第83話 訓練開始(2)
さてさて、まだ弱いとはいえ仮にも勇者。
何かしら特別な力とか持ってるだろうし少しは警戒しておくか。
開始の合図から剣を抜いて構えたままの天之を見ながら私は、多少の警戒をしながら話し掛ける。
「ちょいちょい、攻撃してきてもらわないと実力を確められないんだけど?」
「いや、先の三人の戦闘を見たら安易に動けないに決まってるだろ」
「えぇ~~」
天之の言い分も理解は出来る。
しかし、このままでは埒が明かない。
なので、仕方ないが私から仕掛ける事にした。
「ちゃんと防ぎなよ?」
「は?うお!?」
脚へ力を込めて瞬時に天之との間合いを詰める。
この反応からして天之から見たら気付いたら目の前に現れた様にでも見えているのだろう。
「くッ!ハア!」
何かしら反撃しないとやられる。
それ故の苦し紛れとしか思えない斬り下ろしを私は、軽く右前方に移動して回避。
そして、移動と同時に左手を天之の鳩尾辺りに添えた。
「フンッ!」
「グア"ッ!?」
脱力からの力を瞬時に込めて左手を鳩尾に打ち込む。
加減はしたし1cm程度の隙間からの左手パーの状態での打ち込みだったので、内臓は勿論無事。
とは言え、軽く力は入れてるし衝撃は内臓に伝わっている。
なので、それなりに苦しい事だろう。
「立てる?」
「ぐぁ"、ハァハァ、今、立つから、ぐぅ"、待て」
「了解」
言われた通りその場で待つ事数分。
「ハァハァハァ……立ったぞ」
天之は宣言通り立ってみせた。
とは言え、息は乱れてるし若干足が震えている。
これでは、実力を確かめる事が難しそうだ。
こりゃあ、やらかしたかなぁ。
つい流れで、ワンインパンチみたいな感じで攻撃しちゃったけどするんじゃなかったよ。
一旦下がらして回復してもらった方がいいかな。
私がどうするかと思案していると天之が何かしているのに気付いた。
「ん?何を……魔法?」
天之がしていたのは魔力制御。
魔力感知で魔力の流れを確かめると身体強化とは違った魔力制御を行っていた。
身体強化なら、全身に纏ったり循環させる。
それか、身体の一部分に集める等をする。
しかし、天之の魔力の状態はどれとも違う。
なので、今のタイミングでやる事となれば魔法だろうか。
「待ってくれたおかげで、準備が出来たよ」
「そりゃあ、天之の実力を確認する為の模擬戦だからね。当然待つよ」
「アカリさんが腹パンするからこうなってるんだけどね?」
「マジでごめん」
その腹パン?に関しては、本当に必要なかったと反省している。
けど、やっちゃったもんは仕方ないので素直に謝った。
「今度はこっちからいくぞ。光弾!」
天之の言葉と共に生み出されたのは、光輝く五つの光の玉。
一見すれば、先の凜の光の矢と同じ類いのモノに見えるが、こちらの光の玉は凜の光の矢以上に光輝いていた。
凜の矢に似てる。
けど、光の輝き具合が全然違う。
となると、凜のは魔力の矢?でこれはもしかしなくても光属性魔法?
