第92話 男爵領へ到着

 王城から飛び立ち王都の外へ出た。

 分かっていた事だが、改めて理解する。


「駄目だ。遅過ぎる」


 遅いのだ、飛ぶスピードが。

 いや、正確に言えば、別に速度は速くしようと思えば出来る。

 MPを消費して風力を強引に底上げすれば可能。

 アルタナで、フェリを担いで糞魔王の闇の波動から逃げた時もそうして高速飛行して逃げたのだから。

 しかし、だ。

 この飛行方法は、元々MP消費が高く称号と最近の鍛練の成果で上がった魔力制御の効果があっても長時間の飛行はあまり向いていない。

 もし、強引に風力の底上げをしようものならMP回復促進のスキルがあってもMPが先に底を付く事だろう。

 なので、他の方法で移動速度を上げるしかない。


 仕方ない。

 少しでも、早く男爵領に着く為だ。

 かなり強引な力技だけど、上手く出来れば確実に早く着ける。

 試してみるか。


 私は、風属性魔法を解除。

 纏っていた風が消失して身体が自然落下していく。


 やるか。


 私は落下を気にせず、全身に身体強化+かなり強めに両脚に部分強化を施す。

 そして、落下しながら空中で体勢を整え膝を曲げると身体から力を抜いてリラックスした。

 次の瞬間、あるスキルを発動と同時に脚に全力で力を込めて空中を蹴り飛ばした。


『ズガアアァァーーン!!!』


 瞬間、轟音を響かせながらアカリの身体は先程とは比べものにならぬ速さで空中を突き進んだ。


 良し、上手くいった。


 アカリがした事。

 それは、至極単純である。

 空力のスキルで足場を形成。

 全力で足場を蹴り飛ばして空中を文字通り真っ直ぐに跳ぶ。

 空を飛ぶのではなく跳んだのだ。

 試した結果は、見事に成功。

 さながら、弾丸の様な速さでアカリは空中を高速飛行しながら突き進んだ。


 そろそろ、もう一発!


 速度と高度が下がり始めた辺りでアカリは、右膝を曲げて右脚に全力で力を込めると蹴り飛ばす様に空中を蹴る。

 同時に空力を発動。


『ズガアアァァーーン!!!』


 再び響き渡る轟音。

 下がっていた速度と高度が再び上昇し空中を進んでいった。

 その後、アカリは速度と高度が下がる度に同じ事を何度か繰り返す事で信じられない早さで空中を移動していった。


 ※※※※※


 人間弾丸になって空中を高速飛行し始めてしばし。

 あいにく、私は体内時計に自信が無いので正確には分からないが、多分二十分、三十分位は経過したのではないだろうか。

 まぁ、もしかしたらもっと経過してるかもしれないが。

 そして、現在の私だが道中にある森林上空を跳んでおり少し面倒な事に直面していた。

 いや、直面しようとしていた。

 私の視線の先。

 視線の先といっても、数メートル先ではなく数十メートル~百メートル位先。

 そこに、私の進行を妨害する様に十数体程の巨大な鳥らしき生物が飛行していたのだ。

 遠目から見て恐らく二メートル以上。

 大きさからして普通鳥ではない。

 明らかに、魔物の類いだろう。

 そして、コイツらだが「ギャース!!」的な鳴き声をあげて私に敵意を向けてきている。

 私を無視してくれる様子はない。

 このままだと、多分二、三秒後には衝突するだろう。


 さて、どうするか。


 脳内で対応策を考える。

 考える事数瞬。


 突っ切る!


