第40話 俺もそこそこ強く……

 二人とも俺のことを好きだ好きだと言ってるけど、そんなものは今だけだ。

 こいつはら、いずれ俺の手の届かないところまで行く。

 それこそ、世界を、歴史を、変えるかもしれない。 

 どうせいつか手の届かないところに行くと分かっているなら、今だけは一緒に遊んでやるか。


「いきますわ!」

「いくぞ!」


 さあ、来い! と、言いたいところだが……


「………やっぱ、無理!」


 俺は、浮遊レビテーションを使い、大ジャンプで上空へと逃げた。


「ヴェルト、あなた、いつの間にそんな魔法を!」

「そういえば、ギャンザとの戦いでもそれを!」


 ウラには鮫島直伝の空手がある。真正面から戦うのは、まず無理。

 フォルナに関してはもはや説明不要。とにかくあいつの攻撃間合いに入り込んだらソッコーで負ける。

 だから、これぐらいの距離を取って、セコイ手を使うしかないんだよ。


「逃げないで降りてきなさい、ヴェルト!」

「二秒で降りてこい。さもなければ、意地でも落とすぞ」


 おーこわ。

 にしても、自分でも驚きだ。

 フォルナたちは逃げるなとか言ってるが、これはかなり使える。

 自分の靴や服を浮遊レビテーションさせることで、俺自身が宙を浮く。


「覚えておきな。男は高いところが好きなんだよ」


 そして何より、今の俺なら離れた場所からでも攻撃できる。


「ぶっとべ」


 俺は二人に念じた。


「ッ!」

「か、体が勝手に!」


 さっきは、フォルナとウラを宙に浮かすことができた。

 今度は浮かして後方へと飛ばした。

 まるで超能力者になった気分だ。ハンドパワーで相手をふっとばす感じだ。

 だが、さすがに二人共そこまで甘くねえか。


「同じ手は通用しませんわ!」

「活!!」


 遠くに飛ばしてやろうとしたが、二人はそれぞれの力で無理やり俺の魔法を弾き飛ばしやがった。

 そして当然、怒ってらっしゃる。

 額に血管を浮かび上がらせて、雷速と光速が空中に居る俺目掛けて飛んできた。


「っもう怒りましたわ! 一度叩いて差し上げますわ!」

「お仕置きだ!」


 気づけば、拳を振りかぶった二人が俺の目の前だ。

 って、そりゃー、二人のレベルならこれぐらいワケねーか。

 気づくの遅すぎた。回避できねえ……


「なら、耐えてやるよ! 一発ぐらい!」


 前世から今まで、俺がどんだけ殴られてきたと思ってる。

 ヤセ我慢は不良の得意分野だ! 全神経集中させてガードすりゃあ……


「サンダーナックル!」

「魔正拳!」


 全身を衝撃が貫く。巨大なハンマーでぶん殴られたような感覚。


「うごほあ!」


 やべえ。ヤセ我慢とかのレベルじゃねえ。

 受身も取れずに地面に落下して強打。

 シャレにならねえぐらいに痛え。


「ヴェルト、少しは反省しましたか!」

「次に怒らせたら、私はもっと怒るぞ!」


 地面に降り立って、俺に叱りつける二人だが、正直言い返せねえぐらいに俺の体は重い。

 これはもう、素直に謝って終わりにした方がよさそうだ。

 なのに…………


「でも、なんで俺って立……っちゃうのかね」


 当初の目的は何だったか? なんか、気づいたら立っちまったよ。

 まあ、そりゃそーか。


「女で、しかもガキに見下されたまま、引き下がれるわけがねーからな」


 別に、ガチで喧嘩する気はなかったが、ちょっとこのまま終わるのは俺自身が嫌だった。

 だから、ここは立つことにした。



「むっ、およしなさい、ヴェルト! ちょっと強くやりすぎましたわ。って、ワタクシはちゃんと加減したのに、あなたが下手だからヴェルトがあんな怪我を!」


「バカを言うな! 私の体術はお前の無駄に派手で乱暴な魔道兵装とは違う! お前がやりすぎたからヴェルトが怪我をしたんだ!」



 ったく、俺も情けねえな。

 かつては最強とか言われていた不良の今の姿がこれか?

