第65話 クラスメイト side(6)

 アカリが、アルタナのダンジョンの探索に励んでいるのと同時期。

 早朝、ダンジョン遠征組の天之達が遠征を終えてアストレア王国王都へと帰ってきた。


「お前ら、お疲れさん。この1ヶ月ちょっとで、お前らは確実に強くなった。魔物と実際に戦闘した事で自信も度胸もついただろ。その気持ちを胸に今後も鍛練に励んでいけ。話しは以上。数日は休みの予定だ。各々しっかり身体を休める様に」

「「「「「はい!」」」」」

「解散!」


 ビクターさんの解散の言葉を最後に俺達一同は、その場を離れていき皆寮を目指して歩いて行く。


 皆少しフラフラしてるな。

 まぁ、仕方ないか。


 クラスメイトが歩いて行くのを後ろから見ていた天之はその様に思った。

 実際、皆遠征で疲れており少しでも早く寮の浴場で暖まった後、布団にダイブして眠りに就きたいと思っていた。

 それは、後ろからクラスメイト達を見ていた天之も同じ事で長期の遠征で身体に溜まった疲労を直ぐにでも癒したいと思っている。


 とりあえず、俺も風呂程入ってしまうか。


 だが、その前に個人的に向かいたい場所が一つあった。

 しかし、馬車移動で風呂に入れていなかったので先に浴場にいって風呂に入ってから向かう事にした天之は、皆と同様寮へと歩いて行くのだった。


 ※※※※※


 寮の浴場で入浴を済ませた天之は、1人王城内のとある場所を目指して歩いていた。


「確か、この辺りだったよな?」


 異世界転移何てフィクションとしか思えない出来事に巻き込まれて既に2ヶ月以上は経過した。

 それだけの期間があればそれなりに王城内を見て回ったりもしたが、まぁ、やはり王城内は広く今でも何処が何処なのかわからなかったりするのだ。

 だが、幸い今天之が目指している場所は何度か訪れた事があった為に何とかたどり着く事が出来た。

 開けっ放しになっているドアをそのままくぐり部屋へと入っていく。


「良かった。無事に着けたな。宮本さん、お邪魔するよ」

「おや?勇者君じゃないか。久しぶりだね。お帰り。今日帰って来たのだね」


 天之が訪れた場所。

 それは、宮本瀬莉の専用の実験室だった。


「あぁ、ちょっと前にね。皆疲れて今は寮で休んでるよ。それと、勇者言うな」

「それはそうだろう。長期の実戦訓練を終えて馴れない馬車での移動を長時間。疲れない方がおかしいってものさ。勇者君だってそうだろ?」

「そうだね。俺も正直少し疲れてる。それと、勇者言うな」

「疲れてるなら、しっかり休んでから来れば良かったじゃないか。何か急ぎの用でもあったのかい?」


 宮本さんの言う通り休んでから来ても良かった。

 だが、個人的に帰還の報告や様子の確認は早い内にしておきたかったので来させてもらったのだ。


「そうなんだけどね。俺個人として帰って来たのを伝えるのと宮本さん達の生産状況がどんなか気になってね」

「そうかい。なら、入りたまえ。中でゆっくり話すとしよう」


 そう言って宮本さんは、俺を実験室へと招き入れてくれた。

 中に入ると宮本さん以外の生産スキル持ちのクラスメイト達がスキルを使って何かを生産していた。

 しかし、何故か2人しか居らず他の何名か見当たらなかった。

 それを不思議に思っていると2人が俺に気付いて近付いてきた。


「お!天之お帰り!帰って来たんだな」

「天之君お帰り」

「ただいま。ちょっと前に帰ってきたんだ。所で、他の皆は?」


 俺は、気になってたので2人に尋ねてみた。


「あぁ、他の皆なら必要な素材を倉庫に取りに行ったりしてるのと、素材の在庫が減ったからついでに国王に要求しに行ってる」

「そうだったのか」


 確かに、生産素材は多く必要だろう。

 それを倉庫から運搬するのなら人手は多くいるだろうし此処に居ないのも納得だ。

 俺は、それを2人から聞いて納得してるとふと視界に映ったあるものが気になって2人に尋ねた。


「なあ、所であれって大丈夫なのか?」


 俺は、それを指指して聞く。

 2人は、俺の指を辿ってそれを見た瞬間。


「あ!やべえ!沸騰してる!?」

「嘘!?あぁ!このままじゃ駄目になるぅ!!」