 避けるのも面倒。

 敵意も向けられてるので、ブッ飛ばして強硬突破する事に決めた。

 決めると同時に一瞬で、収納から破砕剣を取り出し右手に握り締めて振り上げ巨鳥と接触する瞬間、片手で袈裟斬りに振り抜いた。


「退けえッ!!!」


 斬り裂くというより、叩き潰す様に破砕剣で身体を斬り潰され吹き飛ばされた巨鳥。

 進行を妨害する位置に居たその一体を強引に退かした事で、私は巨鳥の群れを一切止まらず突っ切った。

 そして、巨鳥の群れとすれ違った時に私は、ソイツらに置き土産を置いていった。


「吹っ飛べ」


 呟いた直後


『ドカアァァァーーン!!』


 背後で、爆音が響き爆炎の炎球が発生した。

 そんな事が起きた原因は、勿論私。

 破砕剣を取り出すと同時に左手を起点に火属性魔法を発動して魔力を多めに込めた火球を瞬時に作成。

 それを、すれ違い様に暴走させて巨鳥の群れにポイ捨てしたのだ。

 既に、先程の場所からかなり離れているので確認出来ないが恐らく巨鳥は全滅している事だろう。

 別に仮に全滅してなかったとしても、正直どうでも良い。

 今は、依頼でもレベル上げが目的でもないのだ。

 私は、更に空力で足場を蹴り飛ばして先を急ぐのだった。


 ※※※※※


 巨鳥をブッ飛ばしてから更にしばし。

 村や町等を幾つか通過した。


「そろそろか?」


 国王に見せてもらった地図は、私が以前資料室で見た地図よりも詳細に記されたものだった。

 多分内政関係で使う事があるのだろう。

 村や町が分かる様に簡素だが地図に印がしてあった。

 なので、幾つ村や町を越えた後に男爵領に着くのかも知れた。


 地図だと、そろそろ男爵領の領地の筈なんだけど。

 小山の様な丘の様なものはあるけど、町らしき建築物が見当たらない。

 そういや、男爵領は小さいって国王が言ってたな。


 つまりは、小さい領地だからまだ建築物が見える程領地に近付いてないって事なのだろう。

 もうしばらく進めば何かしら建物が見えてくるだろうと私は空中を移動した。


 移動する事数分。


「見えた」


 視界の先恐らく一キロ程だろうか?

 ようやく、男爵領の町らしきものを発見した。


 これ町なの??


 地図には、男爵領の領地には町が二つあると記されていた。

 多分、男爵の領主邸のある町と町長的な人が居るもう一つの町があるのだろう。

 なので、今私の目に見えているものも町の筈。

 なのだけれど、どう見ても自身の目に映るものは町には見えず………


 え?村じゃね?


 活気の無い寂れた村にしか見えなかった。


 ま、まぁ、町で良いや。


 気にした所で何も変わらないので気にしない事にして町を迂回する様に風を纏い空を飛んだ。

 流石に、町近くで轟音が鳴る空力移動法は目立ち過ぎるからだ。

 迂回して飛行し、町の様子を軽く眺めながら移動する。

 見える景色は、内心思った通り酷いもので過疎化の進んだ限界集落一歩手前って感じ景色をしていた。

 一歩手前の理由は、まだ町の人の姿が見えているのと幾らか田畑で野菜や穀物らしきものを育てていたからだ。

 もし、人の姿も田畑も無ければ完全に限界集落と言っても良かっただろう。


 酷いなマジで。

 スモルスだったか?

