第80話 スキルオーブ
目の前の魅了のスキルオーブ。
間違えで置かれているのもそうだが、スキルの効果的にここに置いていて良い物ではないと思う。
どう考えても、直ぐそこにある危険な魔道具や武具、スキルオーブ等を保管する隔離部屋に置いとくべき代物だ。
マジで何故に。
あ、そういや、騎士が何か言ってたな。
見逃した事を悔しがってたせいで若干聞き流し気味だったが、何となくは話の内容は覚えている。
騎士の同僚が危険な代物をこの国庫で突然の轟音にビビって落としたって話だったはずだ。
この話が嘘でない場合、ある可能性が浮上する。
もしかしなくても、その危険な代物ってこれじゃね?
話に出ていた代物が目の前の『魅了の宝珠』である可能性だ。
だけど轟音って何が。
あ、私が床を破壊したあれが原因とか?
時間的には、同じ位だけど。
突然の轟音。
同じ正午過ぎの時間帯。
確か、幾つか物を落としたとも言っていた。
多分だが、落としたさいに他の落とした物と間違えたのではないだろうか。
その落とした物の一つが、火属性魔法のスキルオーブだったのなら置き間違えの可能性も高い。
毒のスキルオーブの色が紫だった様にスキルオーブは、スキル毎に宝珠の色が異なる。
そして、火属性魔法のスキルオーブはイメージ的に多分だが赤色だと思う。
目の前の魅了のスキルオーブもピンク色にも見えるが、普通に赤色にも見える。
普通にあってはいけない事だが、置き間違えてもおかしくはない。
「ハァ~~マジで、何やってんだか」
私は、頭の中で出た結論に呆れてため息が出た。
私自身色々とやらかしてきた人生を歩んでいるので人の事をとやかく言えるたちではない。
だが、こんな使い方次第で国を滅ぼす事が出来そうな代物をトラブルがあったとはいえ、間違って保管する事に呆れて仕方ない。
「さてと、こんな代物このまま放置してはおけないし」
私は、目の前の『魅了の宝珠』を手に取ると騎士の元に持っていく。
「貰っておきますか」
なんて事する訳なく収納の中に放り込んだ。
ヘヘヘ、やったね。
良い物が手に入ったよ。
ん?
国王達に危険な物は駄目だと言われてたのに良いのかって?
ハハハ、良いんだよ。
隔離部屋に保管されてる物ではないんだから。
どこぞの邪神な宇宙人も「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」って言ってたし大丈夫でしょ。
さてさて、これで棚を全て見終わったけど、もう他には無いのかな?
私は、何かないかと棚の周りを見渡す。
すると、横から再び小走りで近付いてくるフェリが見えたのでそちらを向く。
フェリが持っているのは、革の胸当てだろうか?
