文永の役 炎上
筥崎宮が燃えている。
燃えているのは大量に運び込まれた米俵に干し草、つまり兵糧が燃えていた。
火の手は一気に燃え広がり、筥崎宮周辺の町々にも燃え広がった。
<帝国>の襲撃か!?
少弐の御乱心か!?
はたまた祟りか!!?
博多は一気に騒乱状態となった。
「なんということじゃ!」
「まさかこれが敵の次の手ですか!?」
博多の大宰府で軍議を開いていた少弐たちは戦慄する。
麁原の化け物が次の手を打ってきたと。
「直ちに兵を集めろ!」「はっ!」
大友が伝令を出し、博多で休息していた兵を叩き起こす。
「大友殿、筥崎宮の兵糧米が無くなった以上、奥地の大宰府から物資と兵を集めてきます。それまで防衛は頼みました」そう言い、少弐率いる数騎で兵站拠点である大宰府へと向かう。
「おう、任せよ! 我ら豊後の力を奴ら<帝国>に見せつけてくれる! いくぞぉ!!」
「我ら宇都宮も打って出るぞ!!」
「応っ!!」
大友と宇都宮たちが筥崎宮に襲来した<帝国>を迎え撃ちに出る。
少弐たちは二手に分かれた。
一つは水城の奥にある大宰府へと一気に向かい物資をかき集める部隊。
もう一つは博多から馬と牛そして川船をすべて徴発してゆっくりと大宰府に向かう部隊。
五郎達はこのゆっくりと大宰府へ向かう部隊と合流した。
ケガ人は博多の防衛では役に立たない。
しかし、万が一博多が陥落した場合、第二防衛戦として水城の上に座らせれば弓兵として使えるだろう。
そう言う判断だ。
「おお、牛飼君か、無事だったんだな」と五郎が馬に乗りながら言う。
「あ、五郎さん」
牛飼いたちは川船を運びながら進んでいた。
「敵ですか?」と少年が悲壮感を漂わせながら聞いてきた。
「まだわからない。だが筥崎宮の物資がすべて燃えたらしい」
「誰かと思ったら今朝の旦那じゃないですか!」
牛飼が運んでいる川船に今朝の船乗りたちが乗っていた。
竹の棒を使って岸や岩にぶつからないようにしている。
「無事で何よりだ。もしよかったらケガ人と馬を乗せてくれないか」
「旦那は他の武士より気前がいいですからね。どうぞ乗ってくだせい」
川船に郎党たちと馬を乗せる。
「旦那はいいんですか?」
「拙者は馬に乗れるので大丈夫だ」
「動く影アリ!」
その声に緊張が走る。
筥崎宮へと続く道から一団がやってくる。
数が多い。
数千はいる。
弓の準備を始める武士団。
五郎が何かに気付いた。
「待て、避難民だ! 弓を下げろ!!」
筥崎宮周辺に住んでいた住人が逃れてきたのだ。
博多と筥崎宮から怪我人と被災者が列をなして大宰府を目指した。
「五郎、これはもしかしたらただの火事では終わらないかもしれぬぞ」と三郎が言う。
「ああ、博多湾の西は<帝国>に街道封鎖されて、東は筥崎宮が焼けた。そしてこの避難民の群れ」
「大宰府の――いや、北九州が止まる」
博多および北九州一帯の兵站基地は奥地の大宰府になる。
そこが機能しなくなると、影響は多岐にわたる。
馬や牛のエサがなければ輸送と戦闘に支障が出る。
兵糧が無くなれば兵も動けなくなる。
避難民の食糧を確保できなければ年を越すこともできない。
飢え死にしてしまう。
何より問題なのが大宰府に豊富な兵糧があることを前提に南九州から武士団が、鎌倉から坂東武者が来る。
兵糧がないとわかったら周囲で略奪が始まってしまう。
侵略阻止のはずが自ら略奪をするなど本末転倒。
「そうなると今いる兵力だけで万の敵を倒すしかないのか……」
そう五郎がつぶやく。
周囲がざわめく。
「ああ、八幡様が……」「この世の終わりだ……やはりいまが末世なんだ……」
振り向くと遠くで赤々と燃える炎で雲が照らされている。
民の拠り所が今日失われたのだ。
その影響は少なからず武士たちにも響いている。
果たして<帝国>の猛攻を抑えることができるのだろうか?
五郎はこれから起きる熾烈な戦いに身震いした。
だが、その予感とは裏腹に<帝国>は忽然と姿を消したのだった。
――――――――――
文永の役の通説は一日でなぜか終わった。
ここから威力偵察説、略奪説、台風説、船酔い説、疫病説、などなどいろんな説が誕生しました。
最近はやっと蒙古襲来絵詞や他の武士が残した史料と<帝国>側の史料を突き合わせて、武士が強かった説が誕生しました。
あと貴族の日記から実は一週間グダグダに戦った説とかも出たりしてますね。
本小説はどの説も採用せずに両者共に強かったということにしています。あと一日で終ったは従来通りですね。
歴史合戦小説ですからね、敵が弱いと困るんですよ、特に五郎ちゃんの見せ場作るためにも……_(:3 」∠)_
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