天下の亀裂編

第124話 済州島の行方

 最終的に、日本側は大陸から全面的に撤退することで講和がまとまった。


 明の金門島をはじめ、朝鮮において占領した土地を喪失し、先の戦での加増をあてにしていた大名たちは、多くが財政難に陥ることとなった。


 その中で、大陸から離れていたことで唯一日本側が獲得できた領土があった。


 済州島。その島が、三成の頭を悩ませていた。




 朝鮮でも一二を争う武功を挙げ、済州島を実行支配していた木村清久に対し、小早川秀秋が異を唱えたのだ。


 清久の言い分としては、「小早川秀秋から当家に任せると文を貰っており、それに従った。朝鮮や明の水軍を破った武功を鑑みても、済州島の加増は順当なものである」というものだ。


 また、小早川秀秋としては、「木村清久には管理を任せただけであって、元々全羅道は小早川が治めると決められていた。

 済州島が全羅道である以上は小早川の領地である」とするものだった。


 どちらの言い分もそれなりに筋が通っているだけに、どのような裁定にするか悩ましい。


 そして、木村清久には木村吉清が。小早川秀秋には毛利輝元が後ろ盾となっており、一方を贔屓しては、もう一方に軋轢が生じてしまう。


 なまじどちらも影響力が強いだけに、神経がすり減る思いだった。


「どうしたものか……」


 悩んだ末、事態を重く見た徳川家康と前田利家が仲裁することになった。


 小早川秀秋寄りの立場を示す徳川家康に対し、前田利家はあくまでも中立という立場を取りつつ木村寄りの立場に回った。


 小早川秀秋と木村清久の争いが、いつしか毛利や徳川、前田を巻き込んだ派閥争いに発展し始めた。


 三成を始めとする奉行衆が仲裁に乗り出し収まりを見せたものの、両者の間には大きな溝が残ることとなった。


 最終的に、済州島は小早川秀秋が領有することとなり、木村家には代替地として北庄10万石を加増することとなった。


 裁定を知らされ、吉清はううむと唸っていた。


(また飛び地が増えることになるの……)


 北庄10万石は清久に統治を任せ、済州島を失った埋め合わせとして清久に海南島を与えることにするのだった。






 済州島の開発にかなりの力を注いできただけに、清久の落胆は大きかった。


 普段はしゃんと背筋を伸ばしている清久が、今日は背を丸め、目にはくまを作っていた。


「父上、それがしは悔しいです……。せっかく丹精込めて済州島を開発したというのに、小早川秀秋にすべて持っていかれるなんて……」


「まあ、その……。気を落とすな。慰めにならんかもしれぬが、海南島はお主の直轄地として構わぬから、な? 元気を出せ」


「……しかし父上、済州島には造船所を建設しましたゆえ、放置しておけば小早川家に技術が漏れてしまいます」


「なに!?」


 それを聞いた吉清は、済州島の代官に急ぎ使者を送った。


 済州島を引き渡すにあたり、ガレオン船の技術が流出することを恐れた木村家は、建設した造船所をすべて破壊することにした。


 これに怒ったのが、小早川秀秋であった。


 自分に引き渡される予定の土地から木村家の建てた施設が撤去されるのだから、秀秋にとって、嫌がらせ以外の何物でもなかった。


 抗議をする小早川秀秋に対し、木村家は無視を決め込み、これ以降、小早川家と木村家は険悪な関係となるのだった。

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