第30話 本質
「どこから出てきた⁉」
いや今はそんなことはどうでもいい。
ここからすぐに抜け出さなくては。より被害が出てしまう。
「おっと、動かないでください。あなたが動いたら、あれを燃やしますよ。
まだ生きている人が燃やされるとどうなるでしょう。楽しみです。」
タドの視線を辿ると、そこにはさっき俺が見た人の山があった。
それに続々と新しい山をヴォルフたちが作り上げていた。
「なんてことを。」
燃やされた光景を想像すると、虫唾が走る。
「自分のおかれた状況は理解していただけましたか。
大人しく私の話を聞いてください。」
「わかった。聞くから早く話してくれ。」
タドの話を聞きながら何か策を練るしかない。
クラフトさんが無事で加勢にきてくれればどんなに楽か。
「そんなに急かさないでくださいよ。
では、まず私がどこからきたのかということを話ましょう。・・・」
タドは、勿体つけて話始めた。
「私はプロウバの森で前レーグル王に拾われました。そうあの少年のように。」
なぜこいつがそれを知っている。
問おうとしたが、時間を鑑み飲み込んだ。今聞くべきことではない。
「そして私は、レーグル王国の王子として育てられたのです。
レーグル王は私が魔力を持っていることを知っていました。
その時からレーグル王国は他種族を国の中に入れていましたから、
確認する方法はいくらでもあったでしょう。
レーグル王は、私を大事に育てていたと思います。他の王子たちよりも。
なぜなのかはわかりませんが。ただ、あなたも知っているでしょう。
この国では人間以外の種族を奴隷として扱っていたのを。
想像は容易いでしょう。私は蔑まれました。
王の寵愛を受けていたのも相まってレンコルにはひどい扱いを受けましたよ。
思い出すのもおぞましいんでしょうね。
国民は最初の内は普通に接してきましたよ。
ただ、徐々に徐々に違和感を覚え始めました。
普通に接しているのに目の奥が真っ黒なんです。
おそらくレンコルが広めたのでしょう。私を排除したかったのだと思います。
それを意に反さなかった私が気に食わなかったのか、
私への蔑みはなくなることはなくむしろ増えていきました。
私は図書室に籠りました。それしか楽しみがなかったんです。
それを見かねた王が言われたんです。モーヴェ王国に行かないか、とね。
私は全然気にしていませんでしたが、
外からレーグル王国を見るのも悪くないと思い、
モーヴェ王国に行くことにしました。
レンコルは清々していたでしょうね。国民も。
モーヴェ王国では、国賓として扱われるはずでしたが、私は断りました。
それでは意味がありませんから。私は使用人として扱ってくれと。
それを知っているのはモーヴェ王とルトさんだけです。
それとレーグル王は魔法のことは誰にもいってはいなかったようです。
二の舞にならないように、せめてもの償いだったんでしょうね。
無駄な労力を使わずに済みました。まあ、ルトさんには怪しまれていましたけど。
そしてフィロ様のお付きとして働くようになりました。驚きましたよ。
フィロ様とレンコルの性格がそっくりなんですから。
だからこそ扱い方は人一倍わかりました。操りやすかったですよ、非常に。
フィロ様の求める人物を演じればいいだけですから。
シェーン様やツァール様だったらこう簡単に進まなかったでしょう。
そしてモーヴェ王国で働く内にいろいろ見てわかりました。
どこも対して変わりはないと。
それに愚かなことにモーヴェ王国とレーグル王国は争いを始めました。
もう可笑しくて、可笑しくてたまりませんでしたよ。
そんなことしても無駄だというのに。
どちらが勝とうが負けようが変わることがないのだから。
だから私は決意しました。そんなに変わりたいのなら私が変えてやろうと。
まあ、わたしにとっては暇つぶし程度でしたが。」
タドは、完全におかしい。何かが欠落している、そう思った。
「お前はこんなことをして何も思わないのか。」
タドは何かを考え込んで答えた。
「そうですね。思ったよりは楽しかったですよ。」
何とも言えない感情が込み上げてくる。
「お前はゲーム感覚で人を殺しているというのか‼」
「勘違いしないでください。私はまだ誰も殺してませんよ。
いくつか助言をしたら勝手につぶれていくんですよ。
最初に起こった爆発覚えています?あれは国民それも人間が起こしたんですよ。
ある人に
”ツァール様が他種族を使って元レーグル国民を排除しようといるそうです。
いますぐ他種族を排除しないと大変なことになりますよ。”
と助言したら瞬く間に広がりこの有様ですよ。滑稽ですね。」
俺は何も言えなかった。
「さあ、そろそろ国中の者があつまりそうですね。」
「おい、俺が動かなかったらやらないんじゃなかったのか。」
「そんなこと言いましたっけ。
私は”あなたが動いたら燃やす”と言っただけで
燃やさないとは一言も言っていないと思いますが違いましたか?」
「くっ‼」
やばい。策も何も浮かばなかった。
「まだ、もう少し時間がかかりそうですし、決闘でもしますか。
ディグニ様相手ならいい暇つぶしになるでしょう。」
そういうと、タドは俺に向かってくる。
「安心してください。魔法は使いませんよ。
あなたと同じ双剣で相手をしましょう。」
タドは完全に俺のことを舐めている。
「おい、タド。俺が動いたら燃やすって言葉はもういいのか。」
「学習しましたか。ははっ。いいですよ。動いても。
全員集まるまで燃やしませんから。」
どこまでも俺を馬鹿にしてくる。
「そうかよ。あんまり俺を舐めるなよ。」
俺はタドにきりかかる。
ズサッ。キンッ。キンッ。ズサッ。キンッ。キンッ。キンッ。
何発かタドに入る。だが、剣を合わせていくうちに入りにくくなっていく。
「ふむ。こんなもんですかね。」
タドが何かを納得した。そしてタドが俺にきりかかってきた。
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