第105話 海南島侵攻
海南島制圧軍の総大将は清久を任命し、軍団長には四釜隆秀、一栗放牛、南条隆信、小幡信貞を任命した。
さらに、その下には武勇に長けた中山照守、建築や治水に長けた川村重吉を配置した。
そして、まだ経験不足の清久の補佐には、藤堂高虎を任命した。
それぞれの軍団長には兵500を配し、総大将の清久には1000の軍を預けた。
総勢3000あまりの遠征軍である。
吉清の話によれば、この戦は異民族や他の倭寇たちを従える、来たる明征伐の前哨戦であるという。
後顧の憂いをなくし、近海に安定をもたらしてこそ、始めて明征伐が行えるのだそうだ。
そう聞くと、珍しく前向きな遠征のように思えてしまうが、吉清のことだ。きっと何か裏があるに違いない。
高山国を出発した清久軍は、明の沿岸部を通りながら海南島へ進軍を続けた。
道中、倭寇を成敗し、あるいは臣従させながら進軍を続けると、海南島の東側に上陸した。
上陸早々に港を建設すると、軍の兵站を維持するべく、高山国、ルソン島を三角形に結ぶよう航路を作ることにした。
倭寇たちを吸収して膨れ上がった軍を維持するべく、沿岸部に港町も築いていく。
この地は明にとっては化外の地であり、長らく放置されてきた土地だ。
「化外の地と言うからには、我らが占領しても文句は言われまい」
しれっと領有権を宣言する清久を、四釜隆秀が驚いた様子で見つめていた。
「……どうかしたか?」
「いえ、まるで殿のようなことを仰るものでしたので……」
「……そうか」
思えば、吉清が躍進する契機となったのは、先の文禄の役で高山国を制圧し、その大部分を領地としたことに始まる。
その時とは多少条件は変われど、今自分がやっていることも、吉清とそう変わらないということだ。
気質は違えど、自分も父の歩いた跡をなぞっているようで、なんとも感慨深いものがある。
頬を綻ばせると、清久は制圧を続けるのだった。
港の建設を進める傍ら、海沿いに街道の敷設を進め、海沿いにあるという倭寇の拠点に攻撃を仕掛けた。
夜襲をかけられた倭寇たちは慌てて反撃を始めた。
「倭人襲来!? 何故!? 超長距離移動!?!?!?」
「想定外的奇襲攻撃! 卑怯者!」
「敵強者多数有! 我逃亡!」
倭寇の砦を陥落させると、捕えた倭寇たちは木村軍の配下として水夫をやらせるか奴隷として売り払い、あるいは次の倭寇の拠点へ侵攻する際の尖兵に仕立て上げた。
そうして沿岸部に勢力を拡大していき、さらに拠点とするべく新たな港の建設を行なう。
島内の倭寇を殲滅し、海沿いをあらかた支配すると、次は内陸部を平定し、田畑を作る段階だ。
最終的には高山国のように島だけで自給自足できるよう開発していきたいのだが、いかんせん時間がかかる。
港の普請に携わる傍ら、藤堂高虎は嘆息していた。
「殿から渡された軍資金は1万貫……。兵站を維持し、港を建設するにも銭がいる……。諸々を考えると、無駄使いはできないな……」
一貫で2.5石だとすると、2.5万石。一大名が遠征に使う費用としては多い部類だが、やることが多いだけに余裕があるとは言えない。
藤堂高虎が頭を悩ませていると、総大将の清久がやってきた。
「それなのだが、海南島を制圧したとの報を送ったところ、父上は大変喜ばれ、もう10万貫出すと……」
「じゅ、10万貫!?」
一貫で2.5石だとすると、25万石もの大金である。ちょっとした国持ち大名の国家予算を、即決で送ると決めたのか。
改めて、木村家の規格外の財力に目眩がする。
足元がおぼつかなくなった藤堂高虎に、清久は遠慮がちに声をかけた。
「それで、これだけ金があるなら、一つやってみたいことがあるのだが……」
海南島の東西南北に築いた港町──海東、海西、海南、海北があらかた形になってくると、清久は各地から商人を呼び寄せた。
日本からやってきた商人のみならず、華僑の商人、イスラム商人などが集まると、清久は高らかに宣言した。
「東西南北の町、それぞれに1万貫の予算を与えるゆえ、各々期間内に町を発展させよ。最も発展させた者には、この地の商いを取り仕切らせる!」
今後、この地は明との戦争の最前線となる。そうなれば、軍需物資の供給だけで得られる利益は莫大なものとなり、略奪品の買い取りでも相当な利益が挙げられる。
清久の宣言に商人たちは奮起し、先を争って町の発展に注力した。
新たな建物が次々と立ち並び、建築間もない港とは思えない活気を見せる町並みを眺め、藤堂高虎が感心した様子であごを撫でた。
「ほう、考えましたな……」
商人たちが町を発展させれば、自然と町の規模は拡大していく。
街の規模が大きくなり、物流が盛んに行われるようになれば、兵糧などの物資の調達が行いやすくなる。
また、有力商人に町の代官を任せれば、清久率いる遠征軍は内地の開発に専念できるようになる。
それを見越して商人を招致するとは……。
「若様の将来が、今から楽しみですな」
内地の開発に自ら陣頭指揮を取る清久を見つめ、藤堂高虎は胸を高鳴らせるのだった。
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