136話

褒賞式も滞りなく終わり通常の日常がやってきた。


通常の日常とは言え中央大陸に向かう期間を考えれば一ヶ月もない。


中央大陸の港の都市の情報がほとんどないため万全の準備をする予定だ。


準備に関してだけ言えば、アイテムBOX(強)の固有スキルは非常に有り難かった。


日常品、食料、消耗品など様々な物を買う予定だ。装備に関しても妥協しないと今回は決めている。お金はいままで貯めてきたお金に今回の報酬を加えればかなりの金額になるので仲間の装備も含めて全部一新するくらいの気持ちである。


それもそのはず、今回の戦いで装備一つが命の危機を救う状況を嫌と言うほど見てきたからだ。


さらに装備に関しては、褒賞で精霊の装備を一つ、Sランク冒険者として宝物庫から2つの装備を貰えることになっている。


日常品などを買いあさり準備の日々を送っていると王城に来るように伝えられた。


もちろん今回は事情がわかっているため気楽に向かったのだが…。


応接室に通され中に入った瞬間にアスランは執事が持っている扉のドアを引きそっとドアを閉めた。


それもそのはず、装備の件と思い楽しみに来たのだが、応接室の中には鬼の顔をしたエリーナがいたからだ。


アスランは深呼吸をして再度扉を開け、声をかけた。

「エリーナ、元気にしてた?」


「元気にしてたじゃないわよ。それに何で一度扉を閉めたのよ」


「そ、それは…、エリーナが凄い恐い顔をしていたから…。」


「こんな顔をさせたの誰のせいよ?」


アスランはまったく見に覚えがないため不思議そうな顔をしている。


「はぁ、なんで気付かないのよ…、バカ」


エリーナが涙目になりながらアスランに訴えかける。


アスランはエリーナを抱きしめながら謝った。


「ご、ごめんね。いざ恋愛の事となると疎くて」


エリーナは抱きしめられたことで機嫌を直した。


「私達って婚約者になったのよね?」


「そ、そうだね」


「アスランは中央大陸に行くのよね?」


「そ、そうだね。」


「なのに婚約者に何も言わずに向かうつもりだったの」


アスランはようやく怒っている内容が分かった。


「本当にごめん。中央大陸のことで頭がいっぱいで…」


「そうだろうと思ったわ。契約魔法でお父様から聞いてビックリしたわよ」


「俺もこんなことになると思ってなくて…、パレードや褒賞式が終わってパーティメンバーのことで頭が固くなっていたよ」


「やはり私じゃアスランの奥さんには相応しくないの?」


エリーナは泣きそうになりながらアスランを見つめる。


「そんなことないよ。エリーナはとても魅力的でいつも元気なエリーナを見てこっちまで元気になるし」


「本当?私はエミリアよりも魅力的?」


アスランは言葉に詰まりながらも返答する。


「エ、エリーナにはエリーナの魅力があるし、エミリアにはエミリアの魅力があると…」


エリーナはアスランの言葉で確信した。


「ごめんね、試すようなことして」


「え、なにが?」


「本当はアスランがエミリアのことを気になっているのは知っていたんだ」


アスランは驚きを隠せないほどの衝撃を受け、目を見開いている。


「そ、そんなことは…」


「私に気を遣わなくていいの。知った上で私はアスランに告白したんだから。でもね、私もちゃんと愛してね」


「え、それはどういう意味?」


「私とエミリア二人とも大切にしてってこと」


アスランは未だに状況を掴めていない。確かにアスランはエミリアに惹かれていたのは事実だが、エミリアとは付き合ってすらいないのだから。


アスランが困惑している中、物陰から一人の女性が現れた。


アスランはその姿を見てようやく理解した。


「アスラン様、貴族のお披露目会の時は気になる程度でしたが、学生時代で共に過ごす内にいつしか心を奪われていました。ずっとずっと好きでした私とも婚約して下さい」


エミリアは目をつむり、祈りを捧げるように顔をだした。


アスランはエミリアとエリーナを交互に見る。


そんなアスランにエリーナが声をかける。


「貴方は今や英雄よ。英雄ともなれば一人や二人の奥さんなんて当たり前よ。それに私はエミリアなら協力してアスランを支えられると思っているの。だから、私に気を遣わずOKならエミリアに口づけしてあげて」


エリーナの言葉でアスランは決心した。


「学生時代、僕も清楚で天真爛漫なエミリアが大好きでした」


アスランはエミリアに近づいた後、優しくキスをした。


エミリアは唇に温かな感触が伝わった後、顔を真っ赤にさせながらアスランに抱き着いた。


辺り一面が花が咲き誇ったようにホンワカした空間が二人を包み込んだ。


その空間をぶち破る存在が一人だけいた。


「ゴホン。あ、あの私もいるんだけど、てか私は口づけさえまだしてもらってないんだけど」


「エリーナ、先にごめんね」


「いいのよ、先に告白することを許してくれたエミリアには感謝しているもの」


「あの、まったく展開がわからないんだけど…」


「アスランはわからなくていいの」


「アスラン様、中央大陸に行く前にエリーナとデートをしてあげて…、素敵な夜景を見ながらロマンティックにキスをして上げて下さいね」


「なんかハードルが高くなってない?」


エミリアの言葉を聞いてエリーナは嬉しそうにしている。


そして、三人で今後の話をしていると、ベルトラン王が入ってきた。








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