第8話 クラスメート? 幼馴染? 友達?
そこは、元の世界だったら、観光名所になるか、警察が介入するような店だった。
片手で持てるバスターソード。護身用の短剣。弓矢や槍。大人用の棍棒や、盾や防具も揃っている。
今まで一度も来たことが無かったから、博物館の展示物を見ているような気分だ。しかし、ここから自分が使う武器を選ぶとなると迷う。
「俺も武器屋には来ないんだが、流石に王都だ。いい品揃えだぜ」
「こっから俺が使う武器を選ぶわけか。しかし、あんまりピンとこねーな」
ハッキリ言って剣や槍など、一度も触ったことがない。木刀はあるけど。
どちらにせよ、使い切れるようになるまで、果たして何年の訓練が必要か分からない。
そうなると、選ぶなら簡単に扱える武器か、手慣れた物に限る。
「お前、喧嘩で武器を使ったことは?」
「相手の人数が多いときや、相手が道具出してきたときは、警棒とかバットとかその辺に落ちてるもの使ったりして応戦してたな」
「警棒? お前、そんなもん持ち歩いてたのか! ……元の世界なら生徒指導を飛び越えて逮捕だな……」
「あ、あんまり使ってねえよ! 相手が素手なら俺だって殴り合って……いや、その辺にある角材とかパイプとか色々と路上にあるものは使ったりもしたような……でも、ナイフとかそういうのは使ってねえから! ああいうのは嫌いだからよ!」
「お前……まぁ、前世の話は時効として置いておいて、この世界じゃそれは通じねえだろうな。この世には人間の何倍も筋力のある魔族や亜人がゴロゴロしてやがるからな」
「しっかし、そう考えると警棒とかねぇな。時代や世界観が違うからかもしれねーが」
使うなら、使ったことのある武器が良かった。警棒や金属バットなら何度か使ったことがある。しかし、それは流石に望めない。棍棒はあるが、あまりにもデカすぎて子供の体で持ち運びもできない。
「なんじゃ~、坊やが武器を使うのかい? ここは十三歳以下には武器の販売しとらんぞ?」
棚を見渡す俺と先生の姿を見て、椅子に座ったままのこの店の爺さんが話しかけてきた。
「だから、先生に金だけ渡して買ってもらうんだよ」
「たわけえ! 子供が使うのなら武器は売らんと言っておるのだ!」
そりゃそうだ。高校生がタバコ吸いたいので先輩に買ってもらうようなもの。
だが、それでも俺は引き下がらない。
「なあ、爺さん。頼むよ。俺もさ、こんな世の中だから家族や幼馴染を守れるぐらい強くなりたいんだよ。いつ、魔王軍や亜人の軍が襲ってくるかも分からないしさ」
全部嘘だ。だが、ジジイにはこういう理由の方がいいだろう。しかし、爺さんの反応は薄かった。
「ふん、子供が生意気を言うんじゃない。お前が戦う事態になるほど、この国の軍は弱くない」
「ぬっ、それはまー、そうだが」
「それと、坊や。ちょっとそこに立て」
「あん」
言われるがまま、俺はジジイの前に立つ。ジジイは黙って俺のつま先から頭まで眺め、最後に俺の目をジッと見た。つーか、すげえ眼光だな、このジジイ。
「ふん、つまらぬな。才能も覚悟もない」
「はあ? いきなり、何を言いやがる! てか、ただの耄碌したジジイの目で何が分かるってんだよ!」
「おお、礼儀も弁えぬ坊やじゃ。まあ、ようするに、坊主にはまだ武器を使う資格も覚悟もないということだ」
「覚悟~?」
「いいか? 武器を持って相手を傷つけて良いのは、自分が殺される覚悟がある奴だけだ」
俺はこの時、嫌な予感がした。これは、メンドくさいパターンだ。
多分、このジジイはこの後、人を傷つけたら責任背負うとか、その覚悟がなければウンタラかんたら言うぞ。
「誰かを傷付けるならそれ相応のものを背負うって事も覚悟する。その覚悟も責任もないなら武器を持とうなんて考えないことだ」
ほらな。昔っから、説教垂れる奴は、どこの世界でも捻りがないんだよ。そんなもん、ガキがイチイチ考えてるわけねーだろうが。
「めんどくさ……」
「はあ?」
「まあ、大切なことなんだろーけど、俺には興味ねーよ。俺にとっては、武器なんて自分が傷つく覚悟があるから持つもんじゃなくて、自分が傷つきたくないから持つ護身用のもんだよ。あとはまあ、相手を思いっきりぶっ倒すための道具だ。死にたくもねーし、傷つきたくもねえよ。責任つっても、人殺したこともねーし、取り返しのつかない怪我もさせたことねーから、そこまで分からねーよ」
