第68話 ダンジョン探索(9)
突然だが、少女と熊が出てくるあの童謡を知ってるだろうか。
殆んどの人が知ってるだろうが、少女と熊が森の中で出会い最終的に仲良くなって一緒に歌うといった内容の楽しいリズムで作られた歌である。
だけど、私的にこの歌を見聞きして毎回思うのだが、ある日森の中で熊に出会った。
その後の自身の行動一つで生き死にが確定すると言っても過言ではない状況とか、現実で起きたらどう考えても絶望でしかなくない?
私が前世良く話していたクラスメイトの男子の一人なら、抜き手で胴体貫いてからの頭部クラッシュで楽に切り抜けられるかもしれないけどコイツは普通では無いので例外的な存在。
前世の私や一般人なら、いきなり野生の熊とご対面何て起きたものなら冷静さを無くしてパニックになりそのまま襲われ人生終了だろう。
ん?
何で、いきなりこんな事を話し始めたのかって?
あぁ~~うん。
ちょっと、現実逃避をしたくてねぇ。
そうだね、そろそろ現実と向き合うとしようか。
とりあえず、現在私が直面している状況を歌で表すとこうなる。
ある日
ダンジョンの中
魔王に
出会った
「おや?驚いた。あの時の少女じゃないか。久しぶりだね」
「」
うん、マジで誰か助けて。
※※※※※
螺旋道を下りた先。
そこで私の目に入ったのは、ここに居る筈の無い存在。
出来れば決して会いたくなかったあの男。
カラクでの防衛戦で私の腹に風穴を開けてくれやがったあの野郎。
そう、あの糞魔王が居たのだ。
「ん?聞こえてないのかな?」
私は、酷く焦っていた。
何せこの場に居る筈の無い魔王が居たのだ。
あの日は、奇跡的に胴体に風穴が開けられる程度すんだが、今度も同じ程度ですむとは限らない。
相手は魔王。
具体的な強さはわからないが、風穴を開けられた際の出来事から何となく桁違いの実力なのは理解している。
強くなったとはいえ、今の私では到底勝ち目等無いだろう。
その気になれば私など塵も残さず消し去れるに違いない。
そんなの死んでも御免だ。
その為に、どうにかこの場から逃げれないかと頭をフル回転させ考えるが、ダンジョンという閉ざされた空間に魔王と私の二人だけ。
しかも、歩いて十歩も無い様な距離。
いくら考えても絶対に逃げられないと結論に至る。
うん、流石に死んだかなこれ?
逃げれる、生き残れる可能性を1ミリも感じないんだけど。
マジでどうしよう。
私は、何か思い付く為の時間稼ぎをしようと会話を試みる事にする。
幸いにも、魔王の方から話を振ってくれている。
会話をしようって事は少なくとも今すぐ私に危害を加えるつもりは無い筈だ。
「何でここに居る訳?」
当たり障りの無い。
それでいて、最も今知りたい事を私は魔王に聞いた。
正直何でこんなダンジョンの深層に魔王が居るのか本気で意味が分からないので知りたい。
「ここに居る理由かい?この中に用があってね」
「用?」
「あぁ、そうさ。所で、ここに居るって事はここまで階層を踏破したって事かな?」
返ってきた答えは、第三十層に用があるというよくわからない答え。
その用が何なのか気になる。
しかし、変に深堀りするのは気に障る可能性がある。
とりあえずは、会話を続ける事に集中する。
「え?あぁ、そうだけど」
「それは丁度良かった。悪いが攻略の証を貸してくれないかい。うっかり仲間に貸したままなのを忘れていてね。わざわざ取りに戻るのも魔力が勿体無いからね。何、きちんと返すさ」
「嫌と言ったら?」
「殺して奪う」
「ッ!?」
「と言いたいが、ザクト君が自分が君を殺すと言ってるからね。諦めて取りに戻るよ」
「そう」
どうやら、コイツが私を殺してくる心配は今は一応無いとみて良さそうだ。
マジで本気で良かった。
自分を殺す気でいる奴に感謝等したくないが、結果的に糞ザクトのおかげで助かったので一応感謝しておくとしよう。
糞野郎おかげで助かったよ。
お礼は、次回会った時に確実に殺してやるから待ってろよ。
「それじゃあ「ちょっと」ん?なんだい?」
「ほら、これ」
私は、戻ろうとする魔王に攻略の証Ver.2を渡した。
渡した理由。
それは、魔王は多分転移が可能だ。
