第36話 エアコン取付


 ハンバーガーセットをみんなで食べた翌日。


 朝食を食べながら、子どもたちとリサに、今日は特殊な作業員がやってきて屋敷で作業すると伝えておいた。


 それからしばらくして、俺はアパートに転移し、ホームセンターの作業員たちがやってくるのを待っていた。


 約束の10時の10分前。


 アパートを出て前の駐車場で待っていたら、間をおかずホームセンターのマークを付けた小型トラックが荷物を積んでやってきた。


「おはようございます。乗ったままでいてください」


 小型トラックから作業員が車から降りようとしたとことを止めて、


「本当は、こことは違う場所で作業してもらいたかったんです。

 すぐ先ですから」


 俺の言っている日本語は通じているだろうが、意味は正確には伝わっていないだろう。それは織り込み済みだ。


 いままで、人を転移する場合手を繋いでいたのだが、おじさん作業員と手をつなぎたくはない。幸い作業員二人は車の中だ。これなら車と一緒に転移できそうだ。


 やってみたら簡単に二人の作業員と荷物を乗せた小型トラックを屋敷に転移することが出来たので、俺も続いて転移した。


「作業してもらいたいのは、実はここなんです」


 車の中にいた二人はいきなり周囲に見えた物が切り替わったことで当惑しているようだが、ここは畳みかけてしまったほうがいいだろう。


「まずはエアコンを取り付けてもらいたいところに案内します。こっちにどうぞ。中は土足なので靴はそのままでいいですよ」


 玄関を入り、居間に二人を案内して、


「ここは居間なので大きい方のエアコンをお願いします」


 作業員の二人は不審ではあるようだが、頭の中で状況の折り合いをつけたようで、


「了解しました。

 電源は? あれ? これが電源ですか?」


「壁の中にコードを這わせられなかったので、こうなってます」


「あまりお勧めできませんが、仕方ないですね。コードの太さ自体は問題ありません」


 俺は作業員たちが作業用の工具を運んでいる間にエンジン発電機を起動しておいた。エアコン本体はまだ軽トラックの荷台の上にあったので、コピーする気になればコピーできたが、とても一人でエアコンの設置などできそうになかったのでコピーはやめておいた。


 穴あけ機が回転しながらジャーと結構大きな音を立てて壁に孔を開ける。その音に驚いた子どもたちがやってきて作業を見物し始めた。


「200Vのエアコンですからアースはあった方がいいと思いますがどうします?」


「すぐに付けられるんですか?」


「アース棒を地面に打ち込んで、アース線を引くだけですからすぐにできますよ。地面が硬すぎてアース棒が刺さらないようだと掘り返さなければいけませんが、室外機を置いた辺りだと問題なく刺さりそうです」


「それじゃあ、お願いします」


 そういうことでアースもお願いしておいた。


 作業員は小型トラックの中から1メートル弱の金属の棒とハンマーを持ってきて、室外機の脇の地面にその棒を打ち込み、コードを取り付けた上にキャップを被せ、エアコン用に空けた孔からコードを居間に引き込んでエアコンのコードから出ていたアース端子に繋げてしまった。


「アースはこんなところです。

 次の設置個所は?」


「こんどは食堂です。こっちです」


 ……。


「そして、2階の私の部屋、こっちです」


 ……。


 子どもたちに見守られながら二人の作業員はテキパキと作業して1時間半ほどでエアコンの取付工事を終わらせてしまった。


 1台設置が終わるたびに試運転して様子を見ているがエアコンは快調に涼しい風と暖かい風を吹き出してくれた。


「作業終了です。今回の作業ではアース棒1本で2000円、補強板を3枚使いましたので、3000円、それに消費税で、実費として5500円お願いします」


 俺がキッチリお金を払い、領収書を受け取った。


「それじゃあ、お送りしますから、車に戻ってください」


「あのう、ここっていったいどこなんですか?」


「夢の世界だと思っててください。

 また何かあれば仕事をお願いするのでその時はよろしく」


「こちらこそご用命よろしくお願いします」


 二人の作業員が軽トラックの座席に着いたところで、アパート前に転移させた。俺も一緒に転移して、


「それじゃあ」そう言って、手を振ったら、車の中から作業員の二人が軽く頭を下げ、すぐに車はやってきた道を引き返していった。



 作業員の乗った車を見送った俺は、エアコンについてみんなに説明してやるため、すぐに屋敷に転移した。


「俺もこの地方にやって来て日が浅いんでよくわからないんだが、この地方に夏とか春とかあるのか?」


 まずは季節の確認をすることにした。居間の隅に暖炉らしきものはあるので、冬はあるような気はするのだが。


「夏は暑くなるし、冬は寒くなります」


「私は春が一番好き」


「わたしも春。夏は暑いからイヤ。冬は寒いからもっとイヤ」


「私は秋。おいしいものが沢山食べられるから」


 四季があるようで何より。


「それじゃあ今の季節は何なんだ?」


「今は6月だからもうすぐ暑い夏が始まります」


 そもそも俺はこの世界のカレンダーとか知らなかったのだ。


「確認したいんだが、1年は何カ月あるんだ?」


「12カ月で1カ月は30日です。あと12月の終わりに5日から6日お休みの日が入って新年になります」


 なんだ、地球と同じじゃないか。にしむくさむらい・・・・・・・・とか覚えなくて済むところは便利だな。


「だいたいのことは分かった。

 それじゃあ、今日よそから人が入って作業してこの機械を壁に取り付けたんだが、この機械はエアコンというんだ」


「「エアコン?」」


「そう、エアコン。それでだな。この機械の設定を夏用にすれば、ここから冷たい風が吹きでてくる。今は閉まってるが、動き出すと勝手に開く。

 冬になって冬用の設定をすると、ここから暖かい風が吹きでてくる。

 どっちも窓とか扉を閉めてから動かさないと、せっかくの風が無駄になるからな。

 あと台所と俺の部屋にエアコンを取り付けた。これで夏冬、いくらか過ごしやすくなるだろう」


 俺はエアコンのコントローラーを取り出して、


「これが、設定用の機械だ。表示なんかもお前たちには読めないだろうし、エアコンを動かす前に外の物置小屋の中に置いてある機械を動かさないといけないから、当面は俺が動かすからな」


「ご主人さま、そろそろ昼だと思いますが、用意しますね」と、リサが聞いてきた。


「ああそうだな」


「用意はすぐ終わりますから食堂でお持ちください。

 エヴァたちは料理を運ぶの手伝って」


「「はーい」」



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