第28話 ドレス魔改造


 「え~っと、プリエラ様……ですよね?」


 「姫様、今の私はただの従業員です。 様などと呼ばず、もっと気軽に接して頂ければと」


 「アンタもアンタで固いわ」


 翌日から、プリエラは私のアトリエにやって来た。

 昨日のような厚化粧ピエロではなく、薄化粧ピエロになっていたので随分と絡みやすくなった気がする。

 結局ピエロだが。

 恰好も随分とスッキリしたし、目元にピエロ模様? を入れている程度。

 うん、昨日より全然マシだ。


 「まさか王族御用達の職人さんまで連れて来てしまうとは……流石ですアオイ様」


 「いや、お金が無いから仕事が欲しかったんだってさ。 連れて来たんじゃなくて付いて来たって言う方が近い」


 「いやいや、王族が指名する程の方が貧乏な訳……」


 「主食もやしだってさ」


 いやいやいや、と未だに信じてくれないシリア。

 本当なんだけどなぁ、まあいいか。

 はぁ、と溜息を溢していると。

 プリエラはプリエラで、自分の作業スペースを作り始める。


 「とりあえずペット用の服を作り始めればよろしいでしょうか? 魔女様」


 「だから魔女じゃないって。 ていうか、ドレス作り後回しにしちゃって良いの?」


 結構時間かかりそうなデザインラフ描いてたし、まずはそっちを作るのかと思っていたのだが。


 「あちらは王様からの依頼ですからね。 創碧にいる間はコチラのお仕事を優先しますとも」


 「真面目だねぇ。 とは言えペット服作りが終わったら、そっちも進めちゃって良いからね? プロの仕事を近くで見られるってだけでも、勉強になるし」


 「そう言う事であれば、御言葉に甘えます魔女様。 それから……こちらで作っているというレジン作品も後でいくつか見せて頂いてもよろしいですか? せっかくココの特製品なのですから、ドレスに取り入れてみようかと思いまして」