だとすれば、貸そうが貸さなかろうが正直殆んど関係ない。
なら、今貸して何が目的なのかついて行き見た方が今後の行動に何かしら役に立つかもしれない。
そういった理由の上での貸出だ。
「おや?貸してくれるのかい。感謝しよう。少し借りるよ」
私から攻略の証Ver.2を受け取った魔王は、それをそのまま台座に嵌め込んだ。
すると、第二十層同様に閉じてた壁が蠢き入り口が出来上がる。
「私は中に行くが君は?」
「ついて行くに決まってるでしょ?借りパクされるのは嫌いだからね」
「そうかい。それじゃあ、ついて来ると良い」
そうして、魔王と共に第三十層の中へと入って行くのだった。
※※※※※
第三十層は、今までと少し中の見た目が異なっていた。
まず、広さだが第二十層より少し小さい位の広さをしていた。
そして、最後を飾る場所だからなのかはわからないがゴツゴツとした岩壁や床が変わっており綺麗な磨かれた岩壁、床石を敷き詰めた地面へとなっており更に、階層の両端に太い岩柱が均等な間隔で五本建てられていた。
見た目としては、最後を飾るのに相応しいと言えよう。
ただ、私はそんな階層の造りに目を向ける事が出来なかった。
それは何故か。
「「「「「ギュオアアァァァ!!」」」」」
それは、現在私達の目の前に居るこの魔物。
全身を紫色をした鱗で覆われている全長およそ十五~二十mはありそうな巨体。
特徴的な長い首を持ちその顔は恐ろしい程に獰猛な顔。
しかも、その首は一本だけでなく五本も生えておりその恐ろしい顔が五つ私達を睨み咆哮をあげながら威嚇してきていた。
私は、この魔物に物凄く見覚えと身に覚えがあった。
紫色の鱗に多頭の蜥蜴、蛇に似ているが根本的に異なる獰猛な顔という目立つ特徴。
ここまでわかれば鑑定せずとも正体がわかる。
目の前の魔物は、毒竜の名で知られる亜竜ヒドラであった。
「やっぱり、ボスモンはヒドラかぁ~」
私は、ヒドラ毒や下層に行くごとに毒持ちの魔物が多くなっていた事からボスモンがヒドラではないかと何となく予想していた。
なので、直ぐに納得は出来たが出来れば違って欲しかった事もあり項垂れる。
しかし、項垂れていてもボスモンが変わる事はないので諦めてヒドラに向き合おうとすると。
「君はそこで見ていたまえ。コイツは私が相手する」
「は?」
何故か、魔王がそんな事を言ってヒドラに向かい歩き出し…………
「「「「「ギュアアァァァ!!」」」」」
そして戦闘が始まった。
開幕早々ヒドラの五つの口から魔王に向けて紫色をした猛毒液が物凄い勢いで放たれる。
それは、まるで前世でテレビで見た事のあるウォータージェットの様。
「猛毒ブレスとかやっば。壁壊れてるじゃんか。当たればバラバラになるくね?あれ、魔王は?……あ」
柱の後ろに隠れながらその光景を見て驚く。
猛毒ブレスは、その直線上の地面、壁の岩を大きく抉りながら周囲に破壊を撒き散らす。
しかし、狙われていた魔王はそれをあっさり回避。
私も、恐らく魔王を狙っていたヒドラ自身も気付かぬ内にヒドラの斜め後ろに移動していた。
それに気付いたヒドラは、首を後ろに向けて再び猛毒ブレスを放とうとする。
が、出来なかった。
「」
「「「「「…………」」」」」
何をしたのかわからない。
しかし、魔王が何かをしたのだろう。
魔王から漏れでた闇の波動をヒドラが受けた途端ヒドラが大人しくなり暴れるのを止めたのだ。
「これで良し」
魔王は、そう言うと闇を造り出す。
闇はヒドラの足元まで広がるとそのままヒドラの全身をのみ込んでいった。
そして、魔王が闇を消し去るとあの巨大なヒドラはその場から消え去っていた。
「君、出てきて良いよ」
魔王の声に私は、柱から出て魔王の元まで歩いて行く。
「今の何?」
「動きを止めて闇に閉じ込めただけだよ。それよりほら、返すよ」
「どうも」
魔王から返ってきたのは、完全な形になった球体状の攻略の証。
それと…………
「何これ?」
「あぁ、これかい。わからない。いらないからあげるよ」
「はあ?」
よくわからない腕輪だった。
多分攻略した事による何かしらのアイテムなのだろう。
しかし、渡されても攻略の証もアイテムも魔王がボスモンを倒した?事による物。
