レッスン22「水 (1/6)」

「というわけで、いよいよ実戦さね」


「や、や、やっぱり無理ですってお師匠様!!」


 おなじみ、西の森にて。

 今日は何と、ゴブリン討伐の常時依頼を受けてしまった。


「儂の【万物解析アナライズ】抜きでやりな」


「そ、そんな! 目視できる距離でなんて、殺されちゃいます!!」


「ほれ、11時方向600メートル先にゴブリン3!」


「無理です無理です!! ぜぇったいに無理です死にます!!」


「はぁ~~~~……冒険者家業が聞いて呆れるさね。分かったよ、儂のとぉっっっっっっておきの魔法でサポートしてやるさね。まずは、【念話テレパシー】」


 お師匠様と精神がつながる、なんとも不思議な感覚。


「続いて――【思考加速オーバークロック・4倍スクエア】!」






 ――その瞬間、世界が止まった。






 いや、正確には、ゆっくりとだけど世界は動いている。

 地面の草木はひどくゆっくりと動いている。

 それに、その光景を見ようとしている僕の動きも、ひどく緩慢だ。

 こう、悪夢の中で、水の中にいるみたいに上手く動けない感覚。


『これが、4分の1の世界さね』


 お師匠様の声が聞こえた。その声は普通の速度だ。

 ゆっくりとお師匠様の方へ顔を向けてみれば、ちょうどお師匠様も、こちらを向こうとしているところだった。


『お前さんはいま、敵ゴブリンよりも4倍もの速さで思考することができる。そりゃ手足の動きは4分の1のままだが、思考が速くなれば魔法の発動も速くなる。特に、お前さんの【収納アイテム空間・ボックス】は特別製だからね』


念話テレパシー】で話しかけてきながら、お師匠様が微笑む。

 なるほど、お師匠様はこの魔法に――この感覚に慣れてるってわけだ。


『さ、お行き。大丈夫だ、後ろでちゃんと見てて上げるし、治癒魔法の準備もしておいてやるから』


『――はい!』


 僕は森の中へ走って行こうとして、あまりの体の重さに上手く進めず転びそうになり、けれど100メートルも走るころには慣れてきた。

 何しろ4倍思考して試行できるのだ。


 ――彼我の距離100メートルほどで、木々の間からゴブリンたちの姿が見えた。


 目が合う。

 弓持ちが1、槍持ちが2。

 僕が数歩走る間に、槍持ちたちがこちらに体を向け、弓持ちが矢を番える。

 思わず僕は立ち止まる。両手を掲げ、丹田の魔力を意識する。

 槍持ちたちがこちらへ突進し出して、同時に弓持ちが矢を放ってきた!

 矢が、正確に僕目がけて飛んでくる!


『【収納アイテム空間・ボックス】ッ!!』


 泣きそうになりながらも、目で追える速さの矢を睨み、唱える。

 ――矢が消えた。

 消えた! 【収納】に成功した!


 ――よし、いける、戦える!


 見れば槍持ちたちがあと数歩のところまで来ていたので、


『【収納アイテム空間・ボックス】ッ!!』


 今度は比較的落ち着いて、2本の槍を【収納】することに成功する。


『そのまま首を狩っちまいな!!』


 お師匠様の声。


『は、はい――』


 驚き戸惑う2体のうち1体の頭部を睨みながら、


『【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!』


 ――バチンッ!


 と、ゴブリンの首元で真っ白な光。


『お、お師匠様! 抵抗レジストされました! やっぱり精神力を持った魔物を【収納】し殺すなんて無茶です!!』


『やれる! 気合の問題さね!』


『んな無茶な!』


 僕はゴブリンに背を向け、逃げ出しながらお師匠様に抗議する。


『あ、こら逃げなさんな! 気持ちの問題さね! 魔法ってのはイメージが大事だ! 気づいてるだろう、お前さん? お前さんは口を動かさずに【収納アイテム空間・ボックス】の行使に成功した――つまりお前さんは、「無詠唱」に成功したんだよ! 英雄クラスの快挙だ! この街に「無詠唱」使いなんているさね!?』


『いない、いません!』


『つまりお前さんは――こと【収納アイテム空間・ボックス】に関して言えば天才なんだ! お前さんに【収納】できないもんなんてこの世にないさね! さぁ、立ち止まって振り返りな!!』


 言われた通り、振り返った。

 得物を奪われた2体のゴブリンは、どうしていいか分からず戸惑っているようだった。

 弓持ちの1体だけが、ちょうどこちらに矢の1本を飛ばしてくるところだった。


『【収納アイテム空間・ボックス】ッ!!』


 まずは危なげなく、その矢を【収納】することに成功する。

 ――――そして。


『さぁ、あの醜いゴブリンどもの首を狩り取るところをイメージするんだ』


 イメージ、した。


『儂の言う通りに唱えるさね! ――首狩りぃッ!』


『首狩りぃッ!』


『『【収納アイテム空間・ボックス】ッ!!』』






 ――――果たして。






 果たして3体のゴブリンが首から上を失い、ゆっくりゆっくりと倒れていった。


「おめでとう! これでお前さんも、【首狩り収納アイテム空間使い・ボクサー】さね!」


 ふと、時間の流れが普通に戻った。お師匠様が思考加速の魔法を解いたんだろう。


「な、なんですか、【首狩り収納アイテム空間使い・ボクサー】って……」


 僕は思わず、その場に座り込んでしまった。




***********************

 引き続きご覧下さり、誠にありがとうございます!

 どうぞ、最後までお付き合いの程を、宜しくお願い致します!


 次回、アリス・アリソン師匠に負けず劣らずの超美人セクシーダイナマイトボディーなエルフのお姉さん登場!?

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