 十歳のガキにここまでバカにされんのは、男が廃るってもんだよな。


「安心しな。怪我は男の勲章って、異世界共通の言葉を知らねえのか!」


 パワー、スピード、魔力、技術、センス。ハッキリ言って俺がこの二人に勝ってるものは一つもない。



「まったく、ヴェルトはそうやって意地ばっかり張って! 昔からそうですわ! どうでもいいことはすぐ諦めるのに、何か少し違うものは意地になる! ……まあ、そういうところが放っておけないというか、可愛いのですけども」


「お前は戦いには向かないやつだ。これから先は私がお前の代わりに戦う。お前が戦って死んだら、私は絶対に嫌だからな」



 だが、俺は俺のやり方をするだけだ。


「だったら、これも覚えておきな。男には、勝てなくても逃げちゃならねえ時がある。まあ、俺の流儀はそれプラス、どんな手を使っても死んでも勝つって付け加えておけ」


 さーて、ここで俺の眠れるパワーとか、神様が俺に与えた力が覚醒するのがパターンなんだが、そう都合良くはいかねえ。

 出来ないことをやるよりも、出来る手の中でどうにかしていくしか俺にはねえ。

 警棒、使うか? いやいや、最低だからこれは却下。

 となると……

 

「ふわふわ」


 それは、意図してやったわけじゃなかった。


「あっ……できた」


 試しにやってみただけだった。


「あいた! こ、これは、ワタクシたちが砕いてしまった道の破片?」

「ッ! い、石の破片? ヴェルト、お前はこの後に及んで、まだそんなイタズラを!」


 四角い石をいくつも埋め込まれて舗装された王都の地面。

 フォルナとウラが技の発動をした瞬間に、その威力によって砕けた地面の破片の一部。

 小さい破片を二人の足元から浮かせて、コツンと頭に軽く当ててやった。

 別にダメージなんてあるわけないし、二人は余計に怒っただけだ。

 だが、俺には重要なことだ。


「イタズラで、済んでいる内は、まだ可愛いもんだろ」


 俺は触れたものなら魔法で浮かせることができる。

 そう思っていた。

 だから、ギャンザとの戦いではワザワザ落ちている岩や石をタッチしまくった。

 

「くくくく、くはははははは、こいつは俺も驚いた」


 だが、ハッキリ言って俺は、今浮かせた石には触っていない。

 だけど浮かせることができた。


「俺としたことが、スーパーなんたらの覚醒とまではいかねーが、逆転へのメイクミラクルの材料に気づいちまったよ」


 確かに、触ったことがあるものの方が扱いやすい。

 だが、俺は気づいちまった。


「逆転? 何を言ってますの? 往生際が悪いですわ!」

「今ならこれ以上怒らないでやる」

 

 たとえ触れていなくても、視界に入ったものを浮かすことが出来る。


「この魔法。誰もが使える初期魔法。誰でも使えるもの過ぎて、誰もあまり奥深くまで追求しなかったのか? いや、魔法を極めようとする連中は、他に極める魔法がこの世にはありすぎるから、見落としていたのか?」


 これは、大きな利点だ。

 これはストリートファイト。この場にあるもの全部が俺の武器だ。

 落ちてる石や木材も、そのへんの主婦の買い物袋も、全部、全部だ!



「全部浮けええええええええええええええええ!」



 今は浮かせる重さには限界がある。

 浮かして動かす速度にも限界がある。だが、それは練度を高めていけば全て向上するものだ。

 いつかは家を、いや、城を、いや、大陸ごと浮かすことは?

 浮かせて移動させる速度を極限まで高めることは?

 出来る。俺の生涯、魔法を覚えるキャパを全て浮遊レビテーションだけに費やす俺なら、出来る。


「えっ、ええ? えええええええ! な、なんですの、これは!」

「なっ、ば、バカな、ヴェルト、何をした!」


 流石のガキどもも驚いているか。まあ、俺も驚いているからな。


「お、おい、石が、木材が、樽が!」

「わ、私の買い物袋が!」

「どわあああ、店の看板が!」


 街中の物が無重力空間になったかのように空に浮かんでいく。



「さあ、ガキども。今度はこっちの番だ。お尻ペンペンしてやるよ! 怒りのふわふわ時間タイムだ!」



 やべえな。ギャンザとの戦いでコツを掴んだのか、俺もそこそこ強くなってるじゃねえか。

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