第60話 まだまだ夜は終わらない

 どうにかこうにか肝試しも終えて、ロッジの前で高橋さん、衛太、いつの間にか先に戻っていたらしい一葉と合流し。


「やっぱり、肝試しっていっても大したことはなかったねー」


「うん、まぁ、うん……」


 あくまでそのスタンスを貫く唯華に、俺はくしゃくしゃになった己の服の裾にチラリと目を向けながら半笑いを浮かべていた。


「………………」


 そんな俺の肩に無言でポンと手を置くのは、微苦笑を浮かべる衛太。

 どうやら、俺の気持ちをわかってくれているらしい。


「ちなみに、そっちはどうだった?」


「なーんもなかった。心霊的なもんは……な」


 尋ねると、微妙に引っ掛かる言い方が返ってきた。妙に疲れた顔なのも少し気になる。


「心霊的なもの以外は何かあったってことか?」


「高橋さんが『こっちの方から幽霊の気配がする気がしますっ』とか言ってすぐ茂みを掻き分けながら道なき道を行こうとするから、毎回止める苦労的なのがな……」


「初めて散歩に出た子犬かな?」


「秀一っちゃん、その言い方はちょっと」


「っと悪い。失礼だったよな」


「子犬の方が、まだ素直に言うこと聞いてくれるぜ?」


「子犬サイドへの失礼だったかー」


 なんて、衛太と益体もない話をしていたら。


「さってと! 肝試しもこなしたところで!」


 当の高橋さんが、パンッと手を打った。

 肝試しも終えて、ロッジに戻ってそろそろ休むのか……と思った俺に目を向けて、高橋さんはニヤリと笑った。


「夜は、まだまだ終わりませんよー?」


 どうやら、考えていることが顔に出ていたらしい。


「夏といえば、これも欠かせませんもんね!」


 いつの間にか手にしていたリュックから高橋さんが取り出したのは……。


「花火です!」



   ♠   ♠   ♠



 というわけで。


「いぇーい! 二刀流でーす!」


「なんの、オレは八刀流!」


「わっ、凄いです久世くん! 全部の指の間に挟んでるー!」


「花火同士が接触する可能性があって危険だから、良い子も悪い子も真似しちゃ駄目だぜっ! オレは特殊な訓練を受けています!」


「次、ドラゴン花火並べて一気に点けてきましょ! めっちゃ買ってあるんで!」


「おっ、いいねぇ! ナイヤガラ作っちまうか!」


 なんて、高橋さんと衛太がはしゃぐ横で。


「この絶妙な躍動感、いつまでも見ていられますね……」


 一葉はさっきから延々ヘビ花火を眺めてるんだけど、面白いんだろうか……いや、楽しんでるんなら良いんだけどね……。


 尤も。


「なんか、線香花火って見てると落ち着くよな……」


「わかるー……」


 静かに線香花火を見つめてそんなことを呟いている俺と唯華も、傍から見れば似たようなもんかもしれないけど。


「火、分けてね」


「あんま線香花火でやらなくないかそれ……」


 俺が持つ火の点いた線香花火の先端に、唯華が新しい線香花火を近づける……と。


『あっ、くっついた』


 二つの線香花火がくっついて、倍の勢いで火花を放ち始めた。


「一つになったな」


「おっきくて激しいねー」


 微妙に線香花火らしからぬその光景に、二人で苦笑する。


 それはそうと……下手に動かすと、火が落ちてしまいそうで。

 手が触れ合う距離でじっとしているのが、少しだけ緊張した。



   ◆   ◆   ◆



 エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!


 あっあっ、エッチです……!

 エッチッチ花火打ち上がってます……!


 「一つになった」とか「おっきくて激しい」とか、それはもう隠語を通り越して淫語!


 さっきのとこ、ピーッ音入れなくて大丈夫ですか!?

 これ、生でヤって大丈夫なやつです!?


 あっ、今の『生』はもちろん生放送のことで他意はございませんよ!






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