第37話 【3DLIVE】萌黄色の夜明け☆らいぶ♪【#萌黄あかつき3Dライブ 】#1

 12月28日の夜。僕は2日続けて、スタジオに来ていた。

 詩楽の3Dライブが始まる直前、僕は控え室を訪れる。


「甘音ちゃん、マジで緊張してきたんだけど」


 詩楽が震えている。


「3Dライブは初めてだし、失敗したら、どうしよう?」


 下手な気休めは意味がない。

 他の人がいないので、いちゃつける。銀髪を撫でた。


「僕がついてるから」

「……おまじないのキスをちょうだい」


 上目遣いでおねだりしてきた。


 昨日は僕のためにキスしてくれたわけで。

 今日は僕からさせていただきました。


「これで勝つる」


 僕の唇でメンタルが安定するなら、安いものだ。


「……じゃあ、僕は控え室で応援してるから」

「あたしの勇姿を見ててね」


 詩楽は楽しげにスキップした。

 リアルのアイドルとちがって、アイドル衣装を着ていない。動きやすいスポーツウェアだ。胸が上下に揺れる。


 そのまま意気揚々と詩楽は控え室を出て行った。


 しばらくして、ライブが始まる。

 僕はノートPCで見ていた。


 オープニング動画ののち、画面が暗転。


 数秒してから、銀髪の魔法少女が現れる。

 満面の笑みを浮かべて。


 彼女が両手を開くと。

 アニソンのイントロが流れて。


 画面が明るくなり、華麗なステージが出現する。無数の人を模した影が舞台の下にいて、ペンライトを振っている。


 萌黄あかつきは歌い始める。

 人気ラブコメアニメの主題歌を。オリジナルは、超人気声優が歌う、切ない声の歌だ。


 歌声に乗る乙女の慕情を、感情たっぷりに表現し。

 ダンスで恋の喜びを伝え。

 僕は魅了されていた。


「すごっ。僕のカノジョ、最高すぐる」


 画面越しでもすさまじいオーラを感じていた。

 まさに、アイドル。キラキラしている。


 3曲歌った後に、MCが入った。


『みなさん、どうも、こんあかつき。バーチャル魔法少女萌黄あかつきでーす。

 みんな、盛り上がろうね! いぇーーーーーーーーーーーーーーーーい!

 はじめての3Dライブにお越しくださり、ありがとなす。

 最後まで楽しんで行ってね❤』


 あかつきさんは得意のアニソンを数曲、披露する。

 歌もダンスも完璧だった。


 数日前に過労で倒れて、声も出なかったのがウソのよう。

 事情を知っている身としては、泣けてくる。


 続けて、ゲストが登場した。

 今日のゲストは、3期生。詩楽の同期2名である。


『皆の衆、夜分失礼つかまつる。拙者は侍系VTuber虎徹こてつ舞華まいかでござる。今宵は、あかつき嬢のライブに助太刀いたす』


 しゃべり方は濃いけれど、キャラデザは美少女剣士。なぜか違和感なくアイドル風のステージに溶け込んでいる。


『みなさん、こんばんは。小羊こひつじおーぶです。あかつきちゃんの運勢を占ってみますね…………絶好調です。ライブも大成功するってさ』


 もうひとりの同期は占いマニア。占いの信憑性はさておき、詩楽を励ましてくれて、助かる。


『ふたりともありがとね。大好きだよぉ』


 あかつきさんがふたりに抱きつく。

(女子だから、嫉妬しないよ、たぶん)


『ところで、あかつきちゃんのラッキーアイテムは…………ピンクの紐パン。今日のパンツはなにかな?』


 まさか、おーぶさんがパンツネタをするとは。

 普段の配信ならともかく、ライブで?


『……白と答えておくわね』

『白かぁ。……本当に白だったら……ううん、大丈夫、大丈夫、おーぶがよしよしするから』


 おーぶさんは言葉を濁した。

(大丈夫だよね?)


『拙者が今から剣舞にて邪を祓う。安心していいぞ』


 舞華さんは腰に差した刀を抜く。

 前に刀を振り下ろしてから、体を反転し、後ろを斬る。続けざまに、左、右と刀で4連撃をキメる。見事な腕前だった。


 舞華さん本人に聞いたところ、リアルでも居合いをしていると言っていた。


『拙者が邪を斬った。もう大丈夫なり』


 それから、3人で数曲歌った。

 協調性がないと思っていた詩楽が、周りに息を合わせて踊っている。


(立派になったなぁ)


 推しで、大先輩で、恋人なのに、娘の成長を見守る父親気分になってしまった。


 いけない、いけない。

 コメントでも見てみよう。


:あかつきたん成長したなぁ

:会話すらかみ合わなかった3人が奇跡のコラボ ¥10000

:おい、フラグだぞ

:完璧なようで抜けてるのが、あかつきちゃんだもんな


 さすが、あかつきさん、みんなに愛されてる。


 一部、不穏な書き込みも目につくけれど、わりと仕方ない。まったくドジしない彼女の方が珍しいし。


 時の流れは速く、あっというまに45分がすぎていた。

 おそらく、あと15分ぐらいで終わるはず。


 いよいよ3期生コラボ最後の曲だ。

 ノリのいいアップテンポの曲は、ダンスも激しい。努力の成果が伝わってくる。


 サビを歌い終わったところで、あかつきさんがジャンプを決める。

 そのときだ――。


「あっ」


 事件が起きた。

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