 大慌てで、沸騰して謎の赤い煙を吹き出している鍋?に駆け寄り慌ただしく何かの作業をし始めた。


「全く2人は、久しぶりに再会したからと2人揃って目を離すのは駄目だろうに。ほら勇者君、2人はしばらく手が離せない。あちらで話そう」

「あぁ、そうだな。それと、勇者言うな」


 2人でテーブルにつくと宮本さんが話を始めてくれた。


「私達は、帰ってからまず実際色々と生産してみる事にした。まぁ、見聞きしてわかってると思うが幸い必要な素材は国王から貰えるからね。存分に試す事が出来たよ。おかげで私含め皆それなりにスキルのレベルがあがったよ」

「どんな物が生産出来たんだ?」


 自分は、戦闘系のスキルばかりなので生産系のスキルがどういった物なのか詳しくない。

 前に1度だけ宮本さんの薬と言う名の激マズスライムを飲まされたがそれ以外の生産した物を見てないので純粋に気になった。


「そうだねぇ。幾つか例を挙げると前に飲ませた身体能力を向上させる薬の改良版。通常よりも効果が高い回復薬、魔力回復薬。身体能力を微量だが向上させる腕輪かな」

「凄いじゃないか!」


 俺が使う魔剣や他の皆が使う身体能力を向上させたりする魔道具も全て元を辿れば生産された物だ。

 短い期間で微量といえど身体能力を高める魔道具を造れたのならいずれ俺達が使っている物と同等の物が造れる様になるかもしれない。

 そう思っての言葉だったが、宮本さんはそこまで凄いと思っていない様だった。


「そんなに凄くないよ。ただ、錬金術で強固な素材を造り錬成で腕輪に変える。それに、身体能力を高める付与をしただけ。全員のスキルのレベルがまだまだ低いから効果も薄い。MPの燃費も悪いし持って数分程度しか効果を発揮しないさ」


 宮本さんは、そう言って肩を竦める。

 しかし、宮本さん達は造り始めたばかりだからそれでも仕方ない。

 俺としては、先も言った通り何かしら効果のある物を既に造れているだけ凄いと思う。


「始めたばかり何だから、仕方ないさ。これから、効果の高い物を造れる様に頑張れば良いだろ。戦闘も生産も同じ。地道に強く、上手くなるしかないよ」

「そうだね。これから、どんどん凄い物を造っていくさ。楽しみにしていたまえ」

「存分に期待しているよ」

「お、そうだ。ちょっと来たまえ」


 何かを思い出したのか、少しニヤリとした表情を浮かべた宮本さんは、そう言って席を立ち上がる。

 それに素直について行くと宮本さんは、部屋の中の一つの棚の前で立ち止まった。


「これを見たまえ!」


 棚を開き宮本さんが、取り出したのはサッカーボール位の大きさの何か。

 それを宮本さんから受け取りそれが何なのか気付いた俺はとても驚いた。


「これって…………まさか!」

「ああ!そうさ!」


 受け取った物。

 それは、金色に輝く鉱物。

 日本でもテレビ等で時折見る事があったあれ。

 億万長者がこの鉱物が延べ棒になった物を積み上げているのが印象的なあの鉱物。


「本物の純金さ!!」

「マジか!始めて見た!!」


 そう、金塊だ。


「どうやってこんなの。まさか!」


 俺は、どうやってこんな物をと思った。

 しかし、直ぐに目の前の人物が所持するスキルを思い出しまさかと思い見ると。


「そう、今想像してる通り私が造ったのさ!」


 やはり、宮本さんが造り出した物だった様だ。


「錬金術と言えば卑金属を金に変えるという話が定番。せっかく錬金術を持っているんだ。なら造るのは当然だろ?」

「そ、そう、だね?」


 俺はその当然を知らないが、どうやら世間一般では当然の事らしい。

 俺が返答すると宮本さんは、更に饒舌に金塊について話ていく。


「本当に苦労したよ。休憩時間を利用して様々な卑金属を錬金術で分解、融合させる事計200回以上!!試行に次ぐ試行の果てにようやくつい先日完成したんだ!!」

「が、頑張ったんだな」


 どうやら、この金塊は先日完成したばかりの出来立ての物だったらしい。

 それにしても、宮本さんは休憩時間に何を本気でやっているのだろうか。

 何か、話を聞いていて金を造る事に本来の生産作業よりも力を入れてないか?


