第46話 進め! タートル号。2、サファリ気分。
オフロードもなんなく走れそうな自衛隊の車を手に入れたので、試走を兼ねてみんなでピクニックにいくことにした。
街の真ん中を車で走るわけにはいかないので、まずは転移で街の外に出て、そこから適当にドライブだ!
車に初めて乗るリサと子どもたちは酔ってしまうかもしれないが、酔ってしまってもヒールポーションを飲めばすぐ治るだろう。
「みんな準備はいいかー?」
適当な服を着て、靴さえ履いていれば十分なのだが、いちおう『準備はいいかー!』を様式美として定着しようと、ひと声かけておいた。
もちろん返事は「「はい!」」
「それじゃあ、みんなどっちの手でもいいから、俺の手を持ってくれ。まずは街の外まで転移して、そこからお楽しみのピクニックだ」
6人から手が伸ばされた。全員の手を確認して「転移!」
『転移』と、口に出したが、実際は、『て・ん・い』の『て』と『ん』の間には目の前が切り替わって、俺たちは街から南に続く街道の脇に立っていた。
街道の道幅は6メートルほどで、その街道の両脇も各々5メートルほど木々が伐採されている。街道の路面は突き固められた小石のようなものでできていて、馬車の轍のようなものがあるわけでもなく結構しっかりしている。興味があって手で触ったら、ザラザラと固く、一種のコンクリートのようなものだった。異世界のくせに生意気だ! とは言わないが、かなりの技術力だと思う。
街道上には馬車と人が行き来していたが、俺はあまり気にせず、タートル号をアイテムボックスから地面の上に取り出した。
「うわー。すごーい。カッコいー!」
「わたしたち、これの中に入るんですか? どこから入るんだろう? 後ろかな?」
「この黒い丸いのが車輪? あれっ、触ったら少しだけ柔らかかった」
自動車を初めて見たのだからいろいろ思うところもあるのだろう。
「じゃあ、みんな乗ってくれ」
そういったものの、華ちゃん以外車にどうやって乗ったらいいかわからない。
後ろの座席は、
「華ちゃん、後ろのドア?を開けてやってくれ。みんな乗り込んだら閉めてくれな」
後部座席の床の高さが1メートル近くあるので、みんな苦労してよじ登って、なんとかタートル号に乗り込んだ。
「華ちゃん、悪いがみんなにシートベルトの着け方を教えてやってくれ」
華ちゃんは助手席に乗り込んで座っていたが、いったん車から降りて、再度後ろのドア?を下げて、自分も後部座席に乗り込んで全員のシートベルトを着けてやった。
俺がエンジンを掛けたところで華ちゃんが助手席に乗り込み自分のシートベルトを締めた。俺もシートベルトを締めて、出発だ。
「それじゃあ、出発だ。車は揺れるから舌を噛まないようにな。それともし気持ちか悪くなったら早めに言えよ。ポーションを飲めばすぐ治るからな」
俺はブレーキを踏んでサイドを緩めギアをドライブに入れてブレーキを離してアクセルをゆっくり踏み込んで車を出した。なにせペーパードライバー、教習所以来の実車である。いちおうAT車だったことはラッキーだった。
少々ぶつかっても凹みそうもない車体だが、万が一、傷がついたとしてもどうせアイテムボックスに収納して錬金工房で作り直すだけなのでどうってことはない。怖いのは事故だけだ。少々の自爆事故程度ならこの車の中なら多分大丈夫と思うが、人や馬車にぶつかるのだけは避けたい所。
今のタートル号の速さは道の脇を揺れながら走っているのでまだ10キロほどだ。それでも子どもたちは「速い!」と感心していた。
ハンドルを切って街道にタートル号を乗り出す。車内が路面の凸凹に合わせて揺れると、子どもたちが「「キャー!」」と、騒ぐ。多分面白がっているんだろう。
ここいらの馬車は右側通行のようなので俺も基本的には右側を走ることにした。
街道に出たら、タートル号は異形の怪物だ。前を行く馬車が、音を立てて迫るタートル号に気づいたようだ。御者が大声で何か叫んだようだが馬車は急にスピードを上げた。とは言ってもせいぜい時速10キロちょっと。道行く人もタートル号を見て街道を外れて退避し始める。この調子だと街道の走行は無理だ。
「また揺れるけど街道は無理そうだから林の方にいってみよう」
俺はまたハンドルを切って街道の脇に乗り上げそのまま林に向かっていった。
地面の凸凹で車が跳ねるたびに子どもたちが大騒ぎする。これはこれで良かったのかもしれない。
小枝などは無視して林の中に分け入ってしばらくしたら荒れ地に出た。ここは神殿の私有地のはずだ。俺にとってはそんなことはどうでもいいので気にせずタートル号を走らせてやった。
「お菓子もあるから、適当にみんなで食べてくれ」
俺は、以前子どもたち用に買っておいたお菓子をビニール袋ごと華ちゃんの膝の上に出してやり、包装を破って後ろに回すように頼んだ。
「これがお菓子?」
「あっ! ここのこげ茶のところ、チョコだ!」
「ほんとだ」
「おいしい」
などと、子どもたちには好評だったようだ。華ちゃんは、お菓子から出たごみをお菓子の入っていたビニール袋に回収していった。
俺は荒れ地にタートル号を走らせ、たまに藪の中に突っ込んだりしてサービスしてやった。
「岩永さん、ここの南の方にダンジョンの入り口があるって神殿の人が言ってました」
「ダンジョンか。そのうちいってみてもいいかもな」
「神殿の兵士が出入口を見張っているそうです。
あと、この辺りには野生動物の他、ゴブリンがいました」
「ゴブリンか。やっぱり、ラノベなんかの描写通りだったか?」
「ラノベもアニメも見ないものでよくは分かりませんが、見た目は子どもくらいの大きさで青黒くてはっきり言って醜い生き物でした」
「例えば、あそこに2匹立ってる。あんな感じか?」
「あれは、ゴブリンです!」
「やっつけちゃっていいのかな?」
「攻撃的なので、向うから向かってきますよ。ほら」
「こん棒持ってこっちに向かってくる。と思ったが、おじけづいたか逃げ出したぞ。
こん棒で叩かれたくはないから、ひき殺してやろう」
「えー、ひき殺すんですか?」
「前からだとこん棒で叩かれる可能性があるが、逃げてる後ろから追突する分には安全だ。今がチャンスだ!」
俺はそう言ってアクセルを踏み込んだ。
タートル号は大きくバウンドしながらゴブリンたちを追っていく。
これぞ、ヒャッハーのだいご味。
あわやというところまで追い詰めたのだが、ゴブリンが木の陰に隠れてしまい、ひき殺すことはできなかった。林の中を逃げていくゴブリンは放っておいて、俺はいったんタートル号を止めた。
「意外とひき殺せないもんだな」
「岩永さん目が怖い」と、華ちゃんに言われてしまった。確かに、俺も興奮してサファリ気分になっていたようだ。
「かなり車が揺れたけど、後ろのみんなは気分はどうだ?」
「「大丈夫です!」」
元気いっぱいの声が返ってきた。初めての乗車で具合が悪くなるとクセになるとも言うから、よかった。これならこれからも車に酔うことはないだろう。
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