第75話 えっちではござらん!
「ヴェルトッ!」
「愚弟?」
「……つ……ヴェルト殿?」
まさか、いきなり俺から手を出すと思ってなかったのか、少し驚いた顔で振り返る三人。
一方で、ただでさえ火がついていた暴徒には、余計に油を注ぐ結果になった。
「こいつ、手を出しやがったぞ! やっぱり裏切り者だッ!」
「ふざけやがって、てめえらのせいでこのシロムは陥落したんだ! どうしてくれんだよっ!」
「罰を受けろッ! 地獄の苦しみを味わいながら謝罪しながら死ねえッ!」
「そうだ! 俺たち、この街のみんなが味わった地獄を、お前らも味わえッ!
まあ、当然のような反応だった。
その通りだ。わからんでもないぜ、お前らの気持ち。
でも……
「ギャーギャーうるせえよ」
俺は連中の怒りの火に更なる油どころじゃなく、グリセリンを注いでやった。
「なんだと、テメェッ! 大体、クソガキ、てめえは何なんだよ! 亜人と仲良さそうにしやがって、この人類の裏切り者が!」
「ふざけやがって! テメエに故郷を滅ぼされる気持ちが、親兄弟を理不尽に殺される気持ちが分かるかッ!」
「亜人なんて切り刻んでやりゃいいんだよ! 異形の獣くせー奴らなんかな!」
「このシロムを地獄に変えた悪党どもに裁きを!」
ああ、ほ~んと、お前らの気持ち良く分かるぜ。
「うるせえ、クズどもが! 亜人にやられた? 奴隷に復讐された? あたりめーだ! 自業自得なことしてきたやつらが都合のいいことほざいてんじゃねえ! シロムが地獄に変わった? 元からここは掃き溜めみてえな腐った街なんだろうが! 因果応報だボケッ! 大体、テメェの街がそんなに大事なら、テメエが戦って真っ先に死ぬぐらい体張れよな? 連中が撤退した途端にゾロゾロゾロゾロ出てきて、最前線で何があったかも知らねーから、この虎猫に、んなことが言えるんだよ!」
だからこそ、言ってやった。
「こいつが……俺のダチの孫娘が……どれだけ自分を犠牲にして体張ってたかも分からねえくせに! 守ってもらったテメエらが、どいつもこいつもガッカリさせるような顔と態度して出てくんな!」
単純にムカつくから。
そんな俺に、もはや空いた口がふさがらない状態のウラに、何か面白そうに笑ってるファルガ。
「お、おおい、ヴぇ、ヴェルト~、お、お前……なんということを……」
「くくく、まあ、言わせておけ、クソ魔族」
するとその状況下、涙目で弱々しくうずくまっていたムサシが、ようやく恐る恐る顔を上げ、俺に向かって問いかけた。
「ど、どうしてでござる、ヴェルト殿……」
「あ゛?」
「そのような発言をすれば火に油! 民衆の怒りを買うでござる! この街は拙者というより……ヴェルト殿が体を張って守ったのでござろう! それを、なぜ?」
俺が守った? それは違う。
「俺はそんなこと思ってねえ。俺は俺自身の意地と、宮本……ダチであるお前のジーさんのために戦っただけだ。こんな街どうでもいい」
「え、ええ!?」
「だからこそ!」
「……っ……」
「だからこそ、そのダチの孫娘であり……何よりもドサクサ紛れとはいえ、別れ際に孫娘を頼むとまで言われちまったんだ……こんな街より、こんな連中より、お前の方が大事に決まってんだろうが!」
「ッッ!!?? し、しかし、せ、拙者は亜人で……」
「あ? 何人だろうと、そんな問題俺には興味ねえよ」
たとえ、この街の連中の気持ちが理解でき、同情できるようなやつだろうと、悲劇の被害者たちだろうと、俺は俺が大事なものを優先する。
かつて人類大連合軍よりも、俺が鮫島とウラを選んだように。
そして、託された以上はちゃんとしねーとな。
「「「「「あのクソガキを殺せええええええええええええええッ!」」」」」
その時、シロムの生き残り連中の憤怒の感情が俺一人に向けられる。
俺を殺せと誰もが叫び、そしてついには襲いかかってきた。
なら、その感情の発散に付き合ってやるよ。
だが……
「ミヤモトケンドー・閃光乱舞!」
―――――――――――――――――――――ッ!