 「あぁ~なるほど。 どうせなら会場で宣伝してくるか」


 「ですです」


 そんな訳で、本日もお仕事開始。

 シリアは羊毛フェルト、アリエルはレジン。

 そしてプリエラと私がペット&ぬいぐるみ服。

 プリエラの隣で作業していて思うが、こんな見た目でもやはりプロなんだなぁと実感してしまう。

 まず全部の行動が早い。

 私が書いたデザインラフをもっと具体的に、更に見栄えも整えながらいくつもの数字を書き込んでいく。

 そして何と言っても絵が上手いのだ。

 まさに完成品はコレだと簡単に想像できる程、細部まで描き込んでいる。


 「昨日も思ったけど、やっぱ上手いねぇ」


 「ありがとうございます、とはいえ私の本業はココからですが」


 恥ずかしそうに微笑みながら、彼女は裁縫道具を拡げていく。

 すげぇ、ウチで使っているのとは比べものにならないくらい色々な物が出て来る。


 「では、この二つの服を一辺に作らせて頂きますね」


 「二つ同時に作るの?」


 「えぇ。 こちらの二点は色と柄、それに作業工程が同じ所が多いですから。 同じ作業はなるべく一度に済ませてしまった方が時間の短縮になります」


 「うっはぁ……すっげぇ」


 こう言う事をする為に、図面の時点でかなり力を入れるのか。

 確かに適当に作り始めて、その都度考えるのでは結構時間が掛かる。

 ハンドメイド程度の知識である私からしたら、ソレが普通だった訳だが。

 彼女からすれば“余計な時間”に他ならないのだろう。

 プロと素人の差が浮き彫りになるねぇ。


 「あ、そうだ。 その筆記用具とか紙とか持ち帰って良いよ。 まだいっぱいあるから」


 「良いのですか!? コレ凄く特殊なモノに見えるんですけど……それに凄く描きやすいですし」


 「良いさ良いさ。 前の住人の遺品だから」


 「遺品!?」


 さて、それじゃ私も作業を開始するとしますか。

 隣のピエロさん程早くも無いし、綺麗な作品は作れないかもしれないが。

 それでも、私は私の作りたいモノを作るのだ。


 「あ、この子確か浅葱くらいのサイズだった筈。 浅葱ー、おいでー」


 「あいー」


 ――――


 「ただいま戻りましたぁ~って、え? ピエロが居る」


 ブルーが玄関を開けた瞬間固まってしまった。

 コレでも昨日のピエロよりマシなんだよ、顔にちょっと柄が書いてあるだけの人になったんだから。


 「おかえりブルー。 こちら新しい従業員のピエロ、あっちはウチの付与魔法師のブルー」


 作業しながら適当に二人に紹介してみると。


 「初めましてブルーさん。 本日より創碧の小物屋で働かせて頂く事となりました、プリエラと申します」


 「あ、これはご丁寧にどうも。 テリーブ・ルーターです、ブルーってのは店長が勝手に呼んでいるだけなので、気にしないで下さい」


 「承知いたしました、ブルーさん。 今後ともよろしくお願いいたします」


 「人の話聞いてました? ねぇ聞いてました?」


 どうやら仲良くなれそうな雰囲気で挨拶を交わす二人。

 そして彼が今までどこへ行っていたかというと。

 なんとブルーの営業活動により、本日から別のお店で作品を置いて貰える事になったのだ。

 彼にはその出荷作業に朝から向かって貰っていた。

 露店卒業……とまではいかないけど、私達のいない所で利益が多少でも出る様になった訳だ。

 よしよし、順調ではないか。

 とか何とか思いながら、ひたすらにチクチクやっていると。


 「あれ? 店長ドレス作るんですか?」


 隣までやって来たブルーが、机の上に並んでいるデザインラフをヒョイっと拾い上げる。

 まさかと言ってやろう。

 私がそんなモノ作れる訳ないじゃないか。


 「そっちプリエラの本業だよ~。 私にゃ無理無理」


 「凄いですね……どこからこんな職人さん拾って来たんですか」


 「お城でちょろっと」


 「マジで何やってるんですか貴女は」


 やけに呆れた視線を向けられてしまったが無視無視。

 だって勝手について来たんだもん、私悪くないし。


 「如何でしょうブルーさん。 今度魔女様に着ていただくパーティ用のドレスなのですが」


 「ま、魔女様? あぁ店長の事ですか」


 何普通に納得してやがりますか。

 ジロリと睨んでみれば、ブルーはコチラの事など知らんとばかりにラフ絵に集中している。

 チッ、二人して職人顔しおって。

 二人共職人なんだけどさ。

 いいですよーだ、存分に二人でキャッキャウフフしなさいな。

 とかなんとか思いながら、チラチラと二人の事を観察してみれば。


 「ココ、スカートの部分が幾つも重なり合うデザインになっているじゃないですか。 どんな素材を使う予定なんですか?」


 「あ、それなら丁度持って来ていますのでご覧になります? この生地ですね」


 彼女のバッグから出て来たのは、随分と綺麗な蒼い布。

 おぉ~、アレがこのドレスの一部になるのか。

 というか、あんな高そうな布使ったドレスを私が着て良いのだろうか?


 「なるほど、厚手と薄手を合わせる感じですよね? それで見た所ウチの商品を散りばめようとしてる感じか……ちょっとコレ見てもらっても良いですか?」


 「こちらは?」


 「ウチの商品のスノードームというモノです。 こう、ぼんやりと発光する飾り物なんですが」


 「おぉ……これはまた、綺麗ですね。 魔法陣もこんな風に飾れば見栄えがとても良いです。 普通は陣を隠そうとするものですが、こちらは柄の一部として取り入れているんですね」