そこまで気付いて私は一つ心配事が頭に浮かんだ。
それは、吸血鬼って光属性喰らって無事でいられるのだろうかと。
二次元物では、吸血鬼は光属性の魔法や聖属性みたいな神聖な属性の魔法を喰らうと大ダメージ確定な事が多い。
この世界には、聖属性は無さそうだが光属性は存在すると言うか現在進行形でそれらしき属性の魔法を放たれたようとしている。
「あ、あの~天之さんや。それって、光属性魔法だったりします?」
「そうだが。あ、そう言えば、光属性は弱点って座学で言ってたからアカリさん気を付けてくれ」
予想的中大当たり。
アカリさん大ピンチです。
「いけ!」
「ちょおッ!?」
天之の声に従う様に五つの光の玉が私に向けて高速で飛来してくる。
当たればどれだけのダメージを受けるのか分からないため咄嗟に大きく跳躍する。
直後、私の真下を通過していく光弾にほんの少し冷汗が背中を伝った。
「まだ終わりじゃないぞ!」
滞空中の最中、天之の声に嫌な予感がしてバッと視線を戻す。
嫌な予感は的中。
案の定、そこには更に五つの光弾。
「光矢!」
ではなく、光弾よりも厄介な光の矢を生み出して放ってくる天之の姿が見えた。
「ふっざけんなよマジで!」
現在私は跳躍により滞空中。
このままだと、空中で身動きがとれない所を狙われて直撃してしまう。
「使うつもりなかったのに!」
私はタイマンでは使うつもりがなかった空力を発動。
空中に足場を作り出して横に跳んで回避した。
「はあ!?」
まさか、空中で横に跳んで回避するなんて思わなかったのだろう。
全くの予想外の避け方をされた事に天之は目を剥いて驚愕していた。
そんな天之に対して私は、地面に着地すると同時に再び間合いを詰める。
しかし、今度は天之でも視認出来ると思う位の速度での移動。
「ッ!シッ!」
今度は、キチンと反応が出来た様で接近に対してタイミング良く斬り掛かってきた。
身体もダメージは抜けたのか足の震えも止まって動きも良くなっていた。
まぁ、良くなっていたと言っても今の天之の強さでの話なので簡単に避けられるが。
「くっ!セイッ!ハア!シッ!」
「ん~~」
連続での斬り掛かりを最小限の動きにとどめて回避しながら観察する。
動きは騎士達の指導のおかげか、決して悪い訳ではない。
今も時折、身体の動き、剣の動きにフェイントを混ぜたりして攻撃してきている。
素のスペックに差があり過ぎてるのでフェイントの意味をなして無いものの素人目線的には今の天之の強さにしては十分な技量をしているのではないだろうか。
「もう良いか。天之、もう良いよ」
天之の実力は確認出来た。
なので、タイマンを終りにした。
「ハァハァ、もう良いのか?」
「うん。確認は十分出来たし。そんで、アドバイスとしてはもう少し魔法を上手く使う事。発動速度を早めて剣技と同時に使える様になると良いかな。剣技自体は、まぁ良いと思うから。これから、レベルも上げて更に練習と実戦を積めば良いと思うよ」
今言えるアドバイスを言う。
正直、これで合ってるのかは知らないが前世での護身術と今世での実戦のみしか比較対象がない私ではこれしか言えない。
「そうか、分かった。これからは、同時に使える様に頑張るよ」
「頑張りなぁ~」
下がっていく天之を見送りながら、私は軽く伸びをする。
「んんーー!!ふぅ~~。さて、次をしますか」
私は、前に出てきた次の相手のタイマンを始めるのだった。
※※※※※
天之とのタイマンから、十人を相手し終えた。
皆それぞれ投げナイフやボクシング、空手、柔道、剣術等々と以外とバリエーション豊富。
つい、投げナイフを掴んで投げ返したり、軽くカウンター、背負い投げ、逆エビ固め、白刃取りしたりと逆に楽しんでしまった。
そんでもって、ついにタイマン最後の相手が出てきた。
「ねえ、アカリさん」
「ん?何?」
最後の相手が、何か気になるのか質問してきた。
「何で最後が僕な訳?」
「知らんがな」
知らんがな。
決めたのそっちやろ。
「いや、だって僕出席番号だともっと早いよね!?」
「知るか。超人が細かい事気にしてんじゃないよ」
「酷くない!?てか、超人じゃなくて佐藤だから!」
はい。てな訳で最後の相手は我等がクラスの異常者。
渾名超人。
世界のバグとしか思えない男。
我がオタク仲間である同志。
佐藤亮介の登場だ。
「それじゃあ、さっさとスタートするよ~始め!」
「適当すぎだろ!あぁ~もう!ハア!」
私は、スタート合図すると言動とは裏腹に警戒度を引き上げる。
何故か。
それは、コイツが異常者だからだ。
「だろうな!バグがあ!!」
思った通り。
合図直後に亮介は、私の目の前にまで一瞬で接近。