「気を失わせただけでござる……御免!」
迎え撃ってやる。そう身構えた瞬間、襲いかかる暴徒が一瞬で全員気を失ってその場で倒れた。
ムサシが民衆の中を高速で駆け抜け、誰一人反応することなく一瞬で百人近い暴徒を気絶させた。
「おお、さっすが」
「見事だな」
「ほう、やるなクソ亜人」
そのお手並みは見事なものだった。
そして……
「拙者……決めましたでござる……」
ムサシはそのままゆっくりと振り返り、再び俺の前に立ち、次の瞬間二本の木刀を地面に置いて、俺の前で両膝をついた。
「拙者、ムサシ・ガッバーナ。剣聖と呼ばれし祖父にその名と剣を受け継ぎしものにございまする」
「おお……?」
「今この場において、この身を、心を、そして剣を、全てを生涯あなた様に捧げることを誓いまする! 人の身でありながらも我らシンセン組の誇りを守るために命を懸けて戦い、あの四獅天亜人のイーサム様にまで臆せずに立ち向かった勇気。さらには拙者のような未熟者に手を差し出していただいたその優しさと大きな器! このムサシ、種族の壁を越えて感服し、是非ともあなた様にお仕えさせていただきとうございまする! 地獄の果てまで、我が『殿』と共に!」
いや、なんでだよ……
だが、その瞬間からこいつは……
「ささ、殿、お召し物を御用意致します」
こうなってしまったのだった。
「あ~、分かったよ。ほれ、着替えるから外に出ていろ」
「なりませぬ! 殿の手を煩わせるわけにはまいりませぬ! 僭越ながら、拙者がやらせていただきまする!」
「はっ?」
寝ぼけた俺の頭が一瞬で覚醒した。
ムサシはいきなり何の躊躇いもなく、俺のズボンを脱がし始めた。
ちょっ、
「貴様!」
ちょっと待てよと俺が言う前に、隣のベッドで寝ていた姫が覚醒した。
「おい、虎娘! 貴様、私の目の前でヴェルトに何をしている!」
「はっ! お召し物をお取り替えしようとした次第でございまする!」
「何故、貴様がそんなことをする必要がある。ヴェルトの裸を見て良いのは、家族だけだ!」
「何を申される! 拙者の武士の誓いとしていついかなる時も殿のお側にお仕えする身。いかに奥方の命令といえども、その役目を放棄するわけにはゆかぬでござる!」
「え、エッチなことはダメに決まってるだろ! 大体、お前だって年頃の亜人なんだ! ヴェルトを見て発情したらどうするつもりだ!」
「何をおっしゃいまする! 拙者、そのような不埒な―――」
やべえ、フォルナとウラの喧嘩よりもメンドくせえ。
何が一番メンドくさいかというと、ムサシは全部大まじめというところだ。
なんかこー、使命感的な想いが溢れて、想いが重い。
床板が、ギシギシいって、今にも穴が空きそうだ。
と、その時だった。
「あーー、拙者としたことがーっ!?」
「うおっ!?」
「な、なんだ?」
急にムサシが何か気づいたように声を上げた。
「拙者としたことが、昨日は殿への感動と生涯お仕えする殿ができたことに舞い上がり、大切な儀式を忘れていたでござるッ!!」
とても慌てた様子で頭を抱えて、どうやら大切なことを忘れていた様子。
儀式? それって、宮本が考えたものなのかな?
