第17話 風雲 花見の宴1 ~side S~

 大阪の花見にやってきた。


 花見自体は克頼が桜姫を「父と上森剣神公の間に生まれた姫です。神の子です」と公衆の面前で暴露ばくろして終わるだけだからどうでもいい。


 俺にとってのメインイベントは美成みつなりだ。

 美成が特に気に入っているという訳でもないが、こいつだけ「初めて大阪に行った時に会わないと攻略不可」って制限があるから注意する必要がある。


 大阪に着いてすぐに雪村に連れられて出掛けた時、美成のところかと思っていたら上森邸に連れて行かれ、上森影勝うえもりかげかつに紹介された。

 兼継に会った時にも思ったけれど、桜姫を信厳とこに連れてくる時に、上森に了承を得なかったことを、雪村は随分すいぶん気にしていたみたいだな。


 雪村は上森に人質に来ていた期間があるから、上森家って特別なのかも知れない。


 そういえば雪村は、その頃に桜姫と知り合ったって設定なんだよな?小さい頃から桜姫の美少女っぷりを見てきたから免疫ができてる、ってオチじゃないかこいつ。


 やっと謎が解けたぞ。


 何だかずっと雪村攻略を考えてて、あやうくこいつに惚れてる錯覚を起こしかけてたわ。


***************                *************** 


 花見の前日になって、雪村はやっと俺を美成のところへ連れて行った。 なかなか連れていかないからヒヤヒヤしたぞ。

 途中、城下町に寄ったんだが「棲莱夢スライムまんじゅう」ってのが売っていた。 雪村も興味を惹かれたらしくうっかり覗き込み、おばちゃんの激しいセールストークに押し負けて買っている。


 スライム!俺は怨霊って土蜘蛛しか見たことないけど、ここってスライムも居るのか?なにその和洋折衷わようせっちゅう


 見た感じでは水まんじゅうっぽかったけど、それスライム入ってるの? 見たい、食べたい!あとで雪村に一個貰おう。


 そう思っていたのに。


 この饅頭まんじゅうは美成への手土産だったらしい。

「美成殿に渡して下さいね」そう言って俺に手渡した後、雪村は噛んで含めるように「必ずですよ」と付け足した。

 

 そんなに俺はこの饅頭を、手放しがたい顔をしていたのだろうか。



 そうこうしているうちに、美成がやってきた。

「花押を君に」きっての人気キャラだけある美形っぷりだ。俺的には男のツンデレにさほど興味はないけど。

 ただその青っちょろい顔には疲労が濃く浮かんでいて、雪村が心配そうに気遣っている。

 雪村がしきりに合図するので、俺は仕方なく饅頭を差し出した。


「甲斐の銘菓です。食べて元気を出していただけたら嬉しいわ」


 ゲームでは甲斐から菓子を持ってきてたはずなんだよ。雪村、あっちで買い忘れたんだろうか。

 現世で言うなら「手土産を忘れて出張先の空港で買った」ようなもんだ。相手にはバレてるぞそれ? 

 はははうっかりさんめ。よし、ここは雪村の顔を立ててやろう。

 そう思った俺は棲莱夢まんじゅうを「甲斐の銘菓」と偽る事にした。どうせ美成はこんな饅頭、城下で売ってるなんてしらねーよ。


 ……と思ったのだが。


「俺は人となりが解らない者からの贈り物は口にしない。それも理解出来ないなら、貴女は随分と不用心な生き方をしてこられた方のようですね」


 つんと顔をそびやかした美成が喧嘩を売ってくる。手土産を忘れたうんぬんの問題じゃなかったわ。


 それはともかく。来た来た。魔性のツンデレめが。

 

 ゲームではここで「黙っている」か「言い返す」のどちらかを選ぶ。

 俺はゲームでこの辺をやった時は、ツンデレの相手が面倒なので「黙っている」を選択したんだが、黙っていた場合は雪村が「それなら私からなら大丈夫ですね」と、さっさと饅頭を渡してしまう。


 それはいけない。何と言っても棲莱夢まんじゅうだ。


 俺は「俺が食うからいいよ」を相手を立てた言い方に変換しつつ美成に伝え、差し出していた包みを引っ込めた。

 途端に雪村が饅頭の包みを奪い取り「美成用ポーションですから」を遠回しに伝えつつ美成に押し付ける。


 スライムが俺の手から雪村の手、そして美成の手へと目まぐるしく移動する。


 最終的にスライムを手に入れた美成のドヤ顔に、俺はぎりぎりと爪を噛んだ。



 美成が、美形笑顔スマイル全開で雪村を激励した。

「兼継から聞いてはいたが、さすが剣神公の姫神子というところか。せいぜい雪村の武運を祈る事にしましょう」


 何だと?まだ一瞬しか会ってないようなモンなのに、兼継の野郎なんて言った!? 雪村もソコ、苦笑で流すところじゃないぞ!

 

 直枝兼継、俺はあいつとも気が合う気がしない。


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