風を唸らせながら私の顔面目掛けて右ストレートを放ってきた。
私は、それを後方にバックステップして回避。
しかし、亮介は私のバックステップに合わせて地面を踏み込み間合いを詰めジャブ、回し蹴りを放ってきた。
「あっさり避けた癖に良く言うね!ハア!ゼア!!」
「ぐぅ!?」
ジャブを首を曲げて回避。
迫ってくる回し蹴りを腕でガードする。
直後、腕に以前の兎程ではないがトンデモない衝撃が襲ってきた。
予想でしかないが、このバグは豪脚のスキルを持ってそうだ。
「何でこんな威力してんだよ!」
「スキル!技術!そして、筋トレ!!」
「こんのバグがあー!!」
少し掛かってしまった私は、亮介に向けてお返しと右ストレートを放った。
そこそこ強めに力を込めての打撃。
普通に防ごうものなら幾ら亮介でも吹き飛ばされる事は間違いない。
しかし、このバグはトンデモない方法で迎撃してきやがった。
「白刃流し!」
「はぁ!?」
白刃流し。
確か本来は、刀の攻撃に対して防御と攻撃を同時に行う技。
刃の側面に捻りきった拳を入れると同時に一気に捻り上げ、筋肉のパンプと腕の回転力の力で払いと突きを同時に行う技だったはず。
それを、私の腕を刀に見立てて繰り出しやがったのだ。
「くッ!」
驚愕したものの咄嗟に左手を滑り込ませて亮介の白刃流しによる打撃を受け止める。
しかし、このバグは打撃もエゲツナイ威力をしており受け止めると同時にトンデモない衝撃が左手を襲ってきて後方に飛ばされてしまった。
「まだまだ!!ハア!」
追撃の右ストレートを仕掛けてこようとする亮介。
その姿を見ながら私は、十分実力を確認出来たのでタイマンを終了しようと右ストレートを左掌で受け止めて止めた。
今度は、先程よりも力を全身に入れてるので飛ばされる事なく『バシーーンッ!!』と音が響くだけで済んだ。
「はい。終りね」
「もう良いの?」
「十分過ぎるわ馬鹿が。てか、何で白刃流し出来んだよ!おかしいだろ!?」
私は、ようやくツッコミが出来た。
漫画でしか見た事がない技を目の前で使われたのだ。
自然と声も大きくなってしまう。
しかし、そんな私のツッコミに目の前の男はケロッと答えてきた。
「ん?練習したから」
「はあ?」
「だから、練習。ちなみに、数○抜き手もこの前出来たよ」
「もうヤダコイツ」
私は、目の前の男のバグ具合に頭がおかしくなってきた。
「とりあえず、タイマン終わったし戻るよ」
「了解」
私は、亮介を連れてフェリ、戦闘組の皆、騎士達が集まっている元へと戻る。
「はい。皆お疲れ様。大体皆がどれ位強いのかは理解出来たよ。これで、訓練の割り振りもしやすくなった」
「割り振りという事は、何名かに分けるのですか?」
騎士の男性の言葉に私は、頷いて返す。
元々言っていた通り私一人で全員を見る事等出来ない。
無理にそんな事をしようものなら効率が下がって強くする事が出来ない。
なので、私は今回のタイマンで実力を確認してグループに別ける事にしたのだ。
「そんで、早速グループを分けるから」
「えっ!もう別けるの!明日とかじゃなくて!?」
まさか、終わって直ぐに別けるとは思わなかったのか凜が驚いて私に聞いてきた。
「ん?今日だけど?時間が勿体無いでしょ?」
時間は有限。
私自身やフェリの鍛練だってしたいのにグループ分けを持ち越して全員の訓練を見る等していられない。
それに、明日にはAランク昇格試験もあるので今日逃したら明後日発表になってしまう。
「てな訳で発表するよ。まず、Aグループは、相沢さん、天之、青木、佐藤の四人。次、Bグループは、浜田、田中、朝田、後藤、倉本さん、長谷川さん。Cグループは、谷本、渡部、長瀬、源さん、芹沢さん。基本的にこの三グループで訓練。そして、Aグループは基本的に私が鍛えてB、Cグループは騎士の方達に見てもらう」
「じゃあ、アカリは私達の事は見てくれないって事?」
そう言ったのは、Cグループに割り振った美紀だった。
確かに、美紀の言う通り私の今の言い方だとAグループしか見ないと捉えてしまうだろう。
だけど、別にそんなつもりはないのでキチンと訂正しておく。
「そんな事はないよ。私も途中途中でB、Cグループの様子は見に行くしアドバイスをするつもりだよ」
「そっか。なら良いや」
美紀が納得してくれたのを見た私は、視線を騎士達へと向けた。
「とりあえず、グループはこんな形で訓練を行うつもりです。先も言った通りB、Cグループを任せたいですがよろしいですね?」
「はい。問題ありません」
騎士達も納得した。
まだ、訓練内容や今後の予定について話し合う事もあるが一先ずグループ決めに関してはこれで良いだろう。