そんな感じの物を持って来たフェリは、私の前まで来ると両手でそれを広げる様に見せてきた。
「アカリ様、これはどうでしょう。革の胸当てなんですけど。結構丈夫そうで軽いですよ」
「他は?」
思った通りの革の胸当てだった。
確かに、これなら軽いし動きやすいだろう。
しかし、他には選択肢がなかったのか気になりフェリに聞いた。
「他は金属鎧とかしかなくて」
「あぁ、なるほど」
それなら仕方ない。
偏見でしかないが、金属鎧は防御力以外は重い、動き辛いだけでメリットが少ないと思っている。
なので、無いのなら無いで別に良い。
「ん~~~~オーガロードの皮を使った胸当てか。それなりに斬撃、打撃に強そうだし案外良いかもね」
遭遇した事はないが、それなりに強い魔物なのだろう。
素材が良いのか技術によるモノなのか知らないが、鑑定した感じ魔法はともかく物理面ではそれなりに防いでくれそうだ。
「そうですか。それじゃあ、防具はとりあえずこれにしておきますね。所で、何か探してましたか?」
「あぁ、実は他にスキルオーブが無いのかなって思ってね」
隠す事でもないので、正直にフェリにスキルオーブを探していた事を話す。
「他にですか?ん~~~~あ」
すると、フェリは周りをぐるっと見渡すと何かに気付いたのか、棚とは別の方へと歩きだした。
「フェリ?」
フェリが止まったのは、棚から少し離れた場所。
そこには、小さな木箱が床に数十と積み重ねられていた。
しかも、良く見れば木箱にはスキルの名前らしき文字が記されている。
「もしかして」
「多分、スキルオーブじゃないですかね」
確認の為に、手前の木箱を一つ開けてみる。
すると、思った通り中にはスキルオーブが仕舞われていた。
「おぉ、こんな所に。見逃してたよ」
私は、早速木箱の名前を見て良さそうな物を探していく。
「んん~~~」
しかし、どれも棚にあった物と同じ様な物ばかりで特に見付からず、スキルオーブを探すのは今日の所はこれで終わりにした。
「もう良いんですか?」
「うん。後は、私も良さそうな武器を探して終わりかな」
とは言っても武器を探すのにも時間は掛かる。
フェリと共に私に合いそうな武器を探す事数十分弱。
一応納得する物は見付けはした。
────
名前:ロングソード
希少度:アンコモン
詳細:ミスリル鉱石により造られた剣。
非常に頑丈であり又、魔力との親和性も高く通常の鉄鉱石よりも魔力に対する耐性が高い。
────
名前:破砕剣
希少度:レア
詳細:ダンジョン『黄昏の城』で生み出された大剣。
非常に頑丈性に優れており又、魔力を込める事で自己修復機能が発動し刃溢れや金属疲労による破損等を修復する。
────
私が選んだのは、この2つ。
一つは、ロングソード。
ただ、素材がミスリル鉱石らしく通常のロングソードよりも高品質な剣だ。
本音を言えば、もう少し希少な剣が良いのだが他の剣は少し特殊な形状をしていたり極端な性能で使い辛そうで止めておいた。
そして、もう一つが大剣の破砕剣。
真っ黒な見た目の大剣だ。
詳細通り頑丈で尚且つ自己修復機能あり。
ミスリルの剣もそうだが、私はかなり武器を壊しているので頑丈であるのはとても有難い。
「まぁ、こんなもんかな?」
「防具は良いんですか?」
「ん?とりあえず、フェリと同じ革の胸当てにしといたよ。それに、コレ」
私は、そう言って革の胸当てを見せると続けて左耳に着けている耳飾りを見せた。
「実はコレって防御力をあげる効果のある魔道具なんだよね。これを着けて魔力さえ込めておけば、岩壁を破壊する威力で吹き飛ばされても軽症。だから、最悪無くても問題は無いんだよね」
「ずっと気になってましたけど、そんな効果があったんですか。てっきり、お洒落でしてるのかと思ってましたよ。と言うか、岩壁を破壊って。まるで、受けた事があるみたいに言ってますけど」
「うん。凄い痛かったよ」
そう答えると、フェリから何とも言えない表情で見られてしまった。
「解せぬ」
「解せぬ?」
「気にしなくても良いよ。うん。やる事も終わったし出よっか」
「あ、はい」
スキルオーブもお互いの武具も探し終えた。
これで、当初の目的も終えたので入り口横に控えている騎士に終わった事を告げる。
「終わりました~~」
「了解で…凄い量ですね」
木箱に入っている武具やスキルオーブの数に気付いて引きつった表情をされる。
「まぁ、魔王と殺し合いをするんですからこれ位はね?」
「すみません。そうでしたね。私の認識が足りませんでした」
だが、私の言葉に引きつり顔も直ぐに戻ると自身の認識の低さに対して謝罪してきた。
「気にしなくて良いですよ。寧ろこっちは支援してもらってる側ですから」
まさかの謝罪に軽く面食らったが、別に謝って欲しい訳ではなかったので騎士に顔をあげさせる。
寧ろこっちは、明らかにヤバい物を黙ってこの場から持ち去ろうとしているのだから。
「お気遣い感謝します。それと、すみません。お二方が持ち出された物を教えて頂けますか。後程上にまとめて報告しますので」
「わかりました」
私は、スキルオーブと武具を一つずつ見せながら騎士に教えていく。
騎士もそれを見ながら懐から出した用紙に記していき間違いがない様に確認していた。
そして、収納内に隠している『魅了の宝珠』を除いた全てを教え終える。
「これで全部です」
「ありがとうございます。後は施錠して陛下には、私が報告しておきます。どうぞお二方は、ご用がおありでしたら行ってもらって構いません」
シャアアァァァァ!!
