4-2 宿題と悪戯




「……そんな見られてたら食べにくいっすよ」


「ふふ、私は気にしないでいいわよ?」


「いや、気にしますよ……」


 めちゃくちゃ見られてて食べづらい……見られてたら食べにくくない?俺はそっちのタイプだ。まさか平日の昼からこんな幸せな時間が訪れるなんてな……

 ん?平日……学校……は!?

 中間の勉強をしないと!もうすぐじゃん!


「忘れてた……これ食べたら勉強しますね俺」


「何言ってるの、今日は寝るのよ」


「でも中間が近いし……」


「でもじゃない。私も宿題があるから、起きたら一緒に勉強しましょ?それでいいわよね?」


「……はい。」


 有無を言わさぬ笑顔の圧力。

 昔から雪音は基本優しいが、怒らせると本当に怖かった。いつの時代も普段温厚な人が怒ると、それはそれは怖いというものだ。


 てか、宿題?雪音は学校に通ってるのか?


「宿題って、雪音姉さんはどこの学校に通ってるんですか?」


「いや、通ってはないわよ?ただ、姉が毎週宿題を出してくれるの。私はいいって言ってるんだけど、常識は付けときなさいってさ」


「……え?お姉さんいたんですか!?」


「いるわよ?姉が一人ね、少し歳は離れてるけど仲はいいと思うわ。小さい頃に両親が離婚して、私はお父さんについて行ったけど、姉はお母さんについて行ったからずっと一緒に暮らしてなかったの。


 だから初めてできた年下の身内ともいえる舞香ちゃんが可愛くて可愛くて……」


 そうやって一人悶える雪音。


 彼女に姉がいるなんて知らなかった。

 きっとこんな素敵な女性のお姉さんなんだ、とても素敵な方なんだろう。今度写真でも見せてもらお。きっと、いや確実に美人だ。


「そういうことで私も今高校二年生の勉強をしてるから、実質同級生ね。だから今後私のことは雪音姉さんではなく、雪音と呼ぶように。」


「えぇ……」


「はい、どーぞ」


「雪音…………」


「そうそう、やっとレベルアップしたわねぇ〜よしよし♡」


「だから子供扱いやめてってば!!!」


 ついに長年(数週間)の訓練の末、いや義姉の強制の末に呼び捨てができた瞬間だった・・・






「「ご馳走様でした」」


「さ、一応体温を測って?」


 そう言って雪音は体温計を俺に差し出す


「んー……まだ熱はあるみたいね。今日のところは寝て過ごすのよ。私も今日はここにいさせてもらうから、何かあったら呼んでいいからね」


 そう言って雪音は俺の頭を優しく撫でる。

 こうやって看病されてると、中学の時の入院生活を思い出すな。



 怪我をして当分の間入院が必要と言われた俺は毎日暇な思いをしていたが、小吉がお見舞いに来てくれることと、雪音もお見舞いに来てくれる事が唯一の楽しみだった。


「さ、俊は寝るわよ。おいで」


「そ、そこまではしなくていいよ!」


 雪音は 早くー と言いながら、手を広げまるで小さな子を抱っこするかのようなポーズをとる。俺のことを何だと思っているのだろうか。……まぁ、何度も言うが悪くはない。もうすっかり俺の中のバブみは彼女によって開発されてしまった。


「はいはい、じゃあおやすみなさい」


「ありがとう、おやすみ雪音姉さん」


 俺は会話を終え、休むため寝室へと戻った。


 ほんの数週間前までは、まさか雪音とこんな関係になるとは思ってはいなかった。今のところは例のファンレターの件では何も起こってはいないが、改めて気を引き締めておこう。こういう気の緩み始めた時期に何か起こりやすいのだから……




 *



 時刻は18時。かれこれ5時間程度も寝てしまっていた。そして俺は今寝室で息を潜めて、じっとしている。


 なんでリビングに行かないのかって?いい質問だが、答えは単純。行けないのだ。


 そーっとリビングを覗いてみると


「えいっ!うわっ!ぎゃーーー!!!

 もう、これ難しすぎ……」


 そうやって声を出しながら雪音がゲームをしている。ただゲームをしているだけならいいのだが、彼女は今現在進行形で配信を行なっている。


 もう一度言おう。扉を挟んで向こうのリビングでは現在、視聴者10万人を集めているゲーム配信の真っ最中なのだ!


 そんなリビングに俺が出ていくわけにはいかないだろう……


 ひとまず大人しくしていよう。そう考えた時、やはり神様はどうやら悪戯が大好きらしい。


 玄関の扉が開いた音がした。そう、帰ってきたのだ、我が義妹が……!!!


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