第5話 意外と筋肉、仕事してる
人が一気に増えたので、ちょっとした人物紹介(第4話までのネタバレ含む)
↓ ↓ ↓
★伊藤(いとう)
本作の主人公。
外見は普通で平凡(顔は良くも悪くも無い)だが、内向的な性格が災いしてインキャボッチ。
現在両足骨折中。
パニクるとアホになる。
本当は結構毒舌&ツッコミキャラだが、ボッチを拗らせているお陰で口には出さない。
★小林 絵里沙(こばやし えりさ)。
初日1番に絡んできた女の子。
好奇心旺盛&人懐っこい善良な子なので、誰とでもすぐに仲良くなれる。
その上容姿も良いので、学年中の生徒が知っているくらいには目立つしモテる。
異性同性に関わらず、無防備に物理的距離が近いが、本人はその事に気付いていない。
★ 神崎 美里(かんざき みさと)
絵里沙の友達。
伊藤には何故か辛辣だが、それには一応理由がある。
自分の言葉がブーメランだったり、思った方がすぐ顔に出たりと意外に迂闊な所はあるが、自身の失言を自覚できる素直さもあり、悪い子ではない。
★織田 恭平(おだ きょうへい)
絵里沙と美里の友達で、伊藤の車椅子を席まで強制連行した男。
イケメンなのでモテる。
いつも眠そうで一見するとボーッとしているが、意外と分からない事(伊藤の名前とか)は本人に何の遠慮もなく聞いたりもする。
――――――――――――――――
つい4日前にわざわざ名前聞いておいて、忘れるなんてちょっと酷い。
否、そもそも夏休み明けなのに未だにクラスメイトの名前が浸透してない時点で既に酷いが、それについては目立たないボッチな俺だ、仕方が無いという自覚はある。
(それにまぁ、意味も分からず噛み付いてくる神崎よりはよっぽどマシだ。別に悪気がある風でも無いし)
そう思ってハタと気が付く。
あれ?
悪意を持って間違えられるよりもよっぽど悲しいなコレ。
「おはよう、田中」
そう言った織田の目はやっぱり眠そうだったけど、悪意なんて微塵も無い。
さっきの小林さんも、今の織田もそうだが、ついこの間まで教室の隅で隠れるようにボッチで居た俺の事を、まるで忘れてるかのようだ。
だからこんなにもスムーズに俺に挨拶なんてしてくれるんだろうけど、俺からしたらそんなのは紛れもない非日常だ。
取り繕ってはいるものの、内心ドキドキバクバクで主に心臓が忙しい。
具体的に言うと、もしかしたら俺の死因は緊張による心臓の過労になるんじゃないのかってくらい、忙しい。
とりあえず返さないのも何なので小さな声で挨拶を返したが、声が出なくて「……よ」ってなってしまった。
(本当はちゃんと「おはよう」と言いたかったのに……)
そう思えば、挨拶一つクラスメイトにできない自分に落ち込んだ。
そもそも名前間違えられるし、その上挨拶も出来ないとか、マジ情けない。
そう思った時だった。
優しい声に、救われる。
「ちょっと恭平、田中くんじゃなくて伊藤くんだよ」
そう言った彼女は、こんな俺にも申し訳なさそうに「ごめんね」と言って謝った。
小林さんだ。
別に彼女が悪いわけじゃないんだから、謝る必要はない。
そんな風に思う一方、名前を知ってもらえていた事実に心の奥が何やらフワリと暖かくなる。
不安がな彼女の瞳に耐えられなくなって「……別に」と返せば、明らかな安堵に口元が綻んだ。
そんな彼女に、反射的に俺の頬も上気したのを感じ取る。
照れ隠しに視線を逸らせば、今度は織田と目が合った。
相変わらずの眠気まなこだし、変わらずの無表情だ。
それなのに何故かちょっと不機嫌そうな気がするのは果たして気のせいだろうか。
「……言えよ、すまん」
物申した直後に謝るとか器用なヤツだなと思う一方、そんな難しい注文すんなよとも思う。
だって、まさかこの俺が人に「俺、田中じゃないし」とか言える筈ない。
「……ごめん」
どうして良い分からなくて取り敢えず謝ると、織田は微かに間違えて変な物でも飲み込んだかのような顔をする。
(何だコイツ。表情ワンパターンだと思ったけど、意外と筋肉仕事してるんだなぁ)
何となしに、そう思った。
そんなこんなしている内に、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴り始める。
織田も小林さんも神崎も、みんな先へと戻って行って、扉が開いて教師が入ってくる。
と。
「セッ、セーフ!」
チャイムが全てならからギリギリで、バンっという音と共にそんな声が滑り込んだ。
見ればそこには、あの日俺に絡んできた最後の1人、洞島 翔太(どうじま しょうた)の姿があった。
「ギリギリにしてもギリギリ過ぎる。早く席つけー」
教卓で出席名簿を開きながら担任が言う。
洞島の滑り込みはいつもの事なので、教師も生徒もみんな特に気にしない。
「いやぁー今日朝練でさぁ、ボールがフェンス越えちゃって。んで、追っかけてたら――」
「後で話せー」
席につきながら言い訳の様な何かを話を隣の席にし始めた洞島を、教師はまた間伸びした声で注意した。
するとまるでいたずらが見つかった子供のような顔つきで「やべっ」と言って彼は笑う。
やはりそれもいつもの事なので、周りも少し笑っただけだった。
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