第137話 幕間 蠣崎清広の野望2
「なに!? また金を貸してほしいじゃと!?」
吉清の前に頭を垂れる蠣崎清広を見て、吉清はため息をついた。
「今度は何をした」
呆れた様子の吉清に、蠣崎清広は今回の経緯を説明した。
カムチャツカ半島から東。アリューシャン列島を発見し、島に沿って北上すると、巨大な島を見つけたのだという。
気候の厳しい土地であるが、広大な土地があり豊富な海産物が見込めることから、開発に乗り出したいのだという。
吉清の現代での記憶には、該当する地域に巨大な島などないが、一つ心当たりがあった。
「アラスカか……」
「あらすか、にございますか……?」
吉清が頷いた。
「しかし、よくアラスカまでたどり着けたのぉ……。既にロシアやイギリスの者がおるかと思ったが……」
「ロシアやイギリス? なるものは存じませぬが、現地にはアイヌのような蛮族がいるだけにございました。無主の土地と言っても差し支えないでしょう」
無主の土地か。吉清の脳裏にある考えが浮かんだ。
「それで、あらすか、とはどのような字を書くのですか?」
吉清が頭に手をあてた。
アラスカを、現世ではどのような字を当てていただろうか。
カタカナならまだしも、漢字などわからない。カムチャツカ半島同様、当て字でいいか。
吉清が筆を執った。
「アラスカとは、このように書く」
紙面には堂々と、「荒須賀」と大きな文字で書かれていた。
「なるほど、たしかに海が荒れた土地でしたからなぁ」
蠣崎清広は納得した様子で頷くのだった。
蠣崎清広が去って、吉清は一人もの思いにふけっていた。
それにしても、と思う。
蠣崎清広の言うとおり、アラスカが無主の土地であるというのなら、我ら木村も植民を始めてみるのもいいかもしれない。
アメリカ大陸に拠点を作ることができれば、木村の交易ネットワークはさらに拡大する上、陸路でイギリスと交易できるかもしれない。
さっそく、吉清は開拓と植民を行なうべく、開拓班を編成した。
開拓班のメンバーには宇喜多騒動で宇喜多家を追われた、戸川達安、岡貞綱、花房正成をはじめとする宇喜多旧臣を抜擢することにした。
宇喜多での経験豊富な彼らであれば、問題なく開発ができると考えたのだ。
問題は、水軍の不足であった。
木村家の主な水軍はルソン、高山国、石巻に駐屯させているが、最近は情勢の悪化に伴って畿内にほど近い宇喜多領に停泊させてもらっている。
また、南海では広大な領地を守るためあまり数を動かせないことから、現在動かせそうな水軍は全体の一割にも満たない。
また、わけあって石巻の造船所を停止しているため、船の建造ペースは落ちている。
「どうしたものか……」
考えをまとめるべく大坂の町を歩いていると、見知った顔を見つけた。
「おお、長兵衛ではないか。どうしたのじゃ、こんなところで」
目加田屋長兵衛。木村家の黎明期を支えた商人であり、石巻港建設や樺太開発に莫大な協力をしてくれた商人であった。
樺太奉行を正式に蒲生郷安に任命して以降は一介の商人に戻っていたが、畿内に居たとは知らなかった。
吉清の顔を見て、長兵衛が顔を綻ばせた。
「先日、秋田様のところで新たに建造した船の進水式をするとのことで、手土産を用意しに参ったのです」
秋田といえば、大名である秋田俊季の弟である秋田季勝が人質として送られてきていたはずだ。
吉清のところへ人質として送られて以降、景宗船の操船や造船に関して学んでおり、慶長の役が起こる直前に帰国していたと聞いていたが、そんなことをしていたとは。
「季勝様も、秋田領湊で立派に造船や操船に携わっておりました。肝心の船は景宗船の見様見真似とのことでしたが、なかなかどうして見事な出来栄えにございました」
「……………………」
「…………どうかしましたか?」
「それじゃ!!!!」
長兵衛と別れると、すぐさま吉清は秋田家の大名屋敷へ向かった。
「秋田殿! 船を貸してくれ!」
「はい?」
突然押しかけた吉清に混乱しつつ、話を聞いた秋田実季は快く了承してくれた。
秋田実季から船団を借りる約束を取り付けると、吉清はさっそくアラスカ開拓。ひいてはアメリカ大陸進出を開始するのだった。
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