第54話 探し物

俺は何もできないとわかっていてもモルテを探し町中を走り回っていた。話かけられる声も無視して。今ここで足を止めることに恐怖を感じていた。ハウの言う通り今仮面が取れているからな。いくらつけ直そうとしてもくっついてくれない。


最近長いこと仮面をつけて過ごしてきた。国民にとってはその姿が俺なのだ。今のこの姿に国民が対面した時何を思うだろうか。それを想像するだけで恐怖が込み上げてくる。一刻も早くモルテを探し出したかった。そうすれば仮面がくっついてくれるとなんとなく感じたから。ビスという者に戻れると。



太陽が天辺より少し傾き始めた頃、俺はまだモルテを探していた。汗だくで体中ベタベタしている。人気がない路地に入り、スピードを落とし歩きに切り替えた。さすがにずっと走ってはいられない。



「はあ、はあ。ったくモルテのやつどこ行ったんだよ。」



モルテに悪態をついていると、辺りから美味しそうなにおいが流れてくる。辺りを見回すとそこら中の建物から白い煙が立ち上がっていた。大通りの方に視線をやると人々が建物に吸い込まれていく。そこで改めて認識したのか俺のお腹の虫が暴れ始めた。



「はははっ。わかったよ。そういえば、もう昼の時間だしな。どうしようかな。」



何か食べてから探そうかと大通りに向かおうとしたその時、ピシャっとなる音が聞こえてきた。慌てて視線を落とすとそこには水たまりができていた。俺は無意識にその水たまりを覗き込んでいた。



「・・・やっぱりな。ははっははっはははっ。」



そよ風が吹くその場に、俺の乾いた笑い声が虚しく流されていく。

俺はまた駆け出した。その水たまりを踏みつけて。




町中隅々走り回ったのではと感じられた時ようやくモルテを見つけることができた。空はすでに色づき始めている。モルテはとぼとぼ下を向きながら歩いていた。俺は気付かれないように近づきモルテの腕を掴んだ。



「おい、モルテ。探したぞ。」



「ビスさん⁉は、離してください。僕はもうあそこには戻りたくないんです。」



モルテは誰なのか気付き、俺の腕を振り払い逃げようとしていた。だが、決して腕は離さない。



「待て。俺は別に連れ戻そうとしてここにいるわけじゃない。お前とちょっと話がしたくてここにいるんだ。」



そういうと、モルテは一瞬驚いた表情をしていたが、腕を振り払う力が徐々に弱くなっていく。



「本当ですか?」



「ああ。あっちでゆっくり話そう。」



納得したのかモルテの腕はだらんと力が抜けていた。ただ、俺はここで逃げられたら癪なので腕を決して離さなかった。



「ビスさん。離してくださいよ。もう逃げようとしませんから。」



俺はその言葉を無視して話せる場所を目指してゆっくり歩を進めた。

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