私はただ見ていただけなので渡されても複雑な気持ちだ。
だが、終わった事はしょうがないのであまり気にしない事にする。
そう思い収納に仕舞っていると魔王が、小さな闇を造り出してそこから椅子やテーブルを出しているのに気付いた。
「何してんの?」
「前に言っただろ?次会ったらゆっくり話そうと。ほら、座りたまえ」
私は、それを聞いて嘘だろと心底思った。
だが、魔王は既に座っており私が座るのをニコニコと胡散臭い笑顔で待っている。
ここで断って何か起きても嫌なので、私は諦めて向かいの椅子に座る事にした。
「さて話そうか。君は何か聞きたい事はあるかい?」
「聞きたい事」
いきなり言われても思い付く訳ない。
なので、定番どころだがこれを聞く事にした。
「何で人間や街を襲ってるの?」
「聞きたいのかい?」
「まぁ、そりゃあね。一度巻き込まれたから」
「そうか。それじゃあ、少し話をしてあげよう」
そう言って魔王は、よくわからない話を始めた。
※※※※※
今から、ずっと昔。
とある所に世界を滅ぼす事が出来る程の力を持った一人の少女が居た。
少女は、日々ある事を思っていた。
「何故私達は、こんな狭い限られた場所だけで過ごさなければならない」と。
そう思っていた少女は、ある日行動を起こす事にした。
もっと、自分達が自由に生きられる場所を手に入れようと。
幸い少女には、圧倒的な力、優秀な仲間や手下が数多く居た為にどうにかなると思った。
しかし、仲間や手下は少し心配があり止めようとした。
何故か。
それは、当時少女と対等に戦える者達が居たからだ。
だが、少女は「問題ないよ。遊戯だって多少難しい方が楽しいでしょ?」と言い構わず行動を開始した。
少女は仲間と手下を引き連れ戦った。
そして、本当に少女は今までの狭く限られた場所とは違う広く自由に暮らせる場所を手に入れてみせた。
少女や仲間、手下達は今まで無理だと思っていた生活が実現した事にとても喜んだ。
しかし、その生活も直ぐに終わった。
襲撃されたからだ。
少女と対等に戦えた者達に。
少女と仲間、手下達は諦める事なく戦った。
だが、奮戦虚しく少女達は敗北し少女は死んでしまった。
そして、生き残った仲間や手下達は再び狭く限られた場所で暮らしていくのだった。
※※※※※
「とまぁ、昔こんな事があったらしいね」
「実体験?」
「さあね。他に聞きたい事は?」
答えてくれない。
だが、十中八九実体験なのだと私は思った。
そして、この話が何かしら魔王の目的と関わるのだろうと。
それを考えたいがそれは後。
今は他に知りたい事を聞く事にする。
「結局この階層での目的って何だったの?」
「そうだね」
それを聞いた魔王は、椅子から立ち上がり階層の奥へと歩き出した。
「ちょっ」
私は、慌ててそれについて行く。
魔王は、階層の奥まで歩いて行くとある物の前で立ち止まった。
「これが何かわかるかい?」
「これって、もしかして」
魔王が示した物。
それは、岩で造られた台座の上に鎮座するとても綺麗な透明の球体。
「ダンジョンコアさ」
「これが」
そう、目の前の球体はこのダンジョンの核。
ダンジョンコアだった。
しかし、ダンジョンコアを見せるとしていったい何が目的に繋がるというのだろうか。
そう思っていると、魔王は話を始めた。
「ダンジョンというのはある種巨大な生き物とも言える。星に流れる巨大な地脈の魔力が何かしらの原因で一ヶ所に溜まると産まれそして産まれたダンジョンは、地脈の魔力を糧に生きていく。ダンジョン内部の魔物は自身に侵入してくる者達の撃退の為に吸収した地脈の魔力で創られるんだ。たまに落ちたりしてる魔道具やダンジョンのスタンピードは、コアに溜まりすぎた余剰魔力を吐き出す為だろうね」
「何を言ってんの?」
私は、言ってる事の意味がわからなかった。
いや、内容はわかる。
しかし、何でこのタイミングでそんな事を話し出すのかわからなかったのだ。
だが、直ぐにわかる事になった。
「これが何かわかるかい?」
「赤い玉?血液?」
魔王が、再び闇を造り取り出したのはサッカーボール程の大きさの赤い玉。
