第47話 夏休み開始
「いやー、終わった終わった!」
終業式を終えての帰宅直後、唯華は晴れやかな表情で鞄を置いた。
「別に学校も嫌いじゃないけど、やっぱり夏休みは解放感が凄いね!」
「だな」
厳密には夏休みは明日からなわけだけど、まぁ実質もう開始だよな。
「さて、それじゃ早速……」
「あぁ」
視線を向けてくる唯華と、頷き合う。
「宿題を始めるか」
「リセマラしよっと!」
そして、同時に別々のことを言った。
「秀くん相変わらず真面目だねー」
感心半分、揶揄半分といった調子の唯華。
「早めに終わらせとかないと落ち着かないんだよ……」
「そういう意味では、リセマラが残ってる方が落ち着かなくない? いつゲーム本編を始められるのか、この作業に掛かってるんだよ?」
「そもそも俺はリセマラしない派だから……」
思わず苦笑が漏れる。
まぁ、唯華のことだ。
宿題を最終日まで残して泣きを見るようなこともないだろうし、好きにすれば良いと思うけど。
……そういう意味では、早めに衛太と高橋さんの状況はキャッチアップしておいた方が良いかもな。
最終日に手伝わされるとか、冗談じゃないぞ……。
◆ ◆ ◆
間に夕食とかの休憩も挟みつつ、俺は宿題を片付け、唯華はゲームに没頭する時間が続いた。
こうして全く別々のことをしてても特に気まずくなるようなこともないし、むしろ心地よい空気感だ。
隣に相手がいるだけで、なんだか安心できるような気分。
「……ふぅ」
きりの良いとこで顔を上げると、もう割りと良い時間だった。
「俺、もう風呂入って寝るよ」
「はいはーい、私はもうちょい粘るー」
「程ほどにな」
「ほいほーい」
返事する時だけ顔を上げる唯華にまた少し苦笑しつつ、俺は風呂場へと向かうのだった。
◆ ◆ ◆
そして翌日。
今日から正式に、夏休みが開始……とはいえ俺は大体いつも通りの時間に起きてきたんだけど、唯華はまだ寝てるみたいだ。
きっと、昨日あの後も夜更ししてたんだろう。
一回スイッチが入ると、気が済むまでやり続けるところがあるからな……。
「ふわぁ……おはよ、秀くん」
なんて思っていたところに、ちょうど唯華が部屋から出てきた。
「おはよ……う!?」
眠そうな挨拶に微苦笑と共に振り返った瞬間、俺は慌てて首を戻す。
「んんっ……? 秀くん、どうかしたぁ……?」
まだ寝ぼけ気味なのか、その声はいつもより少しトロンとした調子だった。
それはいいんだけど、さっき見えたTシャツ姿の唯華は汗だくで……。
「その、色々と
「へぁ……?」
ポカンとした感じの声。
「……あぁ」
それが、ようやくいつもの調子に戻った。
「私、寝る時はエアコン付けない派だからねー」
「それは知ってるけど……」
「ていうか秀くん、これくらいなら前にも見たんだしそんな慌てなくても」
「一回見たら次からセーフとか、そういうシステムじゃないだろ……!?」
「それに……
今度は、声に艶っぽさが宿って聞こえて。
朝っぱらから、妙な気分になりそうだった。
「……いいから、シャワー浴びて着替えなって。風邪引くぞ?」
密かに深呼吸を一つ挟んだ後、どうにか平静な声で言えたと思う。
「ふふっ、そうする」
イタズラっぽい響きを残し、唯華が浴室の方へと消えていく。
「……ふぅ」
そこでようやく俺は、いつの間にか強張っていた身体を弛緩させることが出来た。
この季節、薄着になるし出会い頭は気をつけないといけないかもな……。
◆ ◆ ◆
◆ ◆ ◆
「……ふぅ」
脱衣所で、私は小さく息を吐く。
そして。
「やらかしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
秀くんに聞こえないよう小さめな声で叫び、頭を抱えた。
まぁ、どうにか動揺を表に出さずに済んだのは我ながらグッジョブったけども……!
今、自分の顔が真っ赤になっちゃってるのがわかるもん……!
あぁもう、ていうかこれめっちゃ油断してる時の下着じゃん……!
見せるなら見せるで、もっと可愛いのとかセクシーなのにしたかったのにぃ……!
夏休みだからって、完っ全に気が緩んでたよね……!
見せるなら、ちゃんと見せよう、ラッキースケベ。
これを、この夏の標語にしよう!
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ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
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WEB版に関しましては、次回以降また週一ペースで投稿していくつもりでおります。
引き続き、何卒よろしくお願い致します。
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