幕間 1595年 木村家評定
文禄4年(1595年)、京の屋敷に重臣を集めると、年始の挨拶と報告をさせていた。
筆頭家老であり、石巻奉行、銀札奉行を兼任する荒川政光が報告した。
「石巻では銀札のおかげもあり、港の増築と町の普請が進んでおります。葛西衆が軒並み領地を離れたことも大きいでしょう」
木村家の沿岸部を治めていた旧葛西家臣──通称葛西衆が幅を利かせており、新たに家臣となった荒川政光ら小田原衆と対立していた。
そこで、吉清の策略で木村家各地へ飛ばされ、現在は領地を離れて仕事を行っている。
彼らが不在となった今、開発に障害がなくなって石巻の発展も加速しているのだという。
「また、新たに召抱えた川村重吉に掘割を任せておりますが、よく働いてくれています」
「ほう……」
大道寺直英の推薦で登用したが、なかなか優秀らしい。
これならば、そのうち代官や奉行を任せてみてもいいかもしれない。
樺太奉行の目加田屋長兵衛が報告した。
「樺太では現地のアイヌとの交渉が進み、樺中、樺北といった町の建設が進んでいます。されど、冬になれば海が氷に閉ざされ、雪で陸路も途絶えるのが難点にございますが……」
「そればかりは仕方がないな」
町の開発と共に、アイヌの反乱に備えて町の要塞化や軍の派遣も進めなくてはならない。
軍を維持するにも金がかかり、海が閉ざされれば兵站の維持も難しい。
やはり北へ行くにつれ、開発は難しくなっていくか……。
「樺中の代官は木村宗明殿が、樺北の代官は蠣崎行広殿が行なっておりますが、両名ともによく治めております。当面はアイヌの反乱が起きる兆しもありませぬゆえ、まずは一安心かと」
長兵衛の報告に、吉清は満足気に頷いた。
木村宗明は吉清のいとこで、前田利長の小姓をやっていたところを引き抜いたのだ。
前田家で世話になっていただけのことはあり、優秀な働きぶりである。
与力大名から送られてきた人質も労働力として(こき)使っているが、中でも松前家から送られてきた人質である蠣崎行広の働きが目覚ましかった。
人質とはいえ優れた成果を残すのなら、吉清の娘を嫁がせるのもいいかもしれない。
(まあ、問題は儂に娘がおらぬことだが……)
とはいえ、まだ人質として日も浅いというのに娘を嫁がせるなど、流石に早すぎるか。
自嘲しつつ、高山国の報告に上がった、小幡信貞の話に耳を傾けた。
「高山国では台北、台中を中心に開墾を進めております」
小幡信貞の広げた地図を眺める。
たしかに台北、台中、沿岸部から広がるように農地が増えている。
だが、広大な平野の広がる高山国西部は半分も開墾できておらず、東部に至ってはほぼ手付かずである。
「温暖な気候ということもあり、二毛作、三毛作を行えるゆえ、農地の広さに比べて豊かな地にございます。
先ごろ検地を行なったところ、30万石相当の収穫が見込めます。三毛作もするとなれば、さらに収穫も増えましょう」
「高山国全域の広さは九州と同じくらいだったな」
九州全体の石高は、およそ240万石であるため、多少の差異はあれど開発し尽くせばそれくらいの石高は見込めた。
「はっ、亀井様が南部を治めておられるため、当家は3分の2を治めておりますゆえ、最大160万石ほど見込めましょう」
これでも開拓は順調に進んでいる。
ただ、来たる慶長の役、天下分け目の関ヶ原の戦いを前に、最大限の力を蓄えておきたい。
「内陸部にも植民を進めていくか」
「かしこまりましてございます」
西側の内陸部に住民を送り込みつつ、道や建物の建設を進めていくとして、問題は東側であった。
最初に建設した町が、西側の平野に面する台北、台中、台南であっただけに、開発もそこを中心として行われていた。
そうなると、東側の開発がどうしても遅れてしまう。
開発ができるだけの金はあるが、そこを任せられるだけの人材が不足している。
「これも何とかせねばな……」
開発のさきがけとして、沿岸部に漁村を建てていくことにするのだった。
高山国での問題と開発方針をまとめると、マニラ奉行補佐の原田喜右衛門が報告した。
「ルソンでは反乱こそありましたが、よく治めております。
松倉重政も垪和殿の信頼厚く、現在は新たに造られた日本人町の代官を任されております」
「おお、やはり優れた者であったか」
「ただ、たまに現地のキリシタンと争いというか、喧嘩をしているとのことです」
「まあ、それくらいは可愛いものよ」
史実で苛烈なキリシタン弾圧を課したことで島原の乱の原因を作ったことなど知らず、吉清が快活に笑った。
「それと、大友家の家臣が実によく働いており、大友家が大名に復帰した後も是非当家で召抱えたいとのことにございます」
マニラ奉行の垪和康忠がそこまで言うということは、ルソン統治になくてはならないものになっているらしい。
改易された大友家の旧臣を召し抱えることに成功しているが、現在大友義統に付き従っている家臣たちは木村家の札束攻撃になびかない剛の者たちである。
そんな彼らを籠絡するとなると、一筋縄ではいかなさそうだ。
ううむと考え、吉清が手を打った。
「……そうじゃ、婚姻じゃ! 大友家の家臣と婚姻を進め、当家の家臣と縁続きにしよう。
これだけ義理堅き者たちじゃ。縁者の頼みとあらば無下にはすまい」
「わかりました」
吉清の命令に、原田喜右衛門が頭を下げる。
使えるものなら何でも使う。大名らしく頼もしい一方、誠意を尽くした説得をしないあたり、実に吉清らしいと思うのだった。
そうして、新たに召抱えた川村重吉や松倉重政、親戚の木村宗明を郡代や代官、城代に任命しつつ、徐々に木村家の支配構造に組み込まれていくのだった。
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