 支援を求めていたって国王が言ってたな確か。

 こんなになるまで何も対策してこなかったのかよ。

 仮にも自身の統治する町何だから、ちゃんと領地運営しろよ。


 上空から見える町を囲う様に申し訳程度に設置されている町を守る為にあるのだろう木柵。

 そこには、入り口に一応見張りの者は見えたのだがどう見てもただの町の住人にしか見えなかった。

 私は、「マジかよ」と言葉を漏らしながらも上空を飛行し町を後にした。


 そして、更に移動してしばし。


「着いた」


 目的地である男爵が住んでいる町へとたどり着いた。

 視界の先には、廃れては居るが先程の町に比べれば多少活気のある町の姿が見えた。

 本当、多少でしかないが。


 自分が住んでる場合だけは、少しは領地運営してるのかねぇ。

 まぁ、それでも若干の違いしかないけど。

 はてさて、住人には苦労かけてるけど自分はどんな生活してるんだろうねぇ。


 私は、視界の先に見える男爵が住んでるだろう領主邸らしき建物を眺め内心そんな事を思いながら町の手前の雑木林の中へと降りた。


 さて、これからどうするか。


 町へ向かって雑木林の中を歩いて進みながら、この後どうするのか考える。

 幸い瀬莉を拐った奴に対する怒りはあるものの、移動の合間に頭も冷えて冷静さは戻っている。

 考えれば、何かしらアイデアは浮かぶだろ。


 んん~~正面突破…………は駄目だな流石に。


 乗り込むだけなら正面からでも別に良い。

 正直、吸血鬼や亜竜、竜、龍、魔王クラスが相手でないのなら手練を複数人相手しても対処出来る自信はある。

 しかし、瀬莉を人質を取られると動けなくなるのでこの案は流石に除外だ。

 別の案だと、隠密に潜入して内部を探るってのもある。

 だが、これも気配遮断のスキルLvがまだ低いので難しい。


「って、あぁ、もう町か」


 気付けば、雑木林を抜けており町の入り口近くまで着いていた。


「すみません」

「いらっしゃい。こんな廃れた所に珍しいな。町に用があるのか?」


 本当に珍しいのだろう。

 その男性は、軽く目を見開いて驚いた様に私へそう言ってきた。

 この町に住んでいる目の前の男性には悪いが、その反応も仕方ないと納得する。

 どう見てもこの町には、好んで訪れる様な魅力が何もある様には思えないのだから。

 だが、私には今回訪れる理由があるので入らせてもらう。


「はい。少しこの町に用がありまして。これ、ギルドカードです」


 私は、入る為にギルドカードを提示する。

 男性は、それを「見てるの?」と疑問に思う位軽く流し見すると返してきた。


「ほら、返すよ。ようこそ。何もない町だが、ゆっくり過ごしてくれ」

「はい。そうさせてもらいます」


 そうして、私は町へと足を踏み入れた。


 さて、瀬莉が本当に居るのか確かめないとね。

 どうやって、町に居るか確認しようか。


 私は、一度深く考える為に近場にあった岩の腰掛けた。


 まず、第一にやらないといけないのが瀬莉が此処に居るのかの確認。

 居ないのに長時間居座っても時間の無駄だ。

 だったら、乗り込んで確認すれば良いってなるけどさっき考えた通り人質にされて瀬莉が殺されたら本末転倒。

 だから、最速かつ慎重に動かないといけない。

 しかし、そんな便利な方法等簡単には思い付く訳がない。


「んん~~どうすれば…………ん?」


 唸っていたその時、私は視界の端にある人物が見えてそちらに視線を向けた。

 そこに居たのは、メイド服を着ている女性だった。


 メイドさんか。

 町まで、食材か日用品の買い物かねぇ。

 ご苦労な事で…………あ。


 私は、メイドさんを見ていて丁度良い方法を思い付いた。

 もし、上手くいけば知りたい情報が直ぐに手に入れる事が出来る。

 迅速果敢に私は、早速その方法を実行するべく行動を開始した。


 ※※※※※


「ゴフッ!!ゲホッ!!フーーフーー痛ッ。ハァハァ……何、日経った」


 私は、暗い部屋の中で倒れながら霞む思考を何とか働かせる。

 部屋の中は、窓一つなくランタンの様な小さな火があるだけの暗闇。

 唯一の出口として扉があるものの連れて来られた初日に脱出しようと試みたが、外から閉ざされており出る事は出来なかった。


 あぁ、駄目だ。

 頭が痛くて上手く考え事が出来ない。

 それに……


「食事の時間です」