なんか、堅苦しいものでも……
「では、失礼して……」
「「ぶっ!?」」
シュルシュルと絹が擦れる音。袴の紐を解いて、ピシッとしていたはずのムサシの衣服が一瞬ではだける。
その下から顔を出したのは、ほんの僅かな擦り傷等はあるものの、あとは無駄な脂肪などなく引き締まった肉体。
しかし、その引き締まった体が固いか? と問われると、どこかみずっぽさもあり、特にグルグル巻きにしている胸元のサラシの下に封印されているものは柔からそ……
「……ッ!?」
「って、おいっ!」
と、気づいたら、そのサラシまで解きやがった! 何考えてんだ、こいつ! 形の良い健康的な乳が顔を出したじゃねえかよ!
大きさは手のひらサイズ、ウラと同じぐらいのカップだろうが、充分揉むぐらいの大きさは……って違う違うッ!
「……も、もう少々お待ちを」
「って、だからなにやってんだ!」
「……なな、ナニヲ?」
しかも、ムサシはそこで止まらねえ。腰元の袴が一気にずり落ちたことにより、下着……じゃなくて、白ふんどしッ!
もはや急に始めたムサシのストリップ劇場に、流石に俺だけでなくウラまで唖然として言葉を失ってしまった。
「ここ、こっちも……褌も……」
「「そっちも!?」」
そしてついに、その白ふんどしにまで手をかけたムサシは、ふんどしの紐を解いていく……初めて知ったが、ふんどしって、ヒモパンに近い気がする、そして真っ白い張りのあるムサシの尻に捻れた太いものがTバックのように食い込んでる。
「お、お待たせしましたでござる」
とまあ、そんなのどうでもいいか、だって、全部脱いじゃったし。
「つ、いや、も、申し訳のうございまする。し、しかし、これが、亜人式の忠誠の儀式の最高峰の作法でございます!」
どんな? 宮本、お前が考えたのか!?
「そ、その~……身も心も捧げる異性を殿と崇めるときに行う儀式で、拙者が子供の頃、『イーサム様』から教わったやり方でござる!」
そのとき、俺たちの脳裏に、疑うことを知らない真面目なムサシをからかって「ぐわははははは」とか言いながら嘘を教えているイーサムの顔がリアルに想像できた。
そして、その詳細とは……
「主従関係が認められた際には、殿の股間の剣が天を突くかの如くそそり立つと! それを拙者が白刃取りするなどの作法を終え、そそり立つ殿の剣を、拙者の……さ、鞘に、い、い、入れていただき……血判の代わりに、主従関係成立の儀式が成り立つと!」
あのエロジジイ……にしてもムサシは微塵も疑わず……にしても、こいつよく見るとかなり凛々しくもありかわいくもあり……興奮しているのか、色っぽくも……
「ふざ、ふざけるな! そ、そんなのただのセック……つ、え、エッチなことではないか!」
「にゃ!? え、えっちとは交尾の……ち、違うでござる! これは神聖なる儀式でござる! えっちではござらん!」
「違う、エッチだ! ふざけるな! ヴェルトの貞操は渡さんぞ! ヴェルトの貞操は……って、ヴェルト、お前もボケーッとムサシに見惚れるな!」
「はぐっ?!」
ウラに空手チョップくらって正気に戻った。
そうだ、ダメだよ。
ムサシはクラスメートの孫娘だよ。ウラ以上にアウトだよ。
「ヴェルトのスケベめ……うぅ、スケベしたければ、わ、私がいるだろうが! エッチなことは私がいくらでも……」
って、次の瞬間ウラが対抗心を燃やすかのように寝間着を脱ぎ始め、その下の黒下着……こら、ウラ。そんな大人っぽい下着はまだ早いって言ったのに!