それを血液と答えると魔王は頷いた。
「そう血液だ。もう具体的な数はわからないが、数億人分位はあるんじゃないのかな」
「は?」
とんでもない桁が出てきて私は、呆けてしまう。
「実は私は、血液を魔力に変換する事が出来るんだ。さて、この血液を一部でも変換した魔力をこのコアに注いだらどうなると思う?」
「どうって…………ッ!?」
私は、まさかと思い魔王の顔を見る。
すると魔王は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべながら私の顔を見て言った。
「気付いたかい。そう、ダンジョンは余剰魔力が溜まれば魔道具や魔物を生み出す。コアに魔力を過剰に注いだらそれが強制的に起きるんだよ。こんな風にね!!」
「止めっがぁ"!」
咄嗟に止め様と魔王を殴り飛ばそうとしたが、あっさり受け止められ逆に蹴られ向かい百メートル位先の岩壁まで蹴り飛ばされた。
「ゴホッガハッ!!」
酷い痛みだ。
念の為とイヤリングに魔力を込めていたし身体強化もしていた。
だと言うのに、蹴りを受けた腹部は捻れ切れる様な酷い痛みが走り内臓を損傷したのか口から大量の血反吐が出てくる。
「ハァハァハァっ!?クソッ!」
何とか身を起こして魔王を見る。
そして、最悪な光景が見えた。
魔王がコアに手を置き魔力を注いでいる。
そのコアは、あんなに透明で綺麗だったというのに今ではドス黒く染まり球体から黒い閃光が放たれていた。
どう見てもこれは魔力が過剰に注がれている。
「フハハハハハ!!!これで直にスタンピードが発生する。間も無くダンジョンは魔物で溢れ返るだろう。私は、一足先にダンジョンから出させてもらうとするよ。君もここから出られる様精々頑張りたまえ」
魔王は、そう言うと闇を造り出しその中へと消えていった。
「ハァハァ、ここから出ないと。は?」
何とか痛みが引いてきたので、震えながらも立ち上がり入り口があった場所を目指そうとする。
そして、見えた光景に驚愕する。
本来なら閉ざされている筈の岩壁が開いていたからだ。
「何で?これも過剰に魔力が注がれた影響なの?」
私は不思議に思ったが、今は気にしてる時間は無い。
なので、気にせず入り口を通り抜けようとしたその時………
「え、…………は?」
突然、地面が光だしたのだ。
それを見た瞬間、私は嫌な予感、いや、確信がして後ろを振り向いた。
そして、血の気が引いていった。
何故って。
そりゃあ、振り向いた先で光の粒子が集まり何かを形成していたからだ。
つまり、魔物が創られているって事。
そして、この階層の魔物と言えば一体のみ。
先程、糞魔王の操る闇に閉じ込められたヒドラだけだ。
「いや、ちょっ…………は!?嘘でしょ!?ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!」
私は、それに気付いた瞬間慌てて駆け出した。
何故か。
それは、光の粒子が形成していたのが一つではなかったからだ。
つまりは、複数のヒドラが今産まれ様としているって事だ。
まだ一体なら最悪相手に出来る。
だが、複数相手等到底無理だ。
私は、第三十層から抜け出し螺旋道まで走ると足を止めた。
「ヒドラの身体じゃここは無理でしょ。フゥ~~焦ったぁ」
螺旋道自体は幅も高さも非常に大きい。
だが、入り口が小さい為ヒドラの巨体では到底通過等出来ない。
その為、ここまで来れば安心だと思っていた。
『ズガアアァァァァンッ!!!!』
この轟音を聞くまでは。
「は?」
嘘であってくれと願いながら振り返る。
振り向いた先。
そこには、通過出来ないと思っていた岩壁を粉々に破壊し迫って来る…………
「「「「「ギュオアアァァァ!!」」」」」
「「「「「ギョオアアァァァ!!」」」」」
「「「「「ギュアアァァァァァ!!」」」」」
「「「「「ギィオアアァァァァァ!!」」」」」
四体ものヒドラの姿が見えた。
「ハ、ハハハ…………駄目かも」
その地獄の様な光景にアカリは、心が折れそうになるのだった。
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