「大変だったよ。全然上手くいかなくて。つい本来の生産作業よりも力を入れてしまった」

「」


 まさかと思ったら、マジだった。

 一応注意しとくか。


「ちゃんと、生産作業もしなよ?」

「失敬な、勿論するさ。現に今してる作業に必要な素材を採りに1週間後ヘリウスへと行くのだからね」


 ヘリウス。

 確か、スレイブ帝国のある方角。

 その方角に町や領地を幾つか越えたらあった町だった様な。


「そうか、気を………?」

「どうかしたのかい?」

「いや、何か視線?の様なモノを感じて。気のせいか?」


 覗かれる様な嫌な視線を感じた気がしたが振り返るが誰も居ない。

 ドアの外も見渡して確かめたが周辺にも人の姿は見えなかった。

 どうやら、気のせいみたいだ。


「まぁ、続きだけど気を付けなよ?」

「あぁ、護衛も数人付けてくれると言っている。安心したまえ」

「なら大丈夫かな。そろそろ寮に戻るよ。ちゃんと休憩取りなよ」

「心配せずとも取るよ。それじゃあ昼食時に」

「ああ、それじゃあ」


 そうして、俺は宮本さんと別れて寮へと戻るのだった。


 ※※※※※


 国王の執務室にて、とある男が国王ガゼウスと話をしていた。


「それで?」

「鉱山の採掘量が少なく。領内の農業も不作気味でして。陛下に資金、物資の援助をして貰えないかと」

「ハァ~」


 ガゼウスは、目の前の男。

 スモルス=ドワルフに呆れため息がもれてしまった。

 元来人の事を思いやる優しい性格な方であるガゼウスではあるが、今回に限っては目の前の男に対して優しさを向ける事が出来そうになかった。


「スモルス、私は何度もお前に言った筈だ。鉱山だけに頼るな。農業に関しても適切に育てる物を選べと。でなければ、いずれ採掘量も減り時期によっては作物も不作になりかねんと」

「……そうです」


 自分は、忠告を何度も行った。

 採掘等鉱山内の鉱物が無くなれば終わり。

 作物も気候や土地の状況で豊作であれば不作である時もある。

 だから、きちんともしもの為に備えておけと。

 だと言うのに。


「何度も忠告したと言うのに。何故4年も続けて領の備えが全く無いんだ。貴様は、学べんのか?」


 この男は、何も備えず毎年毎年こうして援助してくれと言ってくるのだ。

 ガゼウスも、初めは援助をした。

 そして、気を付ける様にと伝えた。

 しかし、翌年もそのまた翌年も同じ様に来たのだ。


「も、申し訳…ありません」

「これが最後のチャンスだ。もし翌年も改善が無ければ、お前の男爵位を剥奪。隣領と合併させる」

「なっ!?」

「文句は言わせん。私は、何度も忠告したのだ。4年だぞ?お前が、きちんと他の対策を施せば何かしら実が出る筈だろ。なのに出ていない。剥奪が嫌なら、今年はきちんと何かしら改善を見せろ」

「わ、わかりました。……失礼、します」


 スモルスが、暗く何かを我慢する表情で部屋を出ていく。

 ガゼウスとて、ここまで強く言いたくはなかったが流石にこれ以上放っては置けなかったのだ。

 これ以上は、奴の領地の領民の負担が大き過ぎる。

 今年は、昨年通り援助するがもし無理なら本当に爵位剥奪をするつもりだ。


「きちんと改善するのだぞ。スモルス」


 ※※※※※


 国王の執務室から出たスモルスは、王城内を歩いていた。


「クソ、クソがっ!!何故この俺があんな事を言われなければならんのだ!これも全て、全て奴のせいだ!おい!!」

「何でしょうか」

「様子はどうなんだ」

「変わっておりません。何度か潜り込んだ様ですが、後日には連絡が途絶えております」


 付き添いの男が、スモルスの質問に淡々と伝えられている内容を答える。

 それを聞いたスモルスは、頭をかきむしり上手くいかない事にイラついていく。


「クソが!あそこは、元々俺の領地の隣にあったモノだぞ!俺のモノになるのが道理だろうが!あれさえあれば、今頃俺は子爵、伯爵にだってなっていた筈なのに。クソ、クソが!!」

