第2話

「おじさん、俺大きなピアノなんて弾いたことないんだけど?!」


「鍵盤ハーモニカとかなら小学生でもやっただろ、似たようなもののはずだから多分平気さ!」


「まあ鍵盤は似ているかもしれないけれど……それ以外のところなんて絶対に違うから!」


 俺は必死に抵抗したのだけれど、ついに前の女の子の演奏が終わってしまい、俺の番になってしまった。

 ここまで来てしまったら、もう後戻りはできないのか……。


 覚悟を決めて深呼吸をすると花の香りがした。

 その匂いのしてきた方を見てみると、女の子が通った道のところだった。

 いい匂いだな、それになんか……心臓の鼓動がどんどん強くなっている気がするな……。

 もしかして、これが一目ぼれというやつなのだろうか……?


 俺はたった今”初恋”というものをしたのかもしれない。

 だけれども、今の俺にはその感情に浸っている時間はなく、代わりに列の後ろからの圧力を思いっきり感じた。


「何してるんだよ博人、さっさと弾かないと一生帰れないぞ?」


 おじさんにも催促されたので、彼女のことを思い出すのはあきらめるしかなかった。

 あの子と……また会えるといいな。


 さっきの女の子のことを思い出したながら、ピアノに指を乗せた。


「はぁ……ピアノなんて弾けるわけ……っ!?」


 どう逃げようか考えていたのに、指が勝手に動き出した。

 そして、それらが鍵盤に触れると同時に美しいメロディーが俺の耳まで届いてくる。

 これは本当に俺の指なのか!?

 そう疑ってしまうくらい美しいメロディーをかなでられた。


 しばらくしたら弾くのに飽きてしまったので、最後にプロの人がやっている「ドゥルルルル」みたいなやつをやって締めようとした。

 確か、右のほうから上にやればいいんだよな……?



 ドゥルルルル!


 勘と勢いだけでやってみたのだけれど、プロの人と同じような音色を奏でらえた。

 なんだ、ピアノの演奏ってめっちゃ簡単じゃないか。


 そう思いながら椅子から立ち上がった。

 それとほぼ同時にピアノの周りにいた人たちからの拍手で包まれた。

 いつの間にこんなにたくさん人が……


 人の多さも驚いたのだけれど、それよりも自分の演奏をたくさんの人に聞いてもらえたことが少しうれしく、恥ずかしくもあった。


「博人すごいじゃないかぁぁぁぁ!」


 そんなことを考えながらピアノから離れると、おじさんが抱き着いてきた。


 あまりのことで驚き、少し引いていると俺の肩に温かい液体が……

 驚いておじさんの顔を見てみると、感動の涙であってほしいのだけれど、勢いよく目から涙が噴出していた。

 そ、そんなにうれしかったのだろうか……?

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