第183話 取り返しのつかない伝説が始まった

「……はっ? ッ、戯言ぬかすなでしょうが! 貴様のような人間が、なぜ魔王様の友人であるでしょうが!」


 俺の発言に一瞬呆けたものの「ありえない」とすぐに声を荒げる魔族たち。

 たしかに「魔王」と「人間」が友達と言われて簡単に信じられるはずがない。

 だけど、俺たちはその「ありえない」ことを超越している関係だからな。


「事実だ。そして俺は五年前、人類大連合軍に追い詰められたシャークリュウから、そしてルウガから、ウラを託された」


 そう、鮫島だけじゃねえ。命懸けでウラを守るために散った、あいつも忘れちゃならねえ。

 鮫島が魔王として、そして父として生き抜いたなら、ルウガは王に仕える戦士の姿を見せた。

 たとえ、魔族だったとしてもな。



「ル、ルウガを! ルウガを知っているでありますか!」


「ああ、知ってる。それから、五年間、ウラはエルファーシア王国で俺と一緒に住んでた。嘘じゃねえ!」


「ッ、こ、この男が嘘を言っているようには見えないなりが……しかし! しかし! ジーゴク魔王国は、そして、スドウは、ウラ姫様は帝国の大監獄に幽閉されたと!」


「嘘ついたんじゃねえの? その方が利用しやすいだろうし、五年も牢屋に居たお前らがそれを知る術なんてねえし。……あっ、そうだ。鮫島とウラからお礼にって貰った指輪があった。ほら」


「えっ、ちょ、こ、これは! エメラルドの指輪と、緋色の宝石の指輪、これは! これは、ヴェスパーダ王家に伝わるリングでしょうが!」



 これだけは五年前から肌身離さず持っていた。

 帝国でもらった勲章はなくしても、これだけは絶対に。

 あと他には、他にはねえか? 俺がウラの家族だって証拠は……えっと、あんま物的証拠は……あっ、あった!


「そうだ、これもあった。これ、ついこの間撮ったやつだ。亜人の世界で最近流行になってる、プリクラってやつだ」


 そう、それは、俺とウラが先生への手紙を送るためにと元気な姿を写した、……その、あれだ、ラブラブツーショットだ。

 あ○なろ抱きだ。俺が後ろからウラをギュッと抱きしめて、顔を真っ赤にしながらも微笑んでいるウラとのプリクラだ。



「こ、これは、あ、ああ、あああ、うわあああああああ! ウラ様、ウラ姫様! ウラ姫様!」



 それを見た瞬間、ルンバは膝をついて崩れ落ち、大粒の涙を流した。


「あ、ああ、なんと、大きくなられて……なんと立派に……王女様と瓜二つなり……」

「それに、とても幸せそうでしょうが」


 他の二人もまた、瞳に涙を溜めながらも、プリクラに映るウラを見て笑顔を浮かべている。

 それだけ、こいつらがどれだけウラを大事にしていたのかが良く分かった。


「しかし、それにしてもなり、君と写る姫様。そして魔王様から譲り受けたという王家の指輪」

「君は、ひょっとして、……君は間違いなく人間でしょうが、ウラ姫様の……」

「うん、この姫様の微笑みは、ただ幸せなだけじゃないであります。恋をしている顔であります」


 照れくせーな。

 まあ、もうそんな分かりきったことを誤魔化すのもあれだし、人間が相手でこいつらには悪いけど、まあ、そこは五年間に色々あったと思ってくれればいい。



「あいつは俺の大事な家族さ。俺の守るべき世界には、当然あいつは含まれてんだよ。魔族だのなんだのは、俺には興味ねえよ」



 するとどうだろうか?


「貴公の……お名前を教えていただけないなりか?」

「ヴェルト・ジーハだ」


 俺の名を聞き、後ろの兵隊たちに三人が振り返ると、声を張って叫んだ。



「ッ、全軍! 我らがウラ姫様をお救い下さった偉大なる恩人、ヴェルト・ジーハ様に種族の壁を越えて、最大限の敬礼!」


「「「「「オオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」」



 さっきまで憤怒に駆られて人間を今すぐにでも滅ぼそうとしたこいつら三人を含めた後ろの兵たちも、突如、俺に力強く、そして輝く瞳で敬礼をしやがった。


「おっ、おお、くははははは、スゲ!」

「っこ、これは、嘘、これは一体?」

「ヴェ、ヴェルト様、あなたは、あなた様は何者なのでしょうか?」

「魔族が、魔人が、ヴェルト様に頭を下げて……」


 もう、ハウたちには何が何だかでポカンとしてら。

 だが、俺にとってはこれ以上のことはねえ。

 生きるか死ぬかの問題が、一滴の血も流さずに解決したからだ。


「まあ、いいじゃねえか、ハウ。こいつらは、俺が預かる」

「ヴェルト!」

「俺の家族の……大事な大事な奴らなんだよ」


 そして何よりも、こいつらとウラを一日でも早く会わせてやりてえ。心の底からそう思った。

 フォルナ。こっちは何とかなったぞ。

 後はお前らだ。後ろは気にするな。心置きなく戦え……



「うおおおおおお、皆の者、この我らの怒りを決して忘れてはならぬでしょうが! 何故なら、我らはスドウの策略に嵌り、無意味な五年を過ごしただけでなく、危うく大恩あるヴェルト様に牙を向けるところだったでしょうが!」


「それは、決して許してはならないなり! 我らの敵は誰か? 人間か? 姫様と魔王様が選ばれた、ヴェルト様の敵なり!」


「ヴェルト様の敵を葬り去るため、我らのこの溜め込んだ怒りを開放するであります!」



 ……ん?