私は内心でガッツポーズをした。
バレないと確信してはいたが、やましい事があるので多少はドキドキがある。
それ故、無事バレずに終わり安心した。
「そうですか。それじゃあ、失礼します」
「失礼します」
入り口から外へ出て騎士に一言別れを告げてフェリと共に廊下を歩いて行く。
「はい。お疲れ様です」
背後から騎士の言葉が聞こえたので、首だけ振り返り一度頭を下げると再び廊下を歩いて行くのだった。
※※※※※
「さてさて、早速やっていこ~~」
「おー?」
部屋に戻った私達は、私の部屋に集まり早速スキルオーブを使っていく事にした。
「てな訳でフェリ。はい、これ」
「あぁ、本当だったんですね」
十数とスキルオーブが入った木箱を渡されフェリは、あの時私が言っていた事が本当だったんだと引きつった顔でそう呟いた。
「そりゃあね。前にも言ったけどフェリにも戦える強さは身に付けて欲しいからね。その為だよ」
「そうですね。頑張ります。それじゃあ、これから」
フェリは、そう言うと木箱から一つのスキルオーブを取り出した。
そして、フェリがスキルオーブを使う為に魔力を込めるとスキルオーブが光輝いた。
次の瞬間、スキルオーブが砕け散り光の粒子に変わり果てた。
「うわ!?」
初めて見る光景の為に驚き、同時に何か失敗でもしたのかと思った。
しかし、直ぐに失敗等ではないと分かった。
何故なら、光の粒子となったスキルオーブがフェリの身体へと吸い込まれる様に消えていったからだ。
「初めて見たけど凄いね」
私から出た感想はこんなものだった。
本当は、幻想的ともいえる光景にもっとちゃんとした言葉を述べたいが口からは「凄い」の一言しか出てこなかった。
「ですね。私も話では聞いた事がありましたけど、こんなに綺麗だとは思いませんでした」
フェリもやはり初めてだった様でそう言って軽く笑うと。
「まだまだあるので、早速次にいきましょう」
別のスキルオーブを手に取って魔力を込めるのだった。
それを見ながら私も自分用のスキルオーブを手に取る。
手に取ったのは、ダンジョンで入手した毒のスキルオーブ。
それを軽く眺めた私は、スキルオーブに魔力を込める。
次の瞬間、スキルオーブが砕け散り紫色の光の粒子が目の前に広がる。
キラキラと輝くその光景は、とても綺麗で幻想的だが残念な事に次には私の胸の辺り目掛けて吸い込まれて消えてしまった。
「これで」
初めて入手したスキルオーブで新たなスキルを手に入れた事に多少ながら感慨深くなる。
だが、あいにく感慨深くなってる時間はそんなにない。
フェリ程ではないが、まだ私用のスキルオーブが残っている。
その一つを手に取って私は魔力を込めるのだった。
それから十数分後
「やっと終わりました~~」
「お疲れ」
私とフェリは、ようやくって程でもないがスキルオーブを全て使い終わった。
「にしても、一気に増えましたねスキル。ちょっと、信じられないです」
「まぁ、だろうね」
私だって、あっさり新スキルを入手出来てそう思っているのだから。
「あ、ステータス見せてもらえますか?」
「良いよ。ほっと」
私は、フェリにも見える様に操作してステータスを表示した。
────
名前:フェリエ
種族:人間
状態:通常
LV:28
HP:157/157
MP:98/98
筋力:169
耐久:79
敏捷:176
魔法:82
─スキル─
【料理Lv5】【短剣術Lv3】【執筆Lv4】【暗記Lv4】
【体術Lv1】【索敵Lv1】【俊足Lv1】【空力Lv1】
【魔力感知Lv1】【縮地Lv1】【強腕Lv1】【探知Lv1】
【毒耐性Lv1】【気配感知Lv1】【気配遮断Lv1】
【物理耐性Lv1】【回復魔法Lv1】【魔力制御Lv1】
【MP回復促進Lv1】【HP回復促進Lv1】【堅牢Lv1】
