第20話 文禄の役

 京都、聚楽第。

 天下統一を成し遂げた秀吉は奉行衆を集めると、次の目標を宣言した。


「明へ攻め込むぞ」


 普段は冷静な三成が珍しく狼狽した。


「お、お待ちください! 現在、明とは友好的な関係を築いており、戦をする理由などございません。どうか、いま一度お考え直しを!」


「治部の言うとおりです。日ノ本は未だ統一を果たしたばかり……。まずは国内の開発をするべきかと」


 自分に意見した三成と吉継を、秀吉がじろりと睨む。


「わしの言うことが聞けぬと申すのか?」


「いえ、そのようなことは決して……」


「ならば、すぐに支度せい!」


 いきり立つ秀吉を、小西行長が制した。


「お待ちください。まずは降伏の使者を送ってみてはいかがでしょうか」


 明らかに秀吉を思いとどまらせるための、時間稼ぎを意図した提案だったが、秀吉は間に受けたらしい。


「そうだな。そうしよう」


 機嫌を良くした秀吉に、三成や吉継は頭が痛くなった。


(そんな話……)


(誰が受け入れるというのだ……)




 数週間後。明から返書が届いた。


 曰く、


『何寝ぼけたこと言ってんだ? 普通、立場逆だろ? むしろそっちが朝貢するんなら認めてやってもいいけど』


 とのことである。


 返書を手にした秀吉がわなわなと震えた。


「……これはわしを侮辱しておるな」


 返書を破り捨てると、顔を真っ赤にした。


「三成! 兵を出せ。明王の首を獲ろうぞ!」


 こうして、全国の大名に明征伐の号令が出された。


 世に言う文禄の役である。




 侵攻計画を練るべく、奉行衆で会議が始まった。


 三成が呆然とつぶやく。


「大変なことになった……」


「殿下は明へ攻めろと仰せか。あまり大声では言えぬが、殿下ももう歳……。耄碌されてもおかしくないな……」


「口を慎め、刑部。どこで聞き耳を立てられているかわからぬぞ」


「明まではどう攻めますかな? 朝鮮から攻めますか」


 小西行長の問いに、三成が地図を広げた。


 西日本、中国大陸、台湾まで入った、東アジアの地図である。


 大坂から北九州を経由し、朝鮮まで指でなぞった。


「明までの行軍経路は朝鮮、黄海、高山国たかさんこくが考えられるが、一番現実的なのが朝鮮からの侵攻だ。

 対馬を経由し、朝鮮を制圧しながら陸路で進軍する。現地で略奪をすることも考えれば、兵糧の不安も少ない。


 黄海を経由し沿海を通るのだとすれば補給線が長くなりすぎる。沿海部を通らず近海通ったとしても、兵站が寸断されることも考えると、楽観視できない。

 何より、船で移動する時間が長くなるほど、大軍を移動させるのは難しくなる。


 高山国へは一度外洋に出なければならず、

 大軍を送るにはあまりにも航路が長すぎる」


 一通り説明する三成に、吉清が口を挟んだ。


「されど、高山国は沿岸部を倭寇が占拠しているだけですので、制圧自体は難しくないかと。朝貢もしておらず、明の支配地域でもありませぬゆえ、明からの援軍も来ますまい」


 史実でも、倭寇の拠点となって以降、スペイン、オランダの拠点になったりと、ヨーロッパのアジア進出の重要な足がかりとなった。


 スペインは元より、オランダは人口の少ない国である。


 人的リソースが少なく、地球の裏まで兵を送るコストも馬鹿にならないというのに、あっさりと高山国──現在の台湾は制圧できてしまった。


「ただ、内陸部では首狩り族がいるとのことで、注意が必要だ。

 高山国全土を支配する勢力もなく、稲作も進んでおらぬゆえ、兵站にも不安がある。港や街道も一から造る必要があろうな」


 もっとも、それは制圧したらの話だが。


 一通り話を聞いて、大谷吉継が頷いた。


「では、高山国の侵攻は木村殿に任せて、我らは朝鮮侵攻の計画を立てるとしよう」


「えっ、それがしが!?」


「これほど高山国の事情に精通している者も、そうはおるまい」


 浅野長政も吉継に同調する。


「聞くところによれば、北蝦夷島に兵を送り、またたく間に港を造ってしまったとか。木村殿こそ、まさに、今回の役目にうってつけではないか」


 三成が頷いた。


「では、高山国の侵攻は木村殿に任せるとしよう」


 こうして、吉清は高山国──現在の台湾の侵攻を任されることになるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る