「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」」」」



 ……あれ? なんで、こいつらやる気満々になってんの?

 だって、後は勇者たちの戦いを信じて待つとかいう展開じゃねえの?


「さ、ヴェルト様、来るであります!」

「ゴーレム、屈むなり! ささ、ヴェルト様、ゴーレムの頭部に乗ってくださいなり!」

「我らがヴェルト様の手足となり、鬼退治へと参るでしょうが!」


 あれ? ちょ、ちょ、ちょちょちょちょちょーーーーーっ!


「わっしょいわっしょいわっしょいわっしょい!」

「ヴェルト様バンザーイ! ヴェルト様バンザーイ!」

「いくぞ! ヴェルト様と共に! そして今日の勝利を、姫様に捧げよう!」


 何で! 何でこいつら盛り上がってんの? つか、何で俺が運ばれてんの?



「ちょ、ヴェルト!? あ、あんた、どこに!?」


「「「「「ヴェ、ヴェルト様が攫われたーーーーーっ!!??」」」」」



 そして、なんか俺とルンバたち三人を頭部に乗せたゴーレムが走り出した。

 どこに? って、超密集の大激戦地帯に向かってんじゃねえかよ!


「お、おいコラァ! なにやってんだ!」

「さ、ヴェルト様、今こそ魔王様の意思を受け継ぎしあなた様の力で、我らをお導きくださいなり!」


 何言ってんだよ、こいつら!

 ちょっ、俺は後方でお留守番なんだけど!

 いや、なんでこいつら俺を持ち上げてメッチャ暴れようとしてんの?

 つか、暴れてえなら勝手に鬼相手に暴れてろよ! なんで俺が巻き込まれてんの?

 ほら、周りの人類大連合軍は唖然としてるじゃねえかよ。

 あ、しかも段々知ってるやつらの居るところに近づいてるし。


「光の十勇者様たちにこいつらを近づけるな!」

「六鬼大魔将軍、お前たちはここで討つ!」

「俺たちのリーダーには指一本触れさせねえ!」

「ここは我らが」


 おお、シャウトたち主力の奴らだ。



「ゲハハハハハハ、風閃シャウト、炎轟バーツ、さらにはイエローイェーガーズの『異次元剣士ドレミファ』に、『帝国の翼ソラシド』か。面白い、新たな時代を担う若武者たちか。だが、残念だが貴様らには勝ち目はない」



 全身刺だらけの鎧を纏った鬼。剣山みてーだな。



「その理由は、兵力差。さらには、スドウの導入した狂鬼軍団。そして、後ろを見るがよい!」



 その言葉に従い、人類大連合軍が後ろを向くと、怒涛の勢いで突き進むこの軍団と目が合った。


「そんな! 後方支援部隊がやられたのか!」

「ま、まずい! あそこには、ヴェルトとハウが!」

「やべえぞ! あんなスゲエ勢いと巨大なゴーレム、止めようがねえ!」

「しかし、我らがここで止めねば、あの軍は姫様たちのもとに!」


 当然、敵が後ろから挟み撃ちの形で突っ込んできたと思うだろうな。

 でも、安心しろ。その意味を込めて、俺がゴーレムの上から軽く手を振ってやる。


「ん? ………僕、目が悪くなったのかな?」

「お、俺には幻覚が見える」

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!」

「この状況は、い、一体、どういうことでしょうか!?」


 あっ、全員気づいたみたいだな。もう、表情にその反応が現れている。

 気づいていないのは、バカ笑いしている六鬼大魔将軍の一人と思われるトゲトゲの鬼に、何も知らずに騒いでいる鬼たち。


「ふはははは、魔人ども、愚かな人間ども踏みつぶせ!」

「活躍したやつから解放してやんぞ?」


 いけいけ! やれやれ! 的な鬼たちからの声が届く中、旧ヴェスパーダ魔王国軍残党兵たちはついに大暴れする。



「「「「「ジーゴク魔王国軍、覚悟しろォォォォォォッ!!!!」」」」」



 油断しまくってた鬼たちが交通事故のように跳ねられた。


「どわああ、な、なんだ! 魔人どもが錯乱したぞ!」

「まさか、裏切ったのか、あいつら!」

「バカな、なぜやつらが人間に味方する!」


 慌てふためきながらも状況を理解できない鬼たちに、勢いに乗りまくった魔人たちの突撃を止める術はなかった。


「よくもダマしてくれたな、テメェら!」

「この怒りがどれほどのものか! 姫様の無事がどれほどの喜びか!」

「その想いを力に変えて、どこまでも暴れてくれる!」

「そう、我らが魔王様と姫様が選びし、新たなる王!」


 おい……



「「「「「我らが新たなる王! 魔王ヴェルト様と共に!」」」」」


「ちょっと待てえええええええええええええええええ!」



 違うんだ! ちげーんだ! 俺は、俺は一言もそんなこと言ってねえ!

 シャウト! バーツ! そんなアホヅラで固まってねえでどうにかしてくれ!

 俺は本当に何もしてねえ!

 つか、何で? お留守番してたら魔王になってんだよ、俺は!

 そして、そんな俺を見て、バーツたちが一斉に叫んだ。



「「「「「な、なに……なにやっとんだあいつはァァァァァァ!!!!」」」」」



 おお、俺、どうなっとんだ?

 なんか知らんが、おもくそ参戦させられてしまった。

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