「良し。それじゃあ、早速グループに別れて訓練していこっか。訓練内容は、グループ内のメンバーと模擬戦。スキルLvを上げるの事が目的だから、ガンガンスキルを使いまくって戦闘してね。それじゃあ、騎士の方達はB、Cグループの指導お願いしますね」
「了解致しました。お任せ下さい」
「そんじゃあ、フェリとAグループの皆は私について来てねぇ」
私はフェリと四人を引き連れて訓練広場の端まで移動した。
訓練広場は広いとはいえ、一ヶ所に固まっていては戦闘を始めたら他のグループの者達と不意に接触したり飛び道具等が当たる可能性がある。
「ここまで来れば問題ないでしょ」
そこそこ他のグループと距離は離れている。
多分目測で二十、三十メートルは離れていると思う。
これだけ離れれば問題は多分ないだろう。
「それじゃあ、始めるけどさっきも言った通り基本模擬戦をしてもらうから。そんで、相手は天之と亮介。凜と青木でやってもらう。アドバイスした事を意識しながら殺さない程度に全力で戦闘する事。何か質問はある?」
「特にないかな」
「僕もないね」
「私もないわ」
「俺もだ」
四人は、特にないのか首を横に振ってそう答えた。
私も、他に伝える事はない。
「それじゃあ、昼ご飯の時間までひたすら模擬戦する事。休憩や質問はいつでもしていいから。それじゃあ、開始!」
私の声を合図に四人はそれぞれ私が指示した相手と離れた位置に移動して模擬戦を開始した。
それをしばし眺めた私は、自分達の鍛練を始める事にした。
「私達も始めよっか」
「ですね。同じ様に模擬戦をするんですか?」
「うん。結局実戦に近い戦闘をするのが一番だからね」
私の言葉になるほどと頷いたフェリは、早速始めるために何歩か私から距離を取ると懐から昨日国庫で入手したばかりの青蘭を取り出して構えた。
そんなフェリを見ながら、私はスタート合図を出す。
「それじゃあ、始め!」
「ハア!」
私の合図の声と同時にフェリは、私との間合いを詰めてきた。
スキル、魔道具、武器による補助強化が合わさった事で以前模擬戦をした時に比べて格段にスピードが速くなっている。
フェリは、そのスピードをフルに生かして短剣を私に振り抜いてきた。
「うんうん。良いよ。その調子。前と比べて全然速くなってる。けど、攻撃が直線的。もっと、撹乱しないと」
「分かってますよ!」
私の言葉にフェリは、縮地、空力、俊足の合わせて技で空中すら縦横無尽に動き回り私の周囲を前、右、上、左、後ろ、斜めと目まぐるしく移動する。
そして、私の死角に回り込んだフェリは縮地で一瞬にして私との間合いを0にして首に短剣を振り抜く。
見えない死角からの一瞬の一撃。
確実に当たったとフェリが確信した瞬間。
「惜しいね。攻撃自体は良いけど」
「嘘!?」
アカリは、見えてないにも関わらず当たる直前に身体を反らされ避けられた。
フェリは、再度高速でアカリの周囲を移動しもう一度死角から攻撃を仕掛ける。
見えていない。
今度こそいけると思った。
「残念!」
「うきゃあ!」
しかし、またもやあっさり回避。
しかも、避けて自身が通り過ぎる際に足を引っ掛けられて転ばされてしまった。
顔面から地面へのダイブ。
普通なら、顔から落ちてそれで終りだが高速で移動してた為にそれで終らず地面をゴロゴロと前転で何度も転がる事でようやく止まった。
フェリは、若干ふらつく頭を押さえて立ち上がろうとすると後ろから笑い声を我慢する様な声が聞こえ後ろを振り向く。
「ヒ、フフッ!~~ッ!」
すると、案の定アカリがプルプルと震えながら笑いを我慢している姿が見えた。
「ちょ!アカリ様!」
「ご、ごめん。フハッ!~~ッ!。けど、あんな派手に転ぶとは思わなくて。フフッ!」
「うぅ~~~~ッ!!」
フェリは、恥ずかしさのあまり涙目になるも笑われたままなのが我慢ならず立ち上がり再びアカリに斬りかかるのだった。
「笑うなあ~~!!」
「アハハハハハ!!ごめんって!」
しかし、その後一度もアカリに攻撃を当てる事は出来ずに昼食の時間を迎え、午後の鍛練でも攻撃は当たる事はなくフェリは一矢報いる事は出来ないのであった。
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※アカリの秘密その2
前世では、トラブルに巻き込まれ。
時には自分からトラブルに突っ込んでいた。
そのせいで、アカリの住む近所にある全ての交番の警察官に顔と名前を覚えられた。
その為、交番の警察官に少女関連のトラブルの通報がくると、トラブルの少女=アカリと思われてしまっている。
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