レッスン31「道 (4/4)」

「道を開けよ! 道神様のお通りであらせられるぞ!」


 ノリノリなミッチェンさんと、


「「「「「ありがたやありがたや……」」」」」


 本気なのか僕をおちょくっているのか、拝み倒してくる商人さんたちやギルド職員さんたち。


「は、恥ずかしいからやめてください!」


 そうして、西の森の東端、数日前に西に向かって一直線に木を伐採した地点に立つ。


「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】!」


 お師匠様が杖を振り上げ、森上空の空が一瞬だけ真っ赤な魔方陣で満たされる。

 後ろでは、何十人と集まった野次馬たちが『おぉぉおおお~~~~ッ!!』って驚いている。

 ふふん、僕のお師匠様はすごいんだぞ?


「道の上と、左右数十メートルに人はいない。野生動物はそれなりにいたが、気にせず【収納】すりゃいいさね」


「はい!」


「【視覚共有シンクロナイズド・アイ】」


 僕は目を閉じ、お師匠様の視界を借りる。

 お師匠様の視界では、いまから掘削すべき地面2メートル分の土が白く輝いて見える。


「いきます! 【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」






 果たして、遠く地平線の彼方まで、幅10メートル、深さ2メートル分の地面がごっそりと消えた。






「「「「「うぉぉぉおおおおッ!? 道神様ぁ~!!」」」」」


 後ろでは野次馬たちがやんややんやの大騒ぎ。

 けど、仕事はこれからなんだよね。


「――【遠見テレスコープ】」


 お師匠様の魔法で道の西端まで視界が届く。

 視界がギュッと圧縮されたような不思議な感覚。


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 その視界いっぱいに、石材商の男の子から提供してもらった石を敷き詰める。

 あらかじめ【目録カタログ】で振り分けておいた、大ぶりのものを、だ。


「もいっちょぉ【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 続いて、やや小ぶりの石をその上に振りかける。


「さらにぃ【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 その上に、砂利を敷く。

 お師匠様曰く、水はけをよくするための手法なのだそうだ。


「そしてその上にぃ【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 均等に、生セメントを流し込む。

 これで、下準備は終わり。


「はぁっ……はぁっ……お師匠様、魔力をもらえませんか?」


「あいよ、【魔力譲渡マナ・トランスファー】」


 急激な魔力の減りでキリキリと痛み始めていた丹田が、あっという間に全快する。

 さて、次は仕上げの石畳。

 幅10メートルの道を20のブロックに分け、そこに50センチ四方の石畳を敷き詰めていく。

 水はけのためにアーチ状にする必要があるから、石畳みの高さを3段階に分けて、あらかじめ【収納アイテム空間・ボックス】で削っておいた。


「まずは中央の8ブロック分!」


 ご丁寧にお師匠様が光で示してくれている箇所へ、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 一番背の高い石畳を配置する。


「次にその左右8ブロックへ――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 二番目に背の高い石畳を。


「最後に左右4ブロックへ――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!

 はぁ~……」


 ふらふらになって倒れそうになる僕と、それを抱きとめてくれるノティアと、


「「「「「うぉぉぉおおおおッ! 道神様ぁ~!!」」」」」


 楽しそうな野次馬たち。


「さ、最後に、道の左右に小さな側溝を――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!

 じゃ、じゃあノティア、お願いできますか?」


「ええ、ここからはわたくしの出番ですわ」


 僕がノティアの前に【収納アイテム空間・ボックス】への入口の空間を広げ、ノティアがその中へ、


「魔力の限りぃ――【火炎ファイアの壁・ウォール】ッ!!」


 ノティアが僕の【収納アイテム空間・ボックス】へ炎を送り込むと、僕が街道の上に展開したもう片方の【収納アイテム空間・ボックス】の出口から炎が射出される。

 これによってセメントが熱せられ、乾く。


「もう十分さね」


 お師匠様の言葉で、ノティアが魔法をやめる。


「終わりました。こんな感じでどうでしょう、ミッチェンさん?」


 目を開いて振り向くと、ミッチェンさんが顔を真っ赤にさせて、


「す、す、す……」


「す?」


「素晴らしぃぃぃいいいい~~~~っ!!」


 ミッチェンさんにまたしても両肩をつかまれる。


「貴方こそ真の道神様! いえ、交易の神、交易神様だぁ~ッ!!」


「「「「「うぉぉぉおおおおッ! 交易神様ぁ~!!」」」」」


 ミッチェンさんも野次馬たちも、やんややんやの大興奮。


「あははっ! これぞマスターから受け継ぎし奥義、【天地創生収納アイテム空間・ボックス】さね!」


 お師匠様もお師匠様で何やら盛り上がっている。

 っていうか出たな、七大奥義の4つ目!

 そんな熱狂の中、急にミッチェンさんだけが真顔に戻り、


「ですが、……歩道の方もお忘れなく」


「で、ですよね……お師匠様、魔力ください」


「あいよ」



   ■ ◆ ■ ◆



 同じ要領で、馬車道の左右に歩道を作った。

 お師匠様の交渉術により、僕たちは今後、この街道によって商人ギルドが得た利益の、なんと1割をもらえることになった。

 僕の【収納アイテム空間・ボックス】の中にものすごい勢いでお金が入ってきて、正直怖くなってきている。



   ■ ◆ ■ ◆



 翌朝、いつもの時間にベッドから飛び起き、顔を洗い、装備を着込んだところで、


 ……コンコンコン


「はぁいお師匠様、今日はどんな依頼を――」


 果たして、部屋の外に立っていたのは。


「あ、あの……クリス」


「シャーロッテ!?」


 同じ孤児院で育った幼馴染。

 昔から大好きだった女の子。

 僕を500日もの間、飢え死にから救ってくれた女神。

 シャーロッテだった。




***********************

 ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます!!m(_ _)m

 痛快な「ざまぁ」と、あっと驚く極上のどんでん返しをお約束します!

 どうぞ最後までご覧下さいませ!


 次回、困り果てた様子の幼馴染・シャーロッテが持ちかけてきた相談とは?

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