第208話 お告げと嘘と個別ルート2
兼継殿と取り残されてしまい、私は茫然とピンク色の後ろ姿を見送った。
「私に何か用か」
兼継殿が聞いてくるけれど、用があったのは桜姫の方だ。しかしそれを知られては お互いに気まずくなる。
私は兼継殿に用事があった振りをして、ぺこりと頭を下げた。
「影勝様の鯉の件、取り成して下さってありがとうございました」
……密会現場に乗り込んでまで伝える内容じゃないけど、この際 仕方がない。
兼継殿も「あ、そんなこと?」って表情を閃かせた後で巧みに隠し「別に構わない」と微笑んだ。
問題はここからですよ。他には特に話が無いんだから。
「……」
「…………」
お互いしばらく押し黙って そろそろ不味いなと思い始めた頃、兼継殿がぽつりと口を開いた。
「先ほど姫にも伝えたのだが。与板の養父から、縁組の話が来た」
「えっ!?」
兼継殿の元々の苗字は『樋内』で、直枝家には養子に入っている。『与板の養父』とは直枝家先代の事、与板は直枝家が城主をしているお城の名だ。
私は仰天して兼継殿を見返した。
だって『毘沙門天のお告げ』イベントが発生したって事は、兼継ルートに入ったって事だよ?
ここから先のシナリオは、エンディングまで一本道の筈だ。
その状況で、何でそんなイレギュラーなイベントが発生しているんだろう。
そもそも、桜姫以外との結婚イベントが発生する誰得展開なのは『信倖ルート』だけじゃなかった??
私は思わず兼継殿の袖を引っ掴んで聞き
「あ、あの、それで兼継殿は」
「影勝様が妻を娶っていない現状で私が先に、という訳にもいくまい。そのように
「そうですか」
ほっとして、でもどんな顔をしていいか解らなくて 私は顔を伏せた。
霊獣を従える大名家は『霊力が高い跡取り』を重視する。
相模の陰虎様がいい例で、陰虎様は東条家の子息の中で一番霊力が高かったけれど、霊獣を従えるには足りなかった。
だから霊力鍛錬を兼ねて、上森に養子に出されていた。
武隈家は実子の克頼様の霊力が低くて、霊獣の継承が出来なかった。
おそらくそれが無ければ、真木への炎虎下賜も無かった筈だ。
だんだん、霊獣を従えられるだけの霊力を備えた大名が居なくなっている。
影勝様も神龍の継承をお子さんにする為には『霊力が高いお姫様』の輿入れが必要だから厳選しているんだろうし、実際に陰虎様はそれを見据えて、剣神公の姪になる花姫を娶っている。
「影勝様の縁組は大変なのでしょうね。今は霊力が高い姫も数少ないですし。しかし武隈と真木の例もあります。万が一の事があっても兼継殿のお子なら、龍を従えられる霊力を備えているのではないですか?」
そう言ったら 私から目を逸らし、兼継殿が苦笑する。
「私が好きな娘は訳有りでな。子は出来ない」
しまった!
『兼継ルート』は桜姫を天に還さなきゃならないから、姫と契れないんだった。
兼継殿には愛染明王が憑依していて、もともと『何かあれば桜姫を天に還す』為にここに居るって設定だ。
だから他の武将と違って、『
失敗したな……
そっと兼継殿の様子を窺うと、いつの間にか兼継殿もこっちをじっと見返していた。
そして気まずそうな私を気遣ったのか、 さらりと前髪を撫でてくれる。
考え無しな事を言ってごめんなさい。私は言葉を選びながら 口を開いた。
「たとえ今生で添い遂げられなかったとしても、天に戻ったその先で、結ばれる事もありましょう。私はそう信じます」
「お前はそう思うか」
「はい」
兼継エンドは 桜姫が天に昇るスチルで終わるから、その先の展開は解らない。
でも兼継殿には愛染明王が憑依しているから、いつか天に戻ったら再会出来るかもしれない。
「影勝様がまだだから」と言われれば、養父上様もごり押しは出来なかったんだろう。
でも兼継殿は『直枝家の跡取り』として養子に入ったんだから、さっさと兼継殿に身を固めて貰いたいに決まっている。
私の都合で桜井くんには『兼継ルート』に進んでもらった。
そのせいで兼継殿は跡取りを残せない。今生では桜姫とも結ばれない。
私、自分のことばっかりで、どこまでも兼継殿に迷惑をかけているな……。
そう思うと本当に本当に申し訳なくて、何だか泣きたくなってきた。
「どうかしたか?」
兼継殿が顔を覗き込んで来て、私は慌てて作り笑いをする。
結婚が決まりそう、って話に「おめでとう」って言えなくてごめんなさい。
破談になってほっとして ごめんなさい。
このままだと本当に涙が出てきそうで、慌てて顔を伏せたら、兼継殿の手が私の頭を抱き寄せて 顔を隠してくれた。
兼継殿、私が変な雰囲気になっていて、何がなんだかよく解らないだろうな。
私だって、説明しろって言われても何て言っていいか解らない。
兼継殿の胸元におでこをくっつけたままじっとしていると、大きな手が 私の頭を撫でてくれる。
落ち着くような、ますます泣きたくなるような訳がわからない感じになってくる。
「……お前は解っていないのだろうな」
ぽつりと兼継殿がそう言って、私はどう答えていいか判らなくなった。
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