうよい! 人間もろとも滅ぼしてくれよう! 前へ出ろ! 超狂鬼部隊!」
お、ついに出てきた。地響き鳴らして、明らかに異常者全開の巨大鬼。
数はおよそ五十。五十もいれば、人間数千人は軽く蹴散らせる。
ヨダレダラダラ、目ん玉イっちゃた連中だ。
さすがに、あれは勢いだけじゃ突っ込めねえか?
なのに、
「ふっ、鬼共め、我らの力を見せてやるであります! いくであります! マジカルバーストショット!」
魔力を凝縮させた魔力砲が発射され、たった一発で巨大鬼の頭部を吹き飛ばした。
「千の魔鳥たちよ。今再び自由な空を舞い上がり、獲物を喰らい尽くすなり! ダーククロウ召喚!」
魔を纏った魔族大陸のカラスたちの群れが召喚され、巨大鬼に群がり、
「鬼? 笑止! 我が師の拳と気迫こそ、正に鬼神のごとき強さだったと知るでしょうが! 魔極神空手秘拳・魔手拳!」
気合とともに発せられた単純な手刀が、十メートル級の超巨大鬼を真っ二つに切り裂いた。
って、
「っつおおお、ま、マジでツエエエエエ!」
あっぶねー、俺あいつらと危うく喧嘩するところだったんだ。
下手したらマジで死んでたな、こりゃ。
「うおおお、ロイヤルガードに続けェ!」
「鬼がなんぼのもんだああ!」
「デカ物ども、オラアアア!」
「よし、魔人どもに負けるな! 俺たち、人間の底力を見せてやれ!」
「義を見てせざるは勇なきなり!」
はは、すっげ。勢いがまるで止まらねえ。
鬼退治を通り越して、これはもうイジメだな。
「お、お、おのれえええ! 死にぞこないの魔人族どもが! もうよい、ワシが自ら片付けてくれよう! この鬼スゴイ魔力でなァ!」
空中でジタバタしてるジジイが、顔を真っ赤にして叫んだ。
「むっ、気をつけるであります!」
「ヴェルト様、お下がりくださいなり!」
「妖幻鬼スドウ、普段は知将として名を馳せても、本来はバリバリの戦闘魔道士でしょうが!」
まあ、そうなんだろうけど……でも………なんか、隙だらけじゃね?
いきなり演説しだしたぞ?
この隙にどうにかならねえか?
「唸れ、大地! 荒れよ、天空! 響け、世界に! 見せてやろう! 魔道の鬼とまで呼ばれ、ジーゴク魔王国の途方もない競争を勝ち抜き、魔族大陸に、世界にその名を轟かせ、史に名を刻んだこのワシの開発した最強魔法! 普段は、この特殊なローブにてワシの巨大すぎる魔法を封印しておるが、この衣を脱いだ瞬間、ワシはすべての力を取り戻す! この世界を地獄に変える、地獄魔法を貴様らに見せてや――――――」
「ふわふわメリーゴーランド!」
「へぶあおあ! うぼおおおお、目、目が、まわりゅううううう!」
隙だらけ過ぎだろ、このジジイ。
なんか、ローブを脱いだら強くなる的なこと言ってたから、脱ぐ前にやってみた。
すると、ナリは鬼でも、身体的な強さはタダのジジイだった。
「レロ~~~~~~~~ン、オヴェエエエエエ~~~~」
ゲロ吐きながら気絶して落下しそうになったスドウを、俺はふわふわで引き寄せる。
なんか、ジジイを痙攣させるほどの衝撃を与えちまって、少し心が痛むが、とりあえずあれだ。
「えっと、まずかったかな?」
試しに、ルンバたちを見ると、なんかスゲー目をキラキラ輝かせて感動していた。
「し、信じられないであります! ヴェルト様は魔王様とウラ姫様に認められただけでなく……実力で……実力であの六鬼大魔将軍スドウを、触れもせずに倒されるとは!」
すると、その気持ちが爆発したのか、三人は拳を突き上げた。
「~~~~~~っ! 六鬼大魔将軍スドウ! ヴェルト・ジーハ様が討ち取ったであります!」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」」」」」
「いや、死んでねえし! てか、やめろ! なんか、スゲー後戻りできねえ感が出てきてるぞ!」
「あんた……もう、あんたってやつは……頭痛いよ、私は」
頭抱えながら蹲るハウの横で、ルンバが魔人たちに俺のことを持ち上げて、更に士気を上げまくってる。
すると、どうだ?
「「「「「ヴェルト様! ヴェルト様! ヴェルト様! ヴェルト様!」」」」」
「「「「魔王ヴェルト様、バンザーイ! ウラ姫様バンザーイ! 魔王ヴェルト様バンザーイ! ウラ姫様バンザーイ!」」」」
「やめろおおおお! コールやめろおおおお!」
魔人たちが大合唱始めやがった。
「ス、スドウ将軍が!」
「バ、バカな! なんなんだ、なんなんだこいつらは!」
「おい、炎轟バーツたちと交戦している、『トゲニー』将軍に伝えろ! 一度後ろに戻って態勢を立て直す!」
「全軍、引けー! 引けー!」
どっちにしろ、相手がジジイとはいえ、それでも鬼共にとっては巨大な柱でもあったりする。
その一つが崩れたと知るや、鬼たちは顔色を青くして、攻撃の手をやめて引いていく。
その様子を見ながら、人類たちの表情に希望が満ちてきた。
「す、すごい! 俺たちが、俺たちが鬼たちを退けたんだ!」
「これは、これは大きいぞ! つい先日俺たちは完敗だったのに、鬼が俺たちに恐れをなしたんだ!」
希望だけじゃない。自信までこみ上げてきているように見える。
俺たちにもやれる。勝てる。倒せる。
その思いが、より人類大連合軍の士気を盛り上げた。
「お、おおお~、なんか、スゲーことに」
「ヴェルト様の力であります」
否定しようかと思ったけど、まあ、そうっぽいし、そう思っとくかな?
