第120話 清久視点

 清久は水軍を率いて朝鮮までの補給路を確保しつつ、明・朝鮮水軍の撃破を命じられていた。


 狭い水域や入江に潜む倭寇を狩るのは、木村家の得意技である。


 同じように、入江に潜み、小島に身を隠す水軍を見つけては、地形が変わるほど砲撃をして、くまなく朝鮮水軍を撃滅していく。


 しかし、思ったほど朝鮮水軍は打撃を受けているようには見えなかった。


 掃海したはずの海域から朝鮮水軍が出現すると背後を取られ、あるいは輸送船が襲われていく。


 どうも様子がおかしい。


 清久は家臣を集め、意見を募ることにした。


 藤堂高虎、梶原景宗らが集まると、清久はさっそく本題を切り出した。


「朝鮮水軍は、どこに潜んでいると思う?」


 清久の問いに答えるべく、藤堂高虎が地図を広げた。


「思うに、済州島に潜んでいるのではないかと……。あそこは朝鮮本土から離れており、開発は進んでおりませぬ。しかし、逆に言えば、開発されていないからこそ、領土としての旨味も低く、侵攻を受けにくいゆえ、軍を潜ませるには適しているのではないかと……」


 地図に指を差したところを見ると、たしかに日本軍が制圧していない島があるのがわかる。


「……では、済州島を制圧するか」


 うまく行けば、済州島以東の海域を平定させられるかもしれない。


 期待に胸を膨らませ、清久は軍を進めるのだった。






 清久軍は済州島に夜襲を仕掛けると同時に、主だった港を占領した。


 また、沿岸部を徹底的に捜索すると、朝鮮水軍を撃破し、島内に潜む朝鮮水軍を完全に駆逐することに成功したのだった。


 戦果を知らせるべく、清久は遠征軍の総大将である小早川秀秋に文を送った。


 返書には、清久の武功を褒めると共に、済州島については木村家に任せるとの旨が書かれていた。


 清久は港の修繕や改築を行なうと共に、対朝鮮、対明への前線拠点となるよう、手を加えていく。


 そうして拠点を構築すると、明・朝鮮水軍への攻勢を強めていった。


 朝鮮水軍を壊滅させ、明水軍に大打撃を加えると、清久軍は黄海を越え明の沿岸部を襲撃した。


「よし、火をかけろ!」


 一斉に放たれた火矢が、明の港町を襲う。


 混乱に包まれる中、倉庫と思しき蔵を襲撃すると、蓄えられていた兵糧に火をつけた。


 港町が火に包まれる中、水夫と思しき家臣が清久を呼びかけた。


「若! こっちに財宝がありますぜ!」


「なに?」


 やってくると、豪商の蔵だろうか。立派な建物に財宝の山が手つかずで眠ってた。


 あまりの光景に、思わず生唾を飲み込んでしまう。


 文禄の役の頃は、吉清に「ただの賊と変わらない」となじったが、同じ状況に立たされると、たしかに財宝の誘惑は強い。


(あれだけあれば、当家はさらに潤うな……)


 それだけではない。財が流出するということは、それだけ明を経済的に弱らせられることを意味している。


 血を流すことなく自国を富ませ、敵を貧させるのであれば、戦として上出来と言えるだろう。


 そう自分に言い聞かせると、清久は家臣たちに大声を出した。


「ありったけ持っていけ!」


「はっ!」


 清久の命に従い、水夫たちが次々と船に積み込んでいく。


 大した労苦もなくこれだけの財を手に入れられるのであれば、たしかに吉清がハマってしまうのもわかる話だと思うのだった。






 朝鮮沿岸の制海権を完全に奪われた明は、朝鮮に支援を送ることが難しくなり、朝鮮への援軍も散発的なものに変わっていった。


 また、襲われた明国内の港の修復も目に見えて遅くなり、明側は海戦による決戦を避けているように見えた。


 制海権を失い、執拗に夜襲や奇襲を仕掛けてくる木村軍に明は疲弊し水軍の多くを喪失することとなった。


 目立った抵抗が見られなくなると、木村水軍は我が物顔で明沿岸部を航行するようになった。


 多くの港が襲われ、資源を略奪されていく。


 その様子に、明は対策をするでもなく、臭いものに蓋をするように、対応が目に見えて遅れていった。


 海戦において、日本軍は明と朝鮮を相手に事実上勝利を収めたのだった。


 海上に主だった敵対勢力がなくなると、清久は兵站の輸送に専念すると共に、制海権の維持と占領した済州島の整備を進めていった。


(これだけの武功を挙げたのだ。褒美として、そのまま済州島をもらってもおかしくはないからな……)


 これからこの島が領土に加わるのだと胸を踊らせ、清久は開発を進めるのだった。

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