顔合わせ

始業式ではクロード様が挨拶をしていた。ものすごく遠くからだったが、本人を見ただけで緊張してしまった。話の内容はほとんど入ってこず、気がついたら式は終わっていた。もうすぐ顔合わせの時間だ。


ペアの顔合わせは人数の関係で、学園内の講堂や聖堂に分散して行われる。私はアメジジスト講堂に集合となっていた。


講堂の入り口前には受付があり、ボランティアの腕章つけた学生が案内を行っていた。そこで座る場所を案内してもらえるようだ。


「顔合わせに来ました。リリー・ヴァンスです」


「はい、確認いたしますね。……あーあなたがクロード様の。えと、D-6と書かれた場所でお待ちください」


心なしか皆から見られている気がする。そわそわしながら中に入ると、白のパーテーションで区切られたスペースにA-3とかC-7とか書かれていた。D-6と書かれたスペースに入ると、テーブルと椅子が置かれていた。まだクロード様は来ていないようだった。


ふぅーっとため息をついて椅子に座る。通知を受けた日から今日まで、あっという間だった。何かの間違いかもしれないと事務局に確認の連絡をしたり、父さんに幻術解除の魔法をかけてもらったりと、迷走している間に今日になってしまった。


……まあ迷走の結果、クロード様とのペアは、間違いでも幻術でもなかったという事実だけが残ったのだけれど。




「D-6ってここか」


ぼんやり座っていると、突然声が聞こえてきて身体がビクッとなった。振り返ると、クロード様が立っていた。こんなに近くで見るのは初めてだ。黒髪だと思っていたが、近くで見ると紫がかっている。鋭い瞳は銀色をしていた。本当に絵画みたいに整った顔だ……と横顔を見ながらぼんやり思った。


「はじめまして、リリー・ヴァンスです。よろしくお願いします。」


ぼーっと眺めている場合じゃない。慌てて挨拶をすると、クロード様はふっと微笑みながら正面の椅子に腰を下ろした。


「クロード・ギリブランドです。よろしく、リリー」


まっすぐ見つめられて、思わず下を向いてしまう。緊張で全身から汗が噴き出てきた。本人にその気はないのかもしれないけれど、威圧感がすごい。魔力量の差を本能が感じとって、身体が勝手に逃げ出そうとしてしまう。


ギュッと目を瞑るリリーの様子に気がついたのか、クロードが何かを詠唱する。その瞬間、威圧感が消え、魔力を一切感じさせない雰囲気に変化した。リリーが恐る恐る前を向くと、クロードは申し訳なさそうに笑っていた。


「ごめんね、僕の魔力が少し鬱陶しかったね」


「と、とんでもないです。私こそ失礼しました、クロード様」


「じゃあ始めようか。僕のことはクロードって呼んで。同じ学生なんだし」


そう言いながらクロード様……じゃないクロードは、顔合わせ用の書類をペラペラとめくる。私がもらった書類よりも随分と量が多い。やはり先輩側の方が色々と大変なようだ。


「今日提出しなきゃいけないのは、ペア確定書だけだからサクッと書いちゃおう。はい、コレ」


渡された書類にはペア確定書と書かれており、既にクロードのサインが入っていた。これにサインしたら、もうペアとして確定してしまう。私とペアなんて組んだらクロードにも迷惑がかかるのに……


「あのっ、確定書の提出は一旦保留に出来ないでしょうか。クロードも私なんかとペアじゃ……」


勇気を出して絞り出した声は、小さく、涙声になってしまった。相性の不安だけではなく、相手に不相応な自分の惨めさに涙があふれてきた。慌てて下を向いて涙を隠す。

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