─称号─
なし
────
「マジですかぁ~~。あ、改編されてる。ん?え?回復魔法私に使ったんですか!?」
気付かなかったのか、フェリが驚愕の表情で私を見てくる。
しかし、私的には回復魔法はフェリが持ってた方が良いのでそれを説明する。
「うん。だって、私には再生があるからね。フェリだって見たでしょ?だからだよ。それと、私が居ない時にフェリが怪我をしたら自分で回復魔法を使える様にと思ってね」
個人的には、私とフェリとで二つ欲しかった。
だが、貴重故か一つしか置いてなかったのでフェリに使ってもらう事にしたのだ。
「それでですか。ちなみに、アカリ様のステータスはどんな感じですか?」
「私?私はこんな感じ」
私は、フェリに見える様にしてステータスを表示した。
────
名前:アカリ
種族:人間
状態:通常
LV:137
HP:785/785
MP:820/820
筋力:816
耐久:635
敏捷:833
魔法:772
─スキル─
【索敵Lv9】【物理耐性Lv2】【魔力制御Lv5】
【火属性魔法Lv6】【水属性魔法Lv6】
【風属性魔法Lv7】【土属性魔法Lv6】
【体術Lv8】【剣術Lv5】【強腕Lv4】
【状態異常耐性Lv8】【痛覚耐性Lv7】【収納】
【威圧】【毒生成Lv1】【MP回復促進Lv1】
【魔力感知Lv1】【気配感知Lv1】【空力Lv1】
【気配遮断Lv1】【並列思考Lv1】【探知Lv1】
─称号─
【Bランク冒険者】【白銀の戦姫】
────
「アカリ様のステータス大分変わってますね」
「うん。吸血鬼固有のスキルと見せれないスキル、称号を隠したり書き込んだり、今回入手した分が合わさったからね。てか、威圧取得しとるやんけ」
種族、レベル表記を人間Ver.に。
種族固有や今回の魅了等の厄介なスキル、称号を隠したりすればこの通り。
それっぽいステータスの完成だ。
レベルが137なのは、これまでのレベルを全て足すと87だった。
なので、87で良いかなぁと思ったが以前見たジョニーが121で今の私よりもステータスの数値が低かったはずなので、レベルに+50程ガッツリ盛った。
ちょっと盛り過ぎな気もするが、ステータスの数値的にはこれ位でも問題はないと思うのでまぁ大丈夫だろう。
「確かに。これなら私もアカリ様も鑑定される事になっても違和感はそんなに持たれないかも?」
「出来れば、?を付けずに言って欲しいよ。まぁ、スキルが異常な数に目を瞑ればそうかな?」
少し取り過ぎた気もする。
しかし、きちんと考えがあってのスキルだし入手もしたので後悔しても後の祭りだ。
やったからには、後はやりきるしかない。
「アカリ様失礼します。入ってもよろしいでしょうか?」
「ん?どうぞ」
女性の声が聞こえて許可を求められたので、入室を許可するとメイドさんが入ってきた。
「失礼します。フェリエ様も丁度良かったです。お食事のお時間ですがどうなされますか?」
何かと思えば、食事の確認だった。
意識したらお腹も結構空いている。
断る理由もないので、お願いする事にした。
「それじゃあ、お願いして良いですか?」
「はい。それでは、案内しますのでついてきて下さい」
時間が過ぎ暗くなった夜空を眺めながらメイドさんについていった先は、大きな食堂?的な場所。
メイドさんいわく、ここは執事やメイド、騎士等が食事を取る場所なのだそう。
そして、今は時間が遅いから居ないが天之達もここで食事を取っているのだそうだ。
「あちらのカウンターで頼めば受けとれます。メニューは、カウンター横に書いてありますのでご自由にお選び下さい。私は、まだ仕事がございますので失礼します」
「はい。ありがとうございました」
「案内ありがとうございました」
メイドさんと別れた後は、説明通りカウンターでメニューを選んで料理を受け取った。