「って、まてまて、ブラもパンツも取るな! やめろ、ウラ!」
「うるさい! お、お前が、お前が……私は初潮を迎えた日からずっと待っているというのに……ほ、ほら、もっと見ろ」
「だ、だから、そんな生々しいことはだな……」
「ふにゃああああ! ウラ殿、ひ、ひどいでござる! どさくさに紛れて拙者と殿の儀式を邪魔するなんて!」
「黙れ、虎娘!」
「ちょ、お前らふごおおおおおお!?」
そして、気づけば俺は全裸のウラとムサシの二人がかりでベッドに押し倒されていた。
「ヴぇ、ヴェルト、どうだ? ちょっと体が硬かったりするかもしれないが、む、胸の形とか足とか、わ、私は自信あるぞ? ちゅっ、ちゅっ♡」
「ちょまぅ!?」
「あっ……ふふふ……なんだかんだ言って、ヴェルト……お前だって……」
「ッ!?」
ウラが俺の手首を掴んで自分の胸に柔らか手のひらに感触育ってる。頬にキスもおまけ。
「と、殿ぉ、拙者とぉ、拙者とぉ~……ううぅ、ぺろぺろ」
「ひゃうっ!?」
「くんくん、すんすん……ふにゃぁ~……これが殿の匂い……拙者の殿……えへへ」
そしてムサシは俺の頬をペロペロ舐めながら、俺の体の側面に自身の全身を擦り付け温かい柔らかい股の感触気持ちヤバイ腕が挟まってる谷間。
こ、これはまずい!
クラスメートの娘と孫娘に全裸で迫られている。
色々ヤバイ! モラル的にヤバイ! あっ、俺も勃……二人とも濡……
「おまえら、や、やめっ!? うおおおお、ふわふわ―――ッ!!」
「おい、クソ共。天井が揺れてクソうるせえ。何を騒いでやがる」
ギギギと音のする壊れかけのドアをゆっくり開けて、朝の鍛錬を終えた上半身裸のファルガが汗を拭きながら部屋に戻ってきた。
そして、全裸の女二人を脇にベッドで横になっている俺たちを見て……
「クソくだらねえ。盛りのついた異形種共が。たかが数年か数日愚弟と過ごした程度で、テメエの所有物扱いか? ウザッてえ。愚弟も二人がかりとはいえ、簡単に押し倒されんな」
俺から二人に手を出して三人でヤッてると思われなくてよかった~。
でも異業種とか、それ言い過ぎ。
「ファルガ、夫婦の情事を邪魔するな! そもそもこの旅は私とヴェルトの二人旅だったんだぞ! ここで、こー、あの女と決定的な差をつけて、高まる二人の愛で一つになって、イチャイチャして、エルファーシア王国ではメルマさんやハナビたちが家に居たために出来なかったことをいっぱいしようと思っていたのに! 五年間も我慢したのだぞ!」
「拙者は殿と出会うまで、小さな世界しか見ていなかったでござる。そんな拙者に広く深い世界を見せてくださり、誇りと拙者の命をお救い下さった殿への忠義は、誰にも負けないと自負しているでござる! 過ごした時間など関係ないでござる!」
「クソバカだな、クソ共。そもそも愚弟が伴侶にするのは俺の愚妹だと十年前から国家の方針で決まってんだよ。それを愚妹がいないことを良いことに、品のねえメス猿どもが、身の程をわきまえずに、キーキー鳴くな」
こいつら、どんだけ俺のこと好きなんだよ。
てか、ジャレ合ってるのか? こいつらは。
「ふん、ムサシもファルガも……二人まとめてちょっと黙らせてやる!」
「ウラ殿、ファルガ殿、貴公らとて拙者と殿の主従関係の儀式を邪魔するのであれば、黙っていないでござる!」
「けっ」
とりあえず、現れたファルガにムカッと来た二人はようやく服を着てくれ、そのままバトルロイヤルに突入し……
結果、ウラとムサシが縄でぐるぐる巻きで正座させられ、「おのれ」「不覚」と悔しそうに泣いた。
ファルガでかした!
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