第13話

「すごい、こんなにきれいなお部屋だったから、あんなにきれいな音楽が生まれたのですね! 私も見習わなくっちゃ……!」


 平井さんは俺の部屋に入ってきた瞬間に部屋がきれいであることをほめてくれた。


「いや、あの曲はノリと勢いで作ったから、どこで作っても同じ結果になったんじゃないかなぁ……」


 照れ隠しをしながらそう言っていると、彼女が部屋の隅の方に無理やり押し込んだピアノを発見してしまった。


「この電子ピアノって今でも弾けるんですか?」


「うん、最近買ってもらったものだからね。だけど、あんまり使ってないから使い方がよくわからないんだけどね~」


 彼女の目の前だったので「あまり」という表現をしたのだけれど、実際に使ったのは最初にちゃんと使えるかのチェックをした一回だけだ。

 曲を作るのはピアノを弾くよりも断然楽しかったので、ピアノそっちのけでひたすら作曲をしていた。

 だけれども、まだ全然完成していない……。


「私もこのピアノ弾いてみたいです!」


 平井さんはそう言いながらピアノの上にのせていた荷物をどかし始めた。


 俺はほとんどそのピアノを使っていなかったので、ちゃんと起動できるのか心配になってしまった。

 だけれども、俺の心配は必要なかったみたいだ。


 平井さんは荷物をどかすとすぐに電源を入れて、引き始めていた。

 しばらく平井さんの曲を聞いていたのだけれど、その曲の名前がわからなかった。


「平井さん、その曲の名前ってなに?」


「この曲の名前? まだ考え中なのよ、曲も名前もまだ未完成だからね」


 未完成の曲……?

 一体どういう意味なのだろう。

 首をかしげていると、彼女が手書きの楽譜を見せてくれた。


 俺はピアノはノリで引けるのだけれど、楽譜というものはどうも俺には合わない……というかいまいち読み方がわからない。


「実はこれ、私の作った曲なんです!」


 彼女はそう言いながら楽譜を俺に渡して、恥ずかしそうに手で顔を覆った。

 そんなに恥ずかしいことが書いてあるんだったら、見せなきゃいいんじゃないだろうか……?


 思わずそう言いたくなってしまったけれど、とりあえず中身を見てみることにした。

 くわしい中身はわからなかったのだけれど、なんだかリズムが良さそうなので弾いてみた。




「すごい! 博人……君って作曲もピアノもできるんですね尊敬しちゃいます!」


 相変わらず名前と君の間はちょっとあいていたけれど、終わると拍手をしてくれた。


「そ、そんなに上手だったかな?」


「それはもう……私も博人……君みたいにもっと上手になりたいです!」


 平井さんはそう言って、目をメラメラ燃やしていた。

 彼女……将来ものすごい人になりそうだ。

 直観だったけれど、俺は強くそう感じた。

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