 「そこでですね。 下の隠れてしまう布に刺繍で陣を描いて、その上にこんな形のアクセサリーを取り付けて、とかどうですか?」


 「ほぉ……淡く輝く状態にして、その上にレジン作品を飾るのですか。 確かにコレならより目立つかもしれませんね、それにレジンは非常に軽い。 布と縫い合わせても、その辺に落としてしまう心配もほとんど無い」


 「はい、普通ならドレスとアクセサリーは“合わせる”モノですが。 ウチの商品ならドレスの一部として使える。 そして、刺繍陣を使えばより面白いモノになるのではないかなと。 ウチの店長、ゴテゴテとアクセサリーつけるの嫌がりますし」


 「肩凝るの嫌なんだよね~」


 「普通はソレでも飾りたい時は宝石の一つでも付けるものです」


 あぁ嫌だ嫌だ。

 “向こう側”に居た時から、本物の宝石とかあんまり興味なかったし。

 綺麗だとは思うけど、欲しいかと言われれば別にと答える。

 小粒でも目が飛び出そうなお値段の代物を、何故人前でギラギラと晒さなければいけないのか。

 獲られちゃったらどうするのよ、破産するわ。

 そんな事ばかり考えながら高価な物を身に着けると、非常に肩がこるのだ。

 主に緊張で。

 作るのは好きでも装備するのは嫌いです。

 なんて、訳の分からない事を考えていれば。


 「しかし、恐らく王様から何かしら送られてきますよ?」


 「はい?」


 急にプリエラが訳の分からない事を言い始めた。

 何それ、初耳なんだけど。

 思わずアリエルの方へ眼を向けてみるが、すぐさま視線を逸らされてしまった。


 「アリエル、ねぇアリエルさんや」


 「……えぇっとですね。 今回のパーティー参加目的が、アオイさんが魔女ではないと証明する事。 そして王族とも仲良くしている事をアピールすれば、おいそれと手を出して来る輩はいなくなる。というものでして……ですから、そのぉ」


 「王族に近くに居てもおかしくないくらいの装飾品を付けろ、って事?」


 「世間体とか、そういうお話になってしまうのですが。 その、お母様と一緒にここ最近宝石屋をはしごしているのは確かです……」


 王様からすんごい高そうなモノが送られてくる事は決定らしい。

 もう嫌だ、パーティー行きたくない。


 「頂ける物品も確認して、より美しく見えるデザインにしたい所ですが……流石に先に見せて頂く訳にもいきませんからね」


 「であれば、デザインを色付けまでして王様達に提出してみては如何でしょう。 幸いココには色付けする道具も揃っていますから。 あの王妃様なら、きっと合った物を購入して下さると思いますが」


 とかなんとか、どんどんと会話が進んでいく。

 なんか皆、すんごい普通に買って貰う事前提の流れになっているんですけど。

 ナニコレ、普通こういうモノなの?


 「あ、あの。 ちなみにそういうのをお断りするのって……」


 「「「無理ですね」」」


 アリエルとプリエラ、そしてブルーまでも声を揃えて否定して下さりましたとも。

 ちくしょう。


 「王様からの贈り物かぁ……どんなモノが頂けるんでしょうねぇ」


 シリアだけは、ウキウキした様子でこちらを眺めて居た。

 あぁ、“こちら側”の子は強いなホント。

 お高い宝石なんぞ頂けると聞いて、胃が痛くなる前に目を輝かせちゃうんだもの。

 シリアも女の子だもんね、綺麗な宝石とか好きなんだろうね。

 私はお値段的な意味で好きじゃないが。


 「シリア、お前には俺から送ろう。 何が良い?」


 「い、いえ! そんな事をして頂く訳には!」


 完全に空気と化していた王子が、シリアとイチャイチャし始めた。

 他所でやりなさい、お願いしますから。

 なんて事を思いながらも、盛大にため息を溢すのであった。


 「宝石云々より、私は現金が欲しいよ……」


 「父上にそう伝えておくか?」


 「うっせぇバーカ。 お前は嫁とイチャイチャしてなさい」


 「ふむ?」


 なんかもう、また色々疲れそうだなぁ……。


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