 私が、霞む思考で何とか考え事をしていると乱雑に扉を開けて何者かが入ってきた。

 恐らく声からして女性だろう。

 私は、内心ホッと安堵した。

 だが、安堵したのも束の間。


「おい、出来てんだろうな?」


 男の声が聞こえた。

 それに気付いた瞬間。


「ヒィッ!!あ、あぁ、カヒューーカヒューーゴホッ!!ハァハァハァーー!!」


 私は、恐怖から身体が震え過呼吸となり息もまともに吸えなくなった。

 そんな私の状態に男が気付いた。


「てめえ、またかよ。昨日止めろって言ったよな。耳障り何だよ!!」


 男は、そう怒鳴ったかと思うと片足を持ち上げ……


「ゴハッ!!」


 私の顔を蹴り飛ばした。

 まともに対応も出来ず顔面を蹴られ床に打ち付けられる様に倒れる。

 蹴られた顔が痛い。

 ジンジンと鈍く痛み私は、蹴られた所を押さえようとするが出来なかった。


「ガァ"!!」

「何トロトロ動いてんだよ。オラ!さっさと飯を食って働きやがれ!」

「ゴブゥ""」


 髪を毟る様に鷲掴みされ頭を持ち上げられたかと思うと男が持ってきた料理の乗っていたのだろう皿に私の顔を押し付けた。

 水分が多いので、多分スープか何かだと思う。

 皿に叩き付けられなくて良かった。

 しかし、スープが無理やり口や鼻、目に入りとても痛い。

 噎せて顔をあげようとしても、男に捩じ込む様に皿に押し付けられるせいで、ろくに身体に力が入らない私では必死に耐える事しか出来る事はなかった。


「ハハハハハハ!!ざまあねえな。汚ねぇ。さっさと、そのゴミ食って床を掃除しろよブスが。それで、今日の分は何処だ」

「ヒューヒュー……ゲフッ!そ、そこ…に」


 私は、震える手で部屋にある机を指差す。

 男は、机へと歩いて行くと置かれている物を手に取った。


 そして


「昨日より少ねえじゃねえか!!この役立たずが!!倍は造れって言っただろうが!!調子に乗ってんじゃねえぞ糞女が!!オラ!オラ!!」

「ガァ"!ゴフッ!痛ッ!!や、止め、て、おね、が」

「うるせえ!!耳障りつってんだろ!糞が!!」


 顔面、胸、腹と手加減の無い蹴りが私に襲いかかる。

 防ぎたくても出来ない。

 何故なら、私の腕はいつの間にか折れていた様で力が上手く入らず動かせないから。

 止めて欲しいと声に出す事しか私には出来ない。

 だが、男が止めてくれる事はない。

 怒りが静まり暴力が止むまで耐えるしかないのだ。


「ハァハァハァ……糞が。良いか。明日は、今日の倍以上の宝石を造れ。出来ないのなら、役立たずのてめえは殺すだけだ。分かったか」

「コヒューーコヒューー」

「無視してんじゃねえ!」

「ガハッ!」

「チッ!ブスが」

「皿を下げますね」


 男と侍女らしき女性が部屋から出ていった。

 蹴られた場所が、とても痛い。

 頭も首も胸も腹も足も。

 連日、気に入らなければ一切の躊躇い無く振るわれる暴力のせいで無事な所は何処もない。

 常に身体中から鋭い鈍痛がする。


「グスッ……ヒク、痛…い……うぅ、グスッ……もう、嫌だ。誰か、助け、て」


 私は、泣きたくないのに救いのない現状に耐えられず涙が流れてきた。


「緋璃……助けて」


 決して来る筈のない行方不明の友達。

 無意識にかつて自身を窮地から助けてくれた大切な友達の名前を宮本瀬莉は呟いた。


『ガチャ』


 閉じられた筈の扉が、何故か再び開いた。



 ~~~~~~~~~~~~


 ※本編とは無関係です。


 読者の皆様ご愛読ありがとうございます。

 前話同様に本文が短くて申し訳ありません。

 最近スランプなのか、長文が上手く書けない+納得のいく文章が書けないものでして。

 まぁ、元から上手く文章何て書けてませんでしたけど。

 作者に文才何て無いものですから。

 ところで、今更ですが読者の皆様ちゃんと寝てますか?

 応援の❤️が午前の3時~4時に押されてる事があって少々心配です。

 体調を崩さない様に睡眠を取って下さいね?



 まぁ、作者のつまらない私情はこれくらいで置いといて。



 ※アカリの秘密その4

 前世通っていた高校の美少女生徒会長に初対面の時から何故か異様に好かれていた。

 好かれている理由は、一切不明。



 以上

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