なんか、売り言葉に買い言葉みたいに反論しちまった。ぶっちゃけ、ジジイの言ってることのほうが完全に正しいのに、なんか人間として見下された気がしてムカついたから。
「正直者過ぎて、尚更売れんわい」
まあ、そうなるか。ジジイも呆れたような顔をしてる。
「このドアホオオオ!」
「いって、先生、ぶつなよ」
「どう考えてもこの人の言ってることのほうが正しいだろうが!」
「いや、まあ、そうだけどよ」
先生にも怒られてしまった。
「しかたねーな、今日は出直すか」
朝倉リューマの頃は、ババアがやっている本屋では、余裕でエロ本を買えたのに、この世界では通用しないみたいだ。と言っても、そこまで無理して買いたい武器がまだ見つかっていないのも事実だ。
ここは、大人しく帰るかと思った。
すると……
「おやあ? そこに居るのはヴェルトじゃないかい?」
不意に幼い声に名前を呼ばれた。振り返ると、白いシャツにズボンに紫のマントを羽織った少年が居た。
「シャウトか。よお」
「やあ。こんなところで会うなんて、どうかしたのかい?」
清潔感溢れる服装に、整った顔立ち。サラサラの金髪。スラッとした物腰は育ちの良さの現れだ。
それに……
「ほんとだ! ヴェルトじゃん! なんでお前が武器屋にいるんだ?」
シャウトの後ろからもう一人。
目立つピンクの髪をして、その眼光はガキのくせに野生の獣のように鋭く熱い熱を帯びている。
シャウトのように見るからに貴族な上品な服装と違い、俺と同じ平民の質素な格好をしている。
「おお、バーツもか……なんだ、男二人でデートか?」
「ちげーよ、馬鹿」
「ははは、僕らがいくら君のようにフィアンセがいないからといっても、そんなことしないよ」
二人とも顔見知り? 友達? いや、クラスメートで幼馴染って言い方が正しいかな。
「あさく……じゃなくて、ヴェルト。知り合いか?」
先生に聞かれる。
「魔法学校の同じクラスのシャウトとバーツだ。シャウトは王国最強の軍人、タイラー将軍の息子で、なよっちいけど魔法学校主席。あと、親同士が仲良くてな……で、バーツは酒場のマスターの息子なんだけど、成績は学年二位で……まぁ、熱血正義バカで……まぁ、昔から結構知り合い」
フォルナと同様に昔からの馴染み。ただ、どうして「友達」とすんなり言えないのかというと、一応今の俺は高校生の精神年齢なわけで、小学生低学年ぐらいの二人を友達というのは、なんとなく恥ずかしかったからだ。
「なよっちいはひどいじゃないか、ヴェルト。大体、知り合いって冷たいよ?」
「誰が正義バカだよ! 俺は普通だ! お前がやる気ねぇだけだろ!」
「まあ、いいじゃねえか。で。お前らはどうしてここに?」
今となってはフォルナは仕方ないとして、あんまり同じ歳のガキとのこういうやり取りを先生の前で見せるのは恥ずかしかった。
「へぇ~……あの朝倉がねぇ~」
ほら、今も「小学生ぐらいの子と友達なんだ~」みたいにニヤニヤした顔してるし。
「ふふ、今日はパパが休みでね。僕とバーツが使う武器を下見に来たのさ。僕のパパに頼んでね」
「パパ?」
その瞬間、俺はいつのまにか自分の背後に一人の男が立っていることに気づいた。
「久しいな、ヴェルト。相変わらず、生意気そうな目をしているな」
ゾッとして俺は声を上げてしまった。
「タ、タイラー!」
「タイラーおじさんと呼びなさい。まったく、アルナの子供とは思えない口の悪さだ」
スラッとした身長に細身の体。護衛隊長のガルバと違い、一見、強そうに見えない。
子供がいるとは思えないほど若々しく、シャウトの十年後の姿を見ているようだ。
でも、親父のタメなんだよな。
この常に笑顔で底を感じさせない男が王国最強の魔法剣士でもあり、その名を他国にまで轟かせている。
戦争に興味がなくても、俺でも知っている。
この国に来たばかりの先生も驚いている。
「おいおい。お前は姫様とか、何でこんなスゲー奴らと知り合いなんだ?」
「別に。フォルナの所為で俺も結構有名になっちまってな」
ただの農民の息子である俺には過ぎたコネクションだ。先生が驚くのも無理はなかった。
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