「仕方ありません。何せ、奴は元Aランク冒険者です。報告にあったのですが、最近は、D、Cランクの手練れが新しく入った様ですが、殺す気で抵抗してきたのを軽くねじ伏せて粛清。何度も〝ピッー〟された事で今では、死んだ様に大人しくなったそうです」

「奴さえ、奴さえ居なければ。ジョニーさえ居なければ!!」


 スモルスの領地とジョニーの所有する鉱山は、距離は多少あれど隣同士。

 スモルスは、自分の領地の隣に豊富な鉱山があるのに冒険者でしかないジョニーに独占される事に我慢ならず何度も暗殺者を送り込んでジョニーを殺しどうにか鉱山を奪おうとしているが、悉く失敗に終わっていた。


「このままでは俺の領地が。どうする。どうにか金を稼ぐ手段を見付けないと。………ん?」

「どうしました」

「ここからか」


 スモルスは、とある部屋の前で止まるとドアの横に隠れながら部屋の中を覗きこんだ。


「どうしたんですか」

「静かにしろ。良いから奴らの話を聞いてみろ」

「話ですか」


 付き添いの男は、スモルスに言われた通り黙って話し声に聞き耳をたてた。


『私が造ったのさ!』

『錬金術と言えば卑金属を金に変えるという話が定番。せっかく錬金術を持っているんだ。なら造るのは当然だろ?』

『そ、そう、だね?』

『本当に苦労したよ。休憩時間を利用して様々な卑金属を錬金術で分解、融合させる事計200回以上!!試行に次ぐ試行の果てにようやくつい先日完成したんだ!!』


 中からは、そんな声が聞こえてきた。


「金を造っただと」

「信じられないですが、あれを見るに本当の様ですね」


 信じられない話だが、部屋の中の少年の手にある鉱物を見るに本当の様だ。


『ちゃんと、生産作業もしなよ?』

『失敬な、勿論するさ。現に今してる作業に必要な素材を採りに1週間後ヘリウスへと行くのだからね』


「ヘリウスですか。私共の領地の近くですね」

「そうだな。…………そうだ、良い手があるじゃないか」


 スモルスは、もう用は無いのか部屋の前から離れて行く。

 そして、部屋からある程度離れると隣を歩く付き添いの男に話し掛けた。


「おい」


 付き添いの男は、スモルスの声、表情から何を言うつもりなのか既にわかったが主を無視は出来ないので話を聞く。


「何ですか。準備するのなら、直ぐに出ないと万全の準備は出来ないですよ?」

「わかってるじゃないか。今すぐ領地に帰って準備するぞ」

「はい。わかりました」

「あの女さえ居れば、俺は幾らでも金を手に入れる事が出来る。必ず誘拐を成功させるんだぞ」

「了解しました」


 そうして、スモルス達は自身の領地へと帰って行くのだった。


 ※※※※※


 同じ頃、とある場所にて。


「主、何処かへ出掛けられるのですか?」

「あぁ、前ので予想外に駒が減っただろ。追加する為に少し出てこようと思ってね」


 ザクトの質問にその様に答える。

 あのカラクでの襲撃。

 予想外に襲撃に出した全てが倒されてしまったので、こちらの使える駒である魔物の数が少し減ってしまった。


「予想よりも減ってしまったからね。近々新しく追加するつもりではあったし。そういう訳で、少し出てくるよ。その間は、彼に指示を出してるから共に行動していてくれ」

「了解しました」

「それじゃあ、行ってくるよ」


 そうして、生み出した闇の中へとザクトに見送られて消えていくのだった。

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