カオス戦国 ～気付いたら18禁乙女ゲームの世界に転生してました・でも私、攻略される武将側なんですけど！？～

第13話 これが私の生きる道

　上田に行ったのが多少は気分転換になったのか、桜姫も元気になったみたい。

　それから甲斐では穏やかな日々が続いていた、表面的には。

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　雪村に転生すると、本当にほけほけ恋愛だけにかまけている訳にはいかないって事が身に染みる。

　先日、兄上から今後の真木の身の振り方についての相談を受けた。

　父上は生前から「お館様が亡くなる前に真木の独立を」と模索（もさく）していたみたいなんだけど、今は時勢的に難しい。

　ほぼ天下を統一した富豊（とみとよ）家か、富豊秀好（とみとよひでよし）の死後、急速に勢力を伸ばしている五大老筆頭代理・徳山家靖（とくやまいえやす）か、どちらかにつく必要がある。

　今までの武隈（たけくま）家は独立勢力だったけど、お館様が亡くなった今となっては厳しくなるだろうしね。真木家は武隈を離れる選択になると思う。

　あ、こっちの世界の五大老・五奉行制度も現世と一緒で、富豊秀好が生前、富豊を支えつつ天下を治めるシステムとして導入したものだ。

　家靖以外の五大老・五奉行は富豊派だから、五大老の影勝様と五奉行の美成殿は富豊派。兼継殿も陪臣（ばいしん）だから同じ。

「姫が上森の姫でもある以上、姫を守護する役割を担っている真木家も富豊につくって選択になるだろうね」って兄上は言っていた。

　現世の歴史を知ってる身としては、徳山についた方が勝ち組だとは思うんだけど。

　兄上はともかく、まさか「雪村」が徳山方につく訳にはいかないからね。

　……私、「桜姫」に転生してたら、こんな事で頭を悩ます必要なかったのになぁ。

　そもそもゲーム中で雪村たちが、こんな政治的な話をしてるシーンなんて見たことないもん。

　ああ、それと「お館様が亡くなったことで何かきな臭い動きがあるから、特に気を付けて姫をお守りするように」そう兄上に言われた。

言いたい事は解る。

　ゲームでは今後「大阪の花見」に招かれて、富豊やら徳山やらが居るその場で克頼（かつより）様が、桜姫を「神の子」と大々的に宣伝してしまう展開になるからだ。

　桜姫は基本、霊力を使って戦ったり守ったりという行動はしない。

　ゲーム中では神子姫としての「政治道具」扱いだから、「嫁ぎ先候補」が桜姫争奪戦を始めるんだよね。「どこの家が「神の子」の加護を得るか」みたいな感じで。

　そしてこの「花見の宴」が、富豊秀好の側室だった拠殿（よりどの）や、徳山家靖に目をつけられるきっかけになる。

　ここらへんはゲームのシナリオ通りに進むはずだ。そして花見は、克頼様と兄上が桜姫を連れて行くから、雪村の出番はない。

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　富豊家から「花見のお誘い」という全員強制参加の飲み会的な招待状が届いた。武隈家に。

　それで克頼様が「武隈の姫として桜姫を連れて行く」と言うので、護衛で兄上と私も行くことになる。

　大阪城の花見自体には雪村は参加しないけど、大阪では「桜姫と美成（みつなり）が会うイベント」が発生するから、それに連れて行かなきゃいけない。やっと美成と初対面だよ？

　家靖（いえやす）ともここで初対面だけど「家靖ルート」は雪村や美成を裏切る選択が必須だから、なるべく進んで欲しくないな。

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「雪村、似合う？」

　桜姫が嬉しそうにくるりと回ってみせた。

　綺麗な着物を着て、頭には薄衣（うすぎぬ）の被り物をしている。花見用に克頼様が用意したものなんだけど、羽衣みたいな薄い絹が桜姫の可愛い顔をふんわりと隠していてもったいない。

「ええ、よく似合っていますよ」

　姫が気にしてないならいいか、そう納得する事にしてにっこり笑い返すと、桜姫が意味深に私を見上げてきた。

「ね、雪村？これって結婚式みたいじゃない？」

　ん？

　花嫁さんのベールの事を言ってるんだろうか。角隠しならともかく、ベールなんてこっちの世界でもあるのかな？

　何だか台詞だけ聞いていると恋愛イベントの前振（まえふ）りみたいだけど、そんなイベントあったっけ？

　そこまで考えて、私はふと気が付いた。

　ええ……ちょっと待って？

　まさかこれは「結婚式の新郎っぽい事を仕掛けてこい」って遠回しに言われてる？ 誓いのキス的な？ いやそれはまだ早いだろ……

　だがしかしちょっと待て。「好感度がまだ低いうちにぐいぐい攻めて恋愛イベントに失敗する」ってのは乙女ゲームのセオリーだ。……円満に恋愛フラグを折りたいなら、ここで攻めに転じるのも良いかもしれない。

　私は目の前の可憐な姫を見下ろした。

　薄衣越しで顔が隠れた桜姫は、本気で言っているのか冗談なのかもよく解らない。

　私は少し……いやかなり逡巡（しゅんじゅん）した挙句に、桜姫の策に乗ることにした。

　何と言ってもあちらは主人公姫で、こちらは攻略対象だ。姫がその気なら攻略されねばなるまい。（ある程度は）

　私は花婿よろしくベール……いや「薄衣を捲（めく）る」シミュレーションを心の中で繰り返しながら、改めて姫を見つめた。まずは桜姫の状況確認だ。

　パターン其の一：捲（めく）った後「さあ来い！」的に目を瞑（つむ）られた場合。

　①「額か頬にチュウ」

　②「おくちにチュウ」

　私にとっては「はじめてのチュウ」なんですけどね！　②の場合は今の好感度で仕掛けるとフラグが折れる可能性が高い。

　一発くらい殴られる覚悟は必要だけど、雪村ルートは「恋愛失敗」の選択肢が少ないからここで折っとくのもアリ。

　パターン其の弐：可愛らしくきょとんとしていた場合。

　①私の考え過ぎって事だから「笑って誤魔化（ごまか）す」一択。

　さあ姫、どっちだ！？

「でもこれでは姫の可愛らしいお顔が見えません」

　リップサービスを交えながら、私はさっそく姫の顔を覆う薄衣をめくってみた。

　中には驚いたような桜姫の顔。あ、これはどっちも違……

　その刹那（せつな）。

　予想外に姫の右ストレートが腹に突き刺さり、私は思わず「げふ」みたいな変な声を出して身体をくの字におり曲げてしまった。

　桜姫がきゃあと悲鳴を上げて「雪村、大丈夫！？」と抱きついてくる。

　やだー私ってば考え過ぎだったみたい。

　私はへらりと笑って「大丈夫です」と答えた。

　結局これが何のイベントだったのかは解らないままだけど、ちゅーしてくれ、みたいな展開にならなくて本当に良かった！