複雑な気持ちで、逃げる鬼たちの姿を見ていたら、誰かが数人サンドゴーレムを駆け上がってきた。
「ヴェルト! 無事かい?」
「ヴェルト、ハウ、これはどういうことだよ!」
「おーい! おまえ、こりゃどうなってやがるんだよ!」
「説明していただきたい」
登ってきたのは、シャウト、バーツ、ドレミファ、ソラシドの四人。
「よう、オメーら。敵の偉そうなのと戦ってなかったか? あの、剣山みてーなトゲトゲの鬼」
「トゲトゲ? ああ、六鬼大魔将軍の『針地獄鬼トゲニー』だね。四人がかりでかなり追い詰めたけど、退却されたよ」
「もうちょっとだったけどな! だが、これはマジでいけるぜ!」
「しっかし、オメーマジでどうなってやがるんだ? 帝国で会った時からわけわかんねーやつだったけど、魔王ってなんだよ魔王って!」
「理解不能ですね」
こいつらもどうやら無事だったみたいだ。それに、今の人類大連合軍同様、この士気と戦況に気持ちが高ぶっている。
どうやら、相当ノってるみてーだな。いいことだ。
「ヴェルト様、そちらはヴェルト様の仲間でありますか?」
「そんなところだ」
「ヴェルト、彼らは何者なんだい?」
「昔、ウラに仕えてた奴らだ。国の崩壊とともに鬼共に捕まって、騙されて利用されそうになったみたいだ」
とりあえず、ルンバたちが敵ではないことは説明する。
もちろん、ドレミファとソラシドって二人は綾瀬の部下であまり関わりが少ないが、シャウトとバーツは別だ。
呆れながらも、苦笑した。
「ウラ姫の。そうか、ならば君を王だと称えても仕方ないかもね」
「ああ。フォルナ姫にぶっとばされねえようにしておけよな」
「いや、何納得してんだよ。どう考えてもおかしいだろ? 何で魔王に納得なんだよ」
「諦めな。むしろここで否定して彼らの加勢が無くなる方が都合悪いよ」
さて、そんなとき、ドレミファが何かに気づいた。
「ん? おい、ヴェルト、このゲロまみれのキタねえジイさんは大丈夫……って、これ! 六鬼大魔将軍のスドウじゃねえか!」
「「「えええええええっ!!!!」」」
苦笑していたシャウトたちが表情を一変させた。
あ、やっぱ驚くか?
「あ~、なんか、隙だらけだったからチョロチョロっとやったら、こうなった」
するとどうだ? ドレミファがもはや白目むくぐらいフラフラになりながら、俺の両肩を掴んで泣き出した。
「お、おれたちが、光の十勇者が、せ、せかいの強豪たちが……一目置いて、その名を轟かせたスドウを……多くの犠牲を出しても討ち取れなかったスドウを……なんかチョロチョロっとで倒したって何事だよコラアアアアアア!」
それに続いて、シャウトとバーツももはや取り乱したように俺の胸ぐら掴んでブンブン振った。
「僕が、僕たちが、僕たちがどれだけ! ヴェルト、君ってやつは! 褒める褒めない以前に、なんなんだい、君は!」
「俺たち、バカみてーじゃねーか! お前、魔王になったり六鬼大魔将軍倒したり、なんなだよ!」
「あなたは……あなたは……あなたという方は……アルーシャ姫がペースを乱された理由がよく分かりましたよ」
「ヴェルト様に乱暴はやめるであります!」
「たとえご友人とはいえ、我らの王なり!」
「立場をわきまえるでしょうが!」
それでも、人類の快進撃は続いた。
「ヴェルトー! へへ、テメェ、なにやってんだよ!」
「ヴェルトくん!」
「やっぱりヴェルトくん、大人しくしないんだから!」
「魔王? 許さないわ。あなたは、私たちエルファーシア王国の王になるんでしょ?」
「あうぅ、ど、どういうことなの?」
状況に気づいたシップ、チェット、サンヌ、ホーク、ペットたちもよじ登って集まってきた。
なんかもー、改めてとんだ同窓会になっちまった。
だが、ここまで来たら仕方ねえ。
この全部を乗り越えた先にフォルナたちが居るんだ。
「やれやれ、本当はあいつの帰りを信じて待ってるつもりだったが、仕方ねえ。もう迎えに行ってやるかな?」
俺も乗り込んでやるかな? 鬼ヶ島に。
旧友たちとハイタッチかまして俺も少しはやる気が出てきた。仕方ねーけどな。
だからだろうか……
「ふん……………」
そんな風に前ばっかり見ていたから、ちょっとしたことにも気付かなかった。
俺たちの輪から少し離れた場所で、ハウが何かを呟いていた。
「こちら、諜報員・零零七番。緊急事態発生。状況が急転した。タイラー将軍に報告を」
俺は、何を言ってるのか聞こえなかったし、気にもしなかった。
ただ、鬼たちの本拠地だけを見ていた。
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