第21話

 話が一通り終わったので帰ろうと思って席を立つと、平井さんに止められた。


「も、もう少しだけ話しませんか……?」


「珍しいね、俺のことを止めるなんて」


 さっきから10分近く膝立ちが続いていたので、平井さんの横の席を借りて、平井さんと雑談を始めた。

 そしてしばらくすると、俺たちが出会った”ストリートピアノ”の話になった。


「平井さんはなんでストリートピアノ弾いてたの?」


「川崎君の曲を聞きたかったから! ……って言いたかったのだけど、たまたま通りかかっただけなんですよ」


「そういう川崎君は相当嫌がっていたように見えたんですけど……。なんであの列に並んでいたんですか?」


「え、えーと恥ずかしかったんだけど、ピアノを弾いてみたいなぁって」


「恥ずかしいのはよくわかります、私も演奏中緊張で震えてましたから」


 言えない。

 ”おじさんに無理やり並ばせられた”なんて絶対に言えない。

 普通に嫌われるだろう。


 その後、しばらく平井さんとつまらない話をしていると、平井さんの友人なのかこちらに近づいてくる女子がいた。


「平井ちゃ~ん。あれ、見たことない人だけど、もしかして彼氏さんとかなの?」


「ちょ、ちょっと! あんまり大きな声で言わないでよ!」


 平井さんがそう言って周りを見渡していると、その女の子はにやりと笑いながら俺の耳元にぎりぎり聞こえるくらいの小さい声で教えてくれた。



「実はね~、平井ちゃんは川崎君に一目ぼれしたらしいよ! 君とすれ違ったときに、偶然顔を見て『この人しかいない!』って思ったんだって!」


「ち、ちょっと?!」


 若干メルヘンチックな話だけれど、なぜか運命のようなものを感じた。


「そ、それ本当なの?」


 彼女の反応からしてみると、本当のようだったけれど平井さんの口から聞きたかったので、そう聞いた。


「ほ、ほんとよ……」


 平井さんは消えかかるような声でそう言うと、直ぐに顔を手で覆って教室から飛び出していった。

 ちょっとやりすぎちゃったかな……?

 そう思っていると、彼女の友達が話しかけてきた。


「安心して、平井ちゃん恥ずかしがり屋さんだからよく逃げるのよ」


「そ、そうなんですね」


 名前も知らないこの人のことも気なったのだけれど、それよりも彼女のことを追いかけることにした。


「まだ聞いていないことがあったんだ……!」

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