私は、ブラックバッファローのステーキ。
フェリは、コッコーの肉卵丼だ。
前世風に言うと牛肉ステーキと鶏の親子丼だろうか。
それを食べた。
味だが、目茶苦茶美味しかった。
フェリ等、頬を緩ませて可愛い笑顔で美味しそうに食べていた。
目の前でそんなフェリの姿が見れて私的に非常に役得だった。
ただ、その際に周りの男共がフェリを見て若干鼻の下を伸ばしてるのに気付いてイラっとしたので取得したての威圧をかます小事があったが。
まぁ、そんな些細な事はどうでも良くて現在私達だが、食事を終えて休憩してると再び私達の前に現れたメイドさんの案内の元お風呂に案内されて入浴。
お風呂からあがって今は部屋に戻っている所だ。
「お風呂大きかったですね~」
「だねぇ~。気持ち良かったよ~」
私もフェリもお風呂で気分もすっかり緩っ緩に溶けており言動もどこか緩くなっていた。
「後は~ふかふかのベッドで眠るだけですね~」
「ハハハ~明日から鍛えていく予定だから早く眠りなよ~」
「了解です~それじゃあ、アカリ様。お休みなさ~い」
「うん。お休み~」
フェリが部屋に入るのを見送った私も自分の部屋に入っていった。
「さてと」
そして、数分程して部屋から出るととある場所を目指して廊下を歩いて行った。
※※※※※
王城の一室。
そこで、とある男が部下の男と話していた。
「そうか。糞!平民が。しかも、女如きが好き放題しおって!」
男の正体。
それは、アカリに謁見の際に威圧され気絶した男、侯爵であるゲリオスだった。
ゲリオスは謁見後、目を覚ますと直ぐ様子飼いの従者に命令。
アカリ達を監視する様に命じていたのだ。
「陛下も陛下だ!我々高貴な血筋を受け継ぐ貴族が何故下賎な平民風情に願う必要があるのだ!平民等我ら貴族の道具に過ぎんと言うのに。それを、我々貴族に手を出すだけでなく、私をあんな惨めな目にあわせた女に罰も与えず城内に野放しだと!そんな事があって良いものか!!」
「落ち着いて下さい」
「これが落ち着いてられるか!!私を辱しめた女がいまだに生きている上に同じ空気を吸ってるのも許せんのだ!!」
ゲリオスは、従者の言葉に苛立ち怒声を放つ。
しかし、従者はそれに顔色一つ変える事なく静かに主人が落ち着くのを待った。
「フゥー!フゥー!フゥー!!」
「良い情報があります」
「何だ。言ってみろ」
そして従者は、主人に一つの情報を伝えた。
「そのアカリと言う名の女の連れにもう一人フェリエという名前の女が居たのを覚えていますか」
「あぁ、居たな。それがどうした」
従者は、主人の問いにさらに話を続けた。
「そのアカリは、先程食堂でフェリエとやらに邪な目を向けた者達を威圧していました。この事から、余程フェリエとやらが大切な事が分かります。なので、ここを利用するんです」
「利用だと?」
「はい。この二人は部屋が別でした。なので、夜間の寝静まった所を襲いフェリエを拐うんです。拐った後は、適当に殺すなり奴隷にでもすれば良い。人質にしていると思わせておけば良いのでアカリも思いのままです。適当に勇者に協力するのを止めさせれば、後は犯すも、痛めつけるも、殺す事も自由です」
従者の提案。
それは、他人の命の事を玩具程度にしか思っていない下衆な考え。
普通の感性を持っていれば、誰だろうとやろうとしない。
しかし、このゲリオスは違った。
「良いじゃないか。あの女にピッタリの末路だ。ハハハハハハ!!それで、いつ行動出来る?」
「いつでも。何なら、今すぐにでも」
「そうか。では、今すぐ行ってこい」
ゲリオスは、目の前の従者に対してフェリエを誘拐する様に命令した。
そして、それを受けた従者も主人の命令を遂行するべく行動を開始…………
「了解しま…」
出来なかった。
何故か?
「させる訳がないだろ。ゴミ共が」
それは、突如としてゲリオスの泊まっている部屋へ現れた白銀の長髪、鮮血の如き赤い瞳の美しい少女。
ゲリオス達が今まさに話していたアカリによって意識を刈り取られたからだ。
「な、何故だ!?いつの間に侵入しガハッ!!」
「うるせえ喚くな害虫が」
突然の事に驚愕し騒ぎ出すゲリオスの腹を蹴り飛ばして強引に黙らす。
そして、壁に叩きつけられ不様に床に倒れ込んだゲリオスの髪の毛を鷲掴むと無理矢理上体を起こさせた。
「ぐ、あ"ぁ"、き、貴様!侯爵であゴバァ"ッ!?」
「喚くなって言っただろ。死にたいの?」
言葉を話そうとするも、瞬間身体を無理矢理投げ飛ばされ再び壁に叩きつけられる。
そして、自身に向けて放たれた言葉とアカリの人とは思えない無機質な表情に本当に殺されると理解しゲリオスは死の恐怖に襲われ不様にも命乞いを始めた。
「あ、あぁあ。ゆ、許して。許してくれ。私が悪かった。金なら幾らでも払う。地位も名誉も欲しけれぐえ"ぇ"!!」
「脳が足りないの?喋るなって。耳障りなんだよ。潰すか」
頭から踏みつけられ黙らせられる。
そして、アカリの呟きと同時に徐々に増していく足の力。
ミシミシと頭から決して聞こえてはならない頭蓋骨の軋む音。
音と比例してどんどん大きくなる死への恐怖にゲリオスの精神は限界に近付いていた。
「痛い"痛い"嫌だ。やめ!やめてくれ!!あ、あぁ"あ"あ!!アァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"!!!!」
「なんてね」
「へえ"あ"?」
瞬間消えた足の重み。
助かった。
まだ、生きられる。
そう命が救われた事に安堵したのも束の間。
「殺したら利用出来ないからね」
「え?…あ」
アカリの言葉に顔を上げた。
すると、アカリと目線が合った途端意識が朦朧となったかと思うと目の前のアカリへと自身の全てを。
命でさえ捧げたくなる程の感情の昂りに襲われた。
「お座り」
「ハッ!」
命令されそれを実行する為に全身の痛みすら無視して身体を動かし床に座り込む。
「良く出来ました」
「ありがとうございます!」
無機質な表情に変わりはないが、薄く裂ける様な微笑みを見てアカリを喜ばせる事が出来た事に歓喜し次の命令を待つ。
「魅了成功っと。フフフ、情報源兼手駒ゲット。ステの状態を弄って。良し。そんじゃあ、また来るから。私の事は黙ってる事。いつも通りに過ごす事。いいね?」
「はい!分かりました!」
そうして、ゲリオスに命じるとアカリは部屋から出ていくのだった。
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