第244話 奥州恋歌2


 妖狐の弱点は口中。そこに火属性攻撃しないと殆どダメージ無しか。

 これは独眼竜じゃどうにもならない訳だ。


「討伐完了ですね」


 もう余計な体力も霊力も使えない。今の戦闘でMPはほぼ0ですよ。


 ほむらの召喚を解いて、私は正宗に向き直った。

 妖狐の残滓を探っていたらしき正宗も、にやりと笑ってこちらを見る。


「よし、ご苦労だった。これで母上に会いに行ける。その前に近くの支城で身支度を整えるからお前も来い」

「いえ、私はこのままお暇します。お疲れ様でした」


 お疲れ様でした、といった言葉が社交辞令じゃないくらい疲れていて、本気でとっとと帰りたい。

 それなのに正宗は「遠慮するな」と私の手首を引っ掴み、そのままさっさと歩きだした。


 身体がふらふらする。疲れがピークに達していて、いちいち逆らう気力すら惜しい。


 この際、少し休ませて貰ってから帰ろう。

 引き摺られるように連れて行かれながら、私は素直に従うことにした。




 ***************                ***************


「貴女が真木雪村殿ですか……。真木家はふたり兄弟と聞き及んでおりましたが……」


 支城で出迎えてくれた家臣の人が、愕然とした顔で私を見た。正宗より年上で、でも家老にしては若い感じの男の人だ。

 いったい正宗は私の事を、おうちで何て話していたんだろう。


「妖狐討伐で疲れている、少し休ませてやれ。小重郎、手筈通りに頼む」

「正宗様!」


 出て行く正宗を追って、小重郎と呼ばれた家臣の人も部屋から出て行く。

 ”小重郎”?

 ……って事は、あの人が正宗の傅役の『支倉小重郎』なんだろう。

 ゲームでは名前しか出なかったけれど、史実ではモデルになった片倉小十郎の息子さんが、真田幸村の家族を保護していて、幸村の娘をお嫁さんにしている。


 あの人が”小重郎さん”かぁ。

『正宗の傅役』と『雪村の世話役』で設定が似ているせいか、知勇兼備ってキャラが被っているからか、少し兼継殿に似ていた気がする。



 +++


「ですからお召し物はまだ乾いておりません。こちらにお着替えになられてお待ちになるようにと、殿が」


 舘家の侍女が恐縮して頭を下げる。

 汚れているから風呂に入れ、と言われて戻ってみればこれですよ。

 洗濯してくれるのは有り難いけど、すぐ帰るって言ったのに。


 自前の小袖の代わりに着せられた、目にも鮮やかな掛下と打掛が大変重い。

 刺繍が多くて派手な着物を重ねられては 身動きすらままならず、私はとりあえず目の前の正宗を睨みつけた。


「……何ですか、これは」

「あの薄汚い恰好で母上に会うつもりか。なかなか似合っているじゃないか。馬子にも衣装だな!」


 偉そうに腕を組んで私を見ていた正宗が、楽しそうに はははと笑う。

 この人『馬子にも衣装』の意味を解って言っているんだろうか。だとしたら喧嘩を売っているとしか思えない。


 しかし怒る気力も尽きている私は、さっさと打掛を脱いで歩き出した。

 休ませて貰おうと思ったのが間違いだった。


「洗い替えには豪華すぎです。お風呂ありがとうございました。多少は濡れていてもいいですから、私の着物を返して下さい」


 ぐいと迫ると、侍女が慌てて逃げていく。

 ふたりきりになった途端、脱ぎ捨てた打掛を手に近付いてきた正宗が、馴れ馴れしく肩に手を置いた。


「着物が乾くまで俺に付き合え」

「母上様との親子水入らずを邪魔するほど無粋ではありませんよ。私は適当に帰りますから、正宗殿はどうぞいってらっしゃいませ」

「本当にお前は、俺のいう事を聞かないな!」


 後ろからばさりと打掛を被せられ、そのまま羽交い絞めにされる。

 簀巻きの状態で正宗の肩に担がれ、私はぎゃあと悲鳴を上げた。



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