第50話 魔法はイメージだ!

[まえがき]

誤字報告ありがとうございます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ダンジョンらしからぬダンジョンから出た俺はタートル号に戻って、


「ダンジョンに入ることはできたんだが、入った先は10メートル四方の何もない石室だった。兵隊たちが見張っていたダンジョンが石室一つだけということはありえないから、何かを見落としていると思う」


「不思議ですね」


「まったくだ。

 少し早いが、今日はこれくらいにして屋敷に帰ろう。

 リサも気疲れしたろうから、今日の夕食は以前リサに案内されたしゃれた店にいこう」


「ご主人さま、今からなら夕食を作る時間は十分あります」


「リサは朝から晩まで毎日働いてるわけだから、たまにゆっくりしなよ」


「ご主人さま、ありがとうございます」


 そう言ってリサは頭を下げた。そしたらいつものように子どもたちが俺のことをヨイショし始めた。


「ね。ご主人さまって優しいよね」「わたしたちいいご主人さまに買ってもらって良かったね」「イオナなんか足まで治してもらったものね」「うん。ご主人さまに感謝してる。絶対にこのご恩は忘れない!」


 その後小声で、


『でも一番はアイスかも』『『いえてる』』


 子どもならそんなものだろう。だが、この子たちのうち一番年上のオリヴィアは14歳。もう4年もしないうちに俺のところから巣立っていくのだろうから、ここの生活がもう少し落ち着いたら、手に職を持てるようなことを考えた方がいいな。




「街の中までは車で乗り入れられないから、ここから転移で屋敷に帰ってしまおう。

 みんな車から降りてくれ」


 全員が車から降りたところで俺はタートル号をアイテムボックスに収納した。タートル号のボンネットは妙な体液がかかってかなり汚れていたので、素材ボックスいきだ。そのものが素材となるので、次に錬金工房でタートル号2号車を作るときは1号車以上に簡単なはずだ。


「みんな、俺の手を持ってくれ」


 6人が俺の手を持った。華ちゃんとリサは遠慮してか俺の手首あたりを持つのだが子どもたちはそれぞれ俺の手というか指を数本ずつ握ってくれる。


「それじゃあ、屋敷の居間に転移!」



「みんな身体が汚れたろうから、手足を洗ったほうがいいな。

 風呂はどうしようか。

 まだ夕方までにはだいぶ時間があるから風呂にするか」


 俺は風呂の準備をしてそのまま先に入った。


 その後子どもたち4人が入り、最後に華ちゃんとリサが風呂に入った。その都度俺はお湯の準備をしている。風呂屋のカマド番だな。


 全員がフロから上がり、居間で寛いでいたら、頭にタオルを巻いた華ちゃんが、


「ヘアードライヤーが欲しいけれど、あれって温かい風を送っているだけだからウィンドカッターなんかよりよほど簡単なはず。魔術でなんとかできないかな?」とか言いだした。


「華ちゃん、魔法はイメージだってよくラノベなんかに書いてあったぞ。作者の空想の産物が本当に当てはまるとは思えないが、俺も興味があるから試してみてみないか?」


「やってみます」


「間違ってもウインドカッターを自分の頭に向けて飛ばすなよ」


「自信ないから、最初は窓の外に向かって試してみます」


 いままで閉まっていた鎧窓を上にげて華ちゃんが右掌を外に向けた。そして、


「ヘアードライヤー!」と、口にした。


 魔法の名まえがヘアードライヤーでは少々締まらないが、そもそも髪を乾かすというイメージが大切だという理由を考えれば、イメージ通りの名まえを付けた方がいいのだろう。


 俺から見る限り、何かが起こっているようには見えないが、空気の動きはもとより見えないものだし、ヘアードライヤーのファンの音がヘアードライヤー魔法で再現されてはいないはずなので、後ろから見ているだけでは魔法が発現したかどうかはわからない。


「ちょっとだけ温かい風が出てます。もう少し強くなるかな?

 あっ! 強くなった。

 岩永さんの言った通り魔術はイメージで作れるみたいです!」


「そいつは良かった」


 思い付きで言ったまでだが、効果があったことに俺は驚いた。華ちゃんは確か魔術レベルが4だったはずなので、そこらが関係しているのだろう。


「ということは、いままで手本がなかったからできなかった魔術も使えるかも?」


「試しにやってみたらどうだ?」


「いえ、ほとんどの魔術が攻撃魔術なのでさすがにここでは」


「そういえば、治癒系の魔法はどうなんだ? 華ちゃんはたしか賢者だったろ? 俺の知ってるゲームだと賢者は治癒系の魔法も使えたんだがな」


「だれも怪我していなかったのと、イメージもしっかりできなかったせいか、そういった魔術は使えませんでした」


「そういった機会はないに越したことはないが、もし、誰かがケガをしたときは華ちゃん頑張ってくれ。ヒールポーションがあるから華ちゃんが失敗しても大丈夫だからな」


「はい」


「それじゃあ、今のヘアードライヤー魔法で華ちゃんが自分の髪の毛を乾かしたら、髪の毛の長い順にみんなの頭を乾かしてやってくれ」


「わたしはそろそろ乾いたかな。

 みんな並んでくれれば、そこに温風を吹き付けるから一度に乾かせると思います」


「それはいい。

 みんな、頭のタオルを取って、背の高い順に並んでみろ」


 リサを先頭に子どもたちが並んだところで華ちゃんが温風を送り始めた。5人は一様に頭を自分でワシャワシャしている。


 俺は短髪なのでもう髪の毛は乾いている。なのでその並びから離れたところにいたのだが、少し離れた俺にも結構温かい上に強めの風が吹いてくる。これなら髪の毛もすぐ乾きそうだ。


「みんな後を向いて」と、華ちゃん。


 5人が後ろを向いて頭をワシャワシャし始めた。


 結局3分程で全員の髪の毛が乾いたようだ。


「みんな着替えて居間に集合。食事にいくぞ」


「「はーい」」「「はい」」



 俺は3分もかからず着替え終わり、居間で待っていたら、それから2分ほどでみんな着替えてきた。


「いつものように俺の手を持ってくれ」


 みんなが俺の手を持ったところで「転移!」



 先日食事したリサお勧めの店の近くに俺たちは転移し、そこから店の表に回って店の人に案内され、前回同様個室に通された。



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