第26話 そういえばここは乙女ゲームの世界でした
兄上が暫く戻れないようなので一度上田に戻りたい、そう兼継殿に伝えたら言下に却下されてしまった。
私がそう言いだすだろう事は、兄上が先刻承知だったらしい。
徳山が「姫の護衛に真木では役者不足」と言っていた事は聞いたけど、意外とこの件は根が深いみたい。
そもそも徳山は、霊獣を使役する大名家を目の敵にしているきらいがあって「人の世は人の手で治めるべき」を信条としている。
当然、武隈の炎虎を使役する真木の事も良く思っていなくて、富豊に臣従する前に何か仕掛けてこないとも限らないから、私を越後から出さないようにと兼継殿宛てに文が来たのだそうだ。
兄上、そういうことは私宛ての文に書いてよ。
兄上も兼継殿も、雪村のことを子供扱いし過ぎだと思う。
私から見たら雪村は十分しっかりしているように見えるけど、兄上や兼継殿から見たらまだまだなのかな。
いやもしかして、私が入っているせいでしっかりしてないように見えてる、とか……?
だとしたらまずい。私も雪村知識に頼るばかりじゃなくて、ちゃんとしっかりしなくちゃ。
桜姫はいいなぁ。
こんな事を考えなくてもいいし、越後の侍女衆とすごく打ち解けてて羨ましい。
私、こっちに来てから現世以上に気を張って動いてる気がする。乙女ゲームの世界にきたのに潤いが足りない。私も女の子たちとお話ししてキャッキャしたいよ。
さて、上田に戻る件が却下されてしまったので、私はふたたび暇になった。
そこでふと思い出したんだけど、私は雪村の死亡ルート回避の為に、桜姫と兼継殿の恋を取り持つつもりだったんだっけ。
うっかりここが乙女ゲームの世界だってことを忘れていたよ。恋愛しろ恋愛。
まずは桜姫と兼継間の好感度を上げなければイベントは発生しない。
こっちの世界だって親しくない相手は誘わないだろうしね、どっちにしても大事なのは好感度だ。
ええと、桜姫と兼継殿の一番最初のイベントって何だっけ。
確か平安時代の「花に恋の和歌を添えて贈るイベント」っぽいやつ。
思い出した! タイトルは「越後花言葉」。
「越後では意中の相手に、伝えたい「花言葉」を持つ花を贈るのが流行りだ」と侍女から聞いて、桜姫が兼継に花を贈るイベントだったはずだ。
よし、今日は桜姫を散歩に誘って、イベントが発生した